本文に移動

[朴露子ハンギョレブログより] ギリシャ断想:怒りと挫折を乗り越えて

http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/51416

原文入力:2012/08/17 10:11(3319字)

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学

 私は今このポストを、高度約10キロの上空で、下にブルガリアとハンガリー、ポーランドの領土を通過しながら書いています。何日間かの休養のため子供と一緒にギリシャのクレタ島で休んで、またオスロに帰るところです。私にとっては夢のような古代文明の遺跡地巡りでしたが、クレタ島に住む人々には今の暮らしは何と言おうが夢というより悪夢のようなものなので、今も申し訳ない気持ちでいっぱいです。1930年代初頭の大恐慌以来の最悪の災いを迎えている人々を眺めながら心安らぐ休息などできるはずもありません。私はギリシャを訪れて、実は10才の息子にB.C.2000~1400年未のミノア文明について案内をしようと思いました。私は小さい頃からミノア文明について学んできたため、クノッソスにあるミノア時代の宮殿の廃墟へ行っても初めてのような気がせず、目を瞑っても歩けるほど親しみのある場所です。ところが、今回の旅は息子にとって古代史の授業になったというより、不平等と恐慌、怒りと絶望と挫折についての授業になったようです。まあ、資本主義が次第に壊れていく最近の状況では、この方がむしろ時宜を得ていたかもしれません。

 授業は飛行機で始まり飛行機で終わります。クレタ島の首府ヘラクレイオン市に向かうノルウェー国籍の飛行機はノルウェー人でいっぱいになっても、ギリシャ人はほとんどいないように見えます。今乗っているオスロ行きの飛行機もそうですが、6日前に乗ったオスロ発の飛行機も同じでした。乗客たちの言語などからはほとんどがノルウェー人であることがわかります。恐慌にもかかわらず、相変らず2~3%の成長を誇る核心部の産油国ノルウェーの中産層は南欧へのバカンスを続けています。しかし、南欧人、中でも特にギリシャ人には「海外バカンス」は最早ほとんど存在しない概念になりました。一部の中産層と最高の上流層を除けばです。ところで、ギリシャの最高の上流層は―他の多くの周辺部、準周辺部の国々と同じく―ギリシャ語ではなく英語を日常で使い、アテネではなくロンドンやニューヨークに居住しています。彼らを除いた大多数のギリシャ人には「海外行き」は旅行ではなく移民を意味します。最近、年に約7~8万人が永遠に故郷を離れてドイツやオーストラリアなどの核心部の国に厨房労働者、ウエーター、清掃労働者などといった低賃金労働力として行き、その列は増え続ける一方です。その多く(約55%)が職にありつけないギリシャの若者たちの夢とは、革命か移民、もしくはその両方です。ギリシャがヨーロッパで最も貧しい周辺部の一つだった40~60年代の状況がそのまま再現されているような既視感を覚えます。ギリシャを一時期「発展」させたかに見えた資本主義は、結局ギリシャ現代史の時計を戻してしまいました。

 私と話を交わした人々はみんな彼らが苛まれている恐ろしい災い―未曽有の失業、急に貧民になった子供たちが学校で授業中にお腹がすいて気絶する事態、病院で薬物不足で死んで行く患者たち―の真の理由を驚くほどよく熟知しているようでした。弱小国ギリシャの脆弱な製造業に対する保護関税と補助金支給などを不可能にさせ、ドイツなどの輸入品の円滑な流通のために国産を枯死させたEUへの加入、適切なインフレー政策による景気浮揚を不可能にしたユーロ圏加入、手軽にお金を儲けるつもりで様々な国際銀行が先を争って競争的にギリシャに供与した借款など、そして償還能力のない国に「救済金融」という美名の下にさらに新たな借款を強要するように与え、救済不能に陥れているEUと国際通貨基金の犯罪的な政策。皆が口を揃えて「国際銀行たちが私たちをレモンのように絞り出している」、「いくら稼いでもどうせすべて借款の償還時の利子などで飛んでしまい、私たちは永遠に貧民のままだ」、「EUと国際銀行の事業家たちは私たちを事実上掠奪している」、このような話ばかりでした。移民者のせいにしたり、たとえばドイツ銀行たちではなくドイツ人すべてのせいにすることはまったく見られませんでした。必ずしもマルクス主義的な用語で表現などできないにしても、ギリシャのようなEUの周辺部の国々が結局はEUの中心にある列強たちの大資本の蓄積過程で利用され、今はその蓄積のツケを代わりに払っているということをみんな直感しているというのです。これはテレビや保守系日刊紙などの内容とはかなり異なりますが、それだけメデシアを通じた上からの洗脳がその限界を露出していることでもあります。壊れて行く世界で上からの嘘などは従来のようには通じません。

