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【時論】 医師協会が沈黙している直視したくない真実’

記事登録:2012.06.18 19:24(1584字)

←キム・ユン ソウル大医学部医療管理学教室教授

 医師協会が“手術拒否”という極端なカードを持ち出した。 7月から包括酬価制が施行されれば重症患者をまともに診療できないためだという。 患者が受けた検査・投薬などに関係なく疾病別に定額診療費を病院に支給するので、多くの費用がかかる重症患者を忌避することになるという。 それで患者1人1人の生命を大切にする医師としては、包括酬価制を拒否せざるをえないという。

 筆者は患者の生命を大切にするがために“手術拒否”をせざるをえないという医師協会執行部の言葉を信じたい。 だが信じることはできない。 なぜならば、医師協会は多くの患者が苦しんでいる医療事故の背後に行為別酬価制があるという事実には沈黙しているからだ。

 行為別酬価制は過剰診療を誘導する。 手術、検査、投薬をたくさん行なうほど病院の診療収入が増えるからだ。 だが、このような診療行為はもろ刃の剣だ。 患者の病気を治療するのに役立たない過剰診療は、それによる副作用や合併症のような医療事故を増やすだけだ。 薬を多く使う我が国では、薬品の副作用を体験する患者数は米国の約1.5倍に達する。 また、行為別酬価制において病院は医療事故を予防することにも消極的だ。 副作用や合併症を治療する費用も診療費として請求し受け取ることができるためだ。 これが我が国で手術後の病院感染率が米国に比べて2~5倍高い理由だ。 また、病院が感染を予防するために手術室を改善し感染内科専門医を増やすよりは、患者に抗生剤をさらに多く使う理由でもある。

 我が国では毎年約4万人が医療事故で亡くなっていると推定される。 交通事故死亡の6倍を越えるものすごい規模だ。 だがこれは外国の研究を土台に推定した数字に過ぎず、実際にはこれよりもっと大きな規模である可能性が高い。 行為別酬価制によって過剰診療が蔓延した反面、医療事故の予防は疎かにしているためだ。 医療事故のうち約半分は病院の診療システムを正せば予防できるものだ。 先進国の病院では医療事故が発生すれば、徹底した原因調査を通じて同じようなことが再発しないよう診療システムを改善するが、韓国の病院の多くはどんな医療事故が起きているのかも分かっていない。 先進国ばかりでなくタイ、チュニジアのような開発途上国も、研究を通じて医療事故の規模をすでに把握しているのにである。 だから予防ははるかに遠い話だ。

 このような医療事故に対する“直視したくない真実”は医療専門家たちの間ではかなり以前から知られている事実だ。 だが、唯一我が国では医療事故の問題が水面上に浮び上がれずにいる。 医療事故の深刻性を誰よりもよく知っている医師協会がこの問題に対し沈黙してきたためだ。 これが、患者の生命が大切だから“手術拒否”をするという医師協会の言葉を信じることができない理由だ。

 患者は医師を信じて自分の病の治療を任せる。 医師と患者の間の信頼が崩れれば、医師も不幸になり国民も不幸になる。 大多数の国民は“手術拒否”の名分として国民を掲げることに同意しない。 医師協会執行部が“手術拒否”を強行すれば、国民の医師に対する信頼は傷つくだろう。 医療界内部でも“手術拒否”に対する批判の声が高まっている理由だ。 医師協会執行部は自身の政治的利害のために、真に患者のために黙々と診療に従事している大多数の医師に対する国民の信頼を傷つけてはならない。

キム・ユン ソウル大医学部医療管理学教室教授

原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/538309.html 訳A.K