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[寄稿]終戦宣言、杞憂と懐疑論を越えて

登録:2021-12-06 00:43 修正:2021-12-06 07:35
ムン・ジョンインㅣ世宗研究所理事長 
終戦宣言によって平和に向かう道がさらに複雑になると懸念しているのか。しかし、まだ進んだことのない道への恐怖のあまり一歩も踏み出せないなら、何も変わらない。70年間続いた戦争の終結を目指す宣言は常識であり、当為である。そして、我々はこれを十分成し遂げられる力と体制を持っている。朝鮮半島の若者たちに核兵器と永遠に続く戦争を遺産として残すわけにはいかない
文在寅大統領が今年9月、空軍1号機に乗って帰国する際、機内で同行した記者団に終戦宣言などの懸案について説明している/聯合ニュース

 今年9月21日(現地時間)、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が国連総会の演説で終戦宣言に対する国際社会の支持を訴えて以来、韓国政府は任期末のあらゆる外交力をこの問題に集中している。11月26日、キム・ブギョム首相は「終戦宣言は、朝鮮半島で生きてきたすべての人々の念願である平和のために決して諦められない目標」だと強調し、アジア欧州会合(ASEM)加盟国の支持を要請した。イ・イニョン統一部長官も最近、「終戦宣言は南北米が互いに敵対と対決の姿勢を捨てて、平和に向けた信頼を形成し、対話を始められる有用な措置」だと表明した。

 しかし、内外で終戦宣言に対する視線はかなり冷ややかで否定的だ。「終戦宣言という紙一枚で何が変わるのか」という皮肉と、北朝鮮の非核化が終わって真の平和が始まる朝鮮半島平和プロセスの出口で採択されるべきだという出口論が代表的な例だ。終戦宣言が現状変更をもたらし、朝鮮半島の安全保障上の脅威を拡大させる恐れがあるという懸念の声もあがっている。国連司令部の解体や在韓米軍の撤退、韓米合同演習および演習の中止などにつながる可能性があるという悲観論だ。

 現実的には、関連国と十分な事前協議なしに無理に推し進めているという指摘もある。「二重基準(ダブルスタンダード)」と「敵視政策」の撤回を対話復帰の前提条件に掲げる北朝鮮や、表面的には終戦宣言を支持するが実際は懐疑的な米国、傍観者の姿勢を見せる中国、時期尚早論を展開する日本の立場を考えればなおさらだという。時期も問題視されている。現政府の任期が残り5カ月で、大統領選挙が3カ月後に迫った今、朝鮮半島政策の方向性を決める終戦宣言を打ち出すことで、次期政府に負担を与えてはならないという主張だ。

 このような指摘と批判にはそれなりに一理あるものの、過度な懸念に見える部分も少なくない。まず宣言の性格だ。文在寅政権が提案する終戦宣言は、戦争が終わったことを確認(confirm)するのではなく、70年以上の戦争を終わらせなければならないという意志を表明(affirm)する性格に近い。このような努力は紙1枚で終わるものではない。これを通じて、現在の膠着状態を覆し、信頼を構築するとともに、非核化の突破口を開こうというものだ。誰も一歩も動こうとしない膠着局面で、終戦宣言入口論が当為性をもつのもそのためだ。

 現状変更に対する懸念をみてみよう。むろん終戦宣言は、現在の準戦争状態に終止符を打ち、恒久的平和に進もうとする現状変更の呼び水だ。しかし、文大統領がすでに明らかにしたように、終戦宣言が国連軍司令部の解体や在韓米軍の撤退撤収、韓米合同軍事演習の中止につながるものではない。これらは、それぞれ韓国の主権的決定事項であり、北朝鮮がこれを主張してきたことは昨日今日のことではなく、終戦宣言が成立したとしても、このような構造はすぐには変わらない。むしろ韓国政府は、同盟と安全保障構造の枠組みを維持しつつ、敵対関係を改善し、北朝鮮の非核化を後押しする出発点として終戦宣言を捉えている。終戦宣言は平和プロセスという長い道のりの慎重な第一歩に過ぎない。それだけ難しい交渉になることは明らかだが、終戦宣言によって安全保障上の脅威が拡大すると断言するのは、行き過ぎた主張だと言わざるを得ない。

 環境に対する分析も同じだ。北朝鮮が掲げる前提条件はすでに決まっている。しかし、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が最近残した前向きな言及を振り返れば、北朝鮮も終戦宣言がそのような条件を実現させる万能鍵ではないことをよく知っている。「永遠に続く戦争」を望まない限り、米国にも終戦宣言は十分考慮に値するオプションだ。当事国として参加を当然視してきた中国には反対する理由がない。日本とは十分な協議が必要だが、終戦宣言の実質的な当事者ではないため、大きな変動要因とは言えない。

 今が適切な時期なのかと、懐疑論者は問う。しかし、時期尚早ではなく、「晩時之嘆(時期を逸したという後悔の嘆き)」である。近くは2018年に成し遂げるべきだったし、遠くは約30年前の冷戦の解体期に進められるべきだった。残りの任期があまりないとの理由で、朝鮮半島の平和の突破口を見いだす外交的努力すらもしないならば、憲法的義務に背を向ける職務遺棄にすぎない。次期政権のため、朝鮮半島政策の方向性を決めるような動きは慎むべきだという主張も、平和と安全保障を政争の具にする国内政治用のフレームと言える。

 終戦宣言によって平和に向かう道がさらに複雑になると懸念しているのか。しかし、まだ進んだことのない道への恐怖のあまり一歩も踏み出せないなら、何も変わらない。70年間続いた戦争の終結を目指す宣言は常識であり、当為である。そして、我々はこれを十分成し遂げられる力と体制を持っている。朝鮮半島の若者たちに核兵器と永遠に続く戦争を遺産として残すわけにはいかない。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンインㅣ世宗研究所理事長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1022061.html韓国語原文入力:2021-12-05 19:07
訳H.J(

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