 それなら何故に今回の危機の最も急進的な解決方法、すなわちEUからの完全な脱退と製造業などの働き口の創出が可能な国家の支援の下での計画的な経済発展のビジョンを提案するギリシャ共産党の支持率がなかなか11~12%以上に上がらないのでしょうか。「シリザ」などの共産党よりやや右側ではあるものの、それなりに急進的な左翼グループたちも含めて、急進左翼は約40%まで支持を得ているとはいえ、どうしてそれ以上には行かないのかを自問してみる必要があります。新自由主義的な資本主義がギリシャで既に想像を絶する災いをもたらしたにもかかわらずです。私も深くは分かりませんが、私の感じではこうです。組織労働者たちと失業に最も露出している若者たちは急進左翼を支持しやすいですが、少しでも財産やある程度の蓄えをを持っている中小ブルジョアや自営業者、中間管理者などはEUからの脱退のような、まさに革命的な措置などはかなり怖く感じられるようです。そうなってしまえば、今はユーロになっている私の預金は価値が半分に減ってしまうのではないか、私の不動産価格が急激に下落するのではないか、ヨーロッパの観光客たちがもう来なくなり、国民総生産(GNP)の約17%を占めている観光産業からだめになってしまうのではないか、様々な恐怖感を抱いているということです。約20~30年前からある程度「豊かになって」きたものの、今は再び下落曲線に乗ってしまった弱小国の市民たちとしては、すぐには革命的な措置に同意することは難しいということです。それでも名目経済指標などがそれなりに成長してきた過去何十年間の貯金もあって、「すべて」を失ってしまうのではないかと恐れているのです。

 ところが、危機が深まっていくにつれ、この躊躇い、「それでもそれなりに成長してきた」国の沒落中の中産層たちの保守的な恐怖心は自然に克服されていくでしょう。今はまだ一部のギリシャ人たちの間にEUに対する一縷の望みが残っているものの、不況の沼がこれから何年間さらに深まり、実質所得がさらに減少し、EUと国際銀行家たちの要求が益々非現実的なものになっていけば、多数が結局は挫折と怒りの終りを見ることになり、挫折と怒りを乗り越えて新しい希望を見出すことでしょう。今までギリシャが体験してきた資本主義とは異なる社会経済的なモデルに対する希望なのです。もちろん資本主義的な幻想から脱しようとする、ギリシャが今歩んでいる道はとても辛い道のりです。しかし、利潤追求的なシステムが多数に安定的で豊かな暮らしをもたらしてくれるという過去何世紀にもわたる最悪の嘘の実体を見るためには、このような苦しみは歴史的な必然のようです。さて、韓国の輸出主導の経済モデルが内破する時、私たち民の感じる苦しみはおそらく―形だけであれ、それなりに福祉制度の存在する―ギリシャに比べて遥かに凄まじいものになることでしょう。韓国資本主義の不敗神話を信じている人々はこれがどんなにとんでもない勘違いなのかが結局は確かに分かるでしょうが、その覚醒のために社会の支払う対価はとても大きいと思います。

原文: 訳J.S