勝者が独り占めする大統領選挙は賭場に似ているところがある。最後までついていった2位が最も多くを失う。敗北の責任を一人で背負って歴史の罪人におとしめられるのだ。
イ・フェチャン元総裁、チョン・ドンヨン元議長は成功した政治家だ。政治の世界に入って投資したものより多くの補償を受け取った。にもかかわらず失敗した政治家のように映るのは、大統領選挙で負けたからだ。
二人は与党の候補だった。任期5年の大統領制において、与党の候補が大統領の恩恵にあずかるのは不可能だ。差別化の誘惑に陥りうる。しかし、差別化したイ・フェチャン、チョン・ドンヨン両候補は負け、差別化しなかった盧武鉉(ノ・ムヒョン)、朴槿恵(パク・クネ)候補は勝った。想像と現実はしばしば相反するのだ。
今、韓国で最も困難にある政治家は、共に民主党のイ・ジェミョン候補だろう。10月10日に候補となったが、1カ月以上も無為に歳月を送った。国民の力のユン・ソクヨル候補との差が広がったことで、突如として反応した。
「不動産問題、若者と住宅を持たない庶民の苦しみを深めたこと」を謝罪した。「国民の批判を謙虚に受け止めず、自分に甘く他人に厳しい姿勢をとって他人のせいにしたり、『全世界的な現象』と述べたりするなど、外部条件に責任を転嫁しようとしたこと」を反省した。
正しい態度だ。だが口だけではだめだ。民主党と選挙対策委員会を刷新、革新しなければならない。容易ではないだろう。次の2つの条件のためだ。
第1に、権力闘争の経験がない。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領の2012年の失敗と2017年の成功の間には、2015年の党大会があった。代表として臨んだ熾烈な党内闘争の経験は、そのまま文在寅大統領の政治的養分となった。大統領候補は、時として面の皮が厚く残酷でなければならない。
第2に、「イ・ジェミョンの人々」がいない。
2012年と2017年の文在寅候補には、盧武鉉大統領府で訓練を受けた精鋭の参謀が多かった。今、イ・ジェミョン候補にはそのような人材がいない。民主党の空を飛び地をはう選挙専門家たちはみな「親盧-親文」だ。どうすべきか。
2002年の大統領選挙を前にした盧武鉉候補の境遇は、今のイ・ジェミョン候補と似ていた。盧武鉉財団が編纂した死後の自叙伝『運命だ』には、次のようにある。
「党内には異様な空気が流れていた。金大中(キム・デジュン)大統領の人気が地に落ちた状況を克服するには、何か特段の対策が必要だという主張だった。いわゆる差別化戦略を取ろうというのだった。私は、国民の政府と金大中大統領の資産と負債をすべて継承するという立場を明らかにした以上、そのような政治ショーは正しくもなく、必要でもないと述べた。金大中大統領は国政に専念するという意思を明らかにしつつ、民主党を離党した。金大中大統領は選出されたばかりの候補と民主党に負担をかけたくなかったのだ」
次のような部分もある。
「1987年以降、大統領はみな任期後半には人気がなかった。与党の大統領候補たちは大統領と差別化する選挙選略を取った。大統領たちは与党を離党した。盧泰愚(ノ・テウ)大統領と金泳三(キム・ヨンサム)大統領に続き、金大中大統領もそうなった。責任政治の原理に反する非常に悪い慣行だ。私は絶対にそんなことはしないと心に決めた。しかし私もそうなってしまった。悲劇だ」
盧武鉉候補が金大中大統領との差別化を拒否できたのは、金大中大統領とあまりにも違っていたからだった。世代も違い、故郷も違い、スタイルも違った。盧武鉉という政治家の存在そのものが差別化だった。
今の文在寅大統領とイ・ジェミョン候補も然りだ。文在寅大統領は1953年生まれ、イ・ジェミョン候補は1964年生まれだ。文在寅大統領は釜山(プサン)出身で、イ・ジェミョン候補は慶尚北道安東(アンドン)出身だ。文在寅大統領は守備型リーダーシップであり、イ・ジェミョン候補は攻撃型リーダーシップだ。
だからこそだ。イ・ジェミョン候補は文在寅大統領を果敢に乗り越えなければならない。差別化するのではなく克服しなければならない。英語のビヨンド(beyond)とは「その向こう」という意味だ。イ・ジェミョン候補は「文在寅大統領の向こう」へと向かって駆け抜けるべきなのだ。
文在寅大統領よりもうまくやれるということを証明しなければならないのだ。不動産政策の失敗、青年雇用政策の失敗など、文在寅大統領の失政については一層深く頭を下げるべきだ。必要だと判断すれば、政策路線の果敢な修正も躊躇してはならない。
勢力対勢力、党対党の対決構図となれば、民主党が勝つことは難しい。政権交代の世論が強すぎるからだ。人物対人物対決の構図となれば、イ・ジェミョン候補に機会が訪れる可能性がある。結局のところ、大統領選挙とは向こう5年間の国政の担い手を選ぶ民主主義の祭りだからだ。
ソン・ハニョン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )