私はすべての地方公務員がこの本を読んで、考えてもらえたらと思います。
これまで「地団駄を踏む」という表現が似合うほどに心血を注いで推進してきた「人口増加」の試みが失敗した理由は何であり、それぞれ自分が受け持つ分野でできる「帰郷親和的」な事業は何であるかについてです。錦衣還郷がなくなり、素朴な帰郷が私たちの周りでなじんだ風景になることを願います。
韓国には「錦衣還郷イデオロギー」というのがあります。「錦衣還郷」は「絹の服を着て故郷に帰ってくる」という意味で、ソウルに行って出世した後に誇らしげにこれ見よがしに故郷に帰ってくるという言葉です。「イデオロギー」という言葉の乱発ではないかという反論もありますが、これまで韓国社会を動かしてきた思想や意識の中のどのイデオロギーよりもはるかに強力だった左右統合のイデオロギーが、すなわちこの「錦衣還郷」というのが私の考えです。
小説家のイ・ホチョル氏が東亜日報で『ソウルは満員だ』という小説を連載して大人気を博した1966年のソウルの人口は380万人でした。いま私が暮らしている全羅北道の人口は当時252万人でした。これまでの韓国の人口増加率を考慮して換算してみれば、今の全羅北道の人口は440万人台にならなければならないのですが、現在は180万人台に縮こまり、今でもずっと縮こまり続けています。「減る」や「減少する」という単語では実感しにくいと考え、「縮こまる」という言葉を使っています。
もちろん、出郷のためです。これは首都圏を除く全国にわたって起きた現象です。一度出郷した人は、めったに故郷に戻りません。過去半世紀が経過して富・権力・文化のソウル集中は加速化したので、自らソウルを去るということは「階級降等」を伴う「落郷」の意味が強いからです。例外があるならば、錦衣還郷です。 いわゆる「小川から出た竜」(低い身分から出世する人物が現れることの例え)が小川に帰ってくるときは、主に自分の故郷の国会議員や地方自治体長になるためです。地方の人々は、ソウルで出世してソウルの権力の中心部で人脈を作った人を選ぶことが地域の発展に有利だと考えており、これを看破した政党はそのような公認を選ぶことで錦衣還郷の慣行は持続されます。
私は錦衣還郷を批判しようとするのではありません。錦衣還郷は出世した竜だけが持つ夢ではなく、すべての出郷民の夢です。彼らが出郷する時に持った固い覚悟とこれを実践するために注いだ「汗、涙、血」が今日の韓国を作ったことは決して否認することはできません。皆がよい意味で行なったことですが、意図しなかった結果により「地方消滅」とそれに伴う「国家破綻」の暗い影が差している現実について、私たち皆で考えてみようというものです。
普段このようなことを考えてきた私としては、中央大学のマ・ガンレ教授が最近出版した『ベビーブーマーが去れば皆が生きる:青年と地方を活かす帰郷プロジェクト』という本は、この上なく嬉しいものでした。マ教授はすでに『地方都市殺生簿』(2017)と『地方分権が地方を滅ぼす』(2018)という本を通じて、「地方活性」がすなわち「国を活かす」であることを力説して実践的代案を提示しており、この本はそのような問題意識を一段階発展させたものです。
ベビーブーム世代は第1次ベビーブーム(1955~1963年生まれ)と第2次ベビーブーム(1968~1974年生まれ)に分けることができますが、これらの間に挟まれた4年間に生まれた人まで合わせれば、計1685万人に達します。このうち帰郷が相当な規模で行われれば、ソウルの人口過密を緩和して住宅問題もかなり解決することができ、地方の生存にも大きな助けになります。
実際に帰郷を願う人は半分以上になるほど多いにもかかわらず帰郷を行動に移すことができない理由は、錦衣還郷をすることができない物的条件のためです。「ソウル不動産大儲け」への未練、譲渡所得税や贈与税の心配、そして帰郷してできることの相対的希少性などが最も大きな問題です。 医療問題やこれまでソウルで結んだ人間関係が弱まる問題、そして夫婦の故郷が違う場合、一方が疎外される問題もあります。
さらに、地方が帰郷を歓迎するのかという問題まであります。マ教授は「もうすぐ老人になるベビーブーム世代に地方へ行けと?地方は相変わらず『カモ』だというのか?」という話まで聞いたそうです。ほとんど死にかかっていながらもまだ正気になれていないとでも言うべきでしょうか。マ教授は「初めてまともな教育を受けて、自由化と民主化を導き、経済的に成功した経験」を持ったベビーブーム世代は今の高齢者とはあまりにも違うという点を強調し、それなりの具体的な「帰郷プロジェクト」案を提示します。
私はすべての地方公務員がこの本を読んで考えてもらえたらと思います。これまで「地団駄を踏む」という表現が似合うほどに心血を注いで推進してきた「人口増加」の試みが失敗した理由は何であり、それぞれ自分が受け持つ分野でできる「帰郷親和的」な事業は何であるかについてです。錦衣還郷がなくなり、素朴な帰郷が私たちの周りでなじんだ風景になることを願います。
カン・ジュンマン全北大学新聞放送学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )