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[キム・ジョング コラム] “民心敬拝信仰”のワナ

原文入力:2012.04.18 19:35修正:2012.04.18 19:35(2087字)



キム・ジョング論説委員

 民心は果たして天の心なのか。 選挙の結果あらわれた民心は、決して文句をつけたりしてはいけない神聖不可侵の対象なのか。 最近しきりに脳裏を廻っている疑問だ。 このような問いが4・11総選挙の結果に対する個人的失望感と関係がなくはないことは否認しない。出てしまったバスに手を振るような無益なことであるということもよく分かっている。 だが、この問いは政治現象を見守る時いつも頭を離れない問題だ。

 選挙結果として表出された民心はいつも称賛の対象だ。 賢明な選択、正しい判断、峻厳な審判、絶妙な均衡感覚など、称賛の修辞もきらびやかだ。 それは無条件頭を下げて敬わなければならない極めておごそかな命令だ。 ここにひねくれた不満など提起したら、バカ扱いされるのが常だ。 民心は天なのだから、ただ天を見上げて腕を振り回すような、針の穴から空を見るような愚昧な行動に過ぎない。


 民心に対する敬拝は民心の無誤謬性に対する盲信につながる。 “有権者の選択”という言葉は全てを無力化させる呪術だ。甚だしくは、義妹に対する性醜行と論文盗作疑惑を受けているキム・ヒョンテ、ムン・テソン両当選者についても「有権者の審判を経た人たち」(キム・デジュン朝鮮日報顧問)と称賛する言論人が現れる現実だ。


 実際のところ、民心はいつも賢明で正しいとは限らない。 気まぐれで、大変気難しくて、簡単に嫌になり、冷笑的であり、高慢でもある。 真実の心よりは美しい化粧術に簡単に惑わされ、軽い風にも揺らぎ、雲をつかむような誘惑にもあえなく引っかかるのが民心だ。 天にしては水準のかなり低い天だ。


 ここで、次のような詰問が当然出てくるだろう。「民心の属性がそうなのを知らなかったのか?  民心を得られなかった側の誤りであって、なぜ民心のせいにするのか?」 至極もっともな話だ。 変化の激しい民心の流れをちゃんと把握できずに自滅した野党勢力は、口が十個あっても何も言えないだろう。 ただここで強調したいのは「有権者の選択」でもって全てを覆ってしまおうとする態度の危険性だ。


 先日ある放送 (<交通放送>の「ソ・ファスクの今日」) で、歴史学者チョン・ウヨン氏がおもしろいことを言った。「この頃の国民は過去の王たちよりさらに絶対的で神聖な存在だ。 だが、李朝時代の王たちは今の高3のように生活した。」 經筵(訳注:君主に儒教の経書と歴史を教えた教育制度) 等を通して絶えず自らの水準を高めるために努力した昔の王たちに比べて、今の有権者は何をしているのかという問いかけだ。 的を射た話だ。


 現代政治の王たちに対する教育機能は相当部分言論が担当している。 經筵官が朝夕どんな 經筵を展開するかは、王の判断力に大きい影響力を及ぼす。 教育の怠慢、誤った主題選定、歪曲された内容の注入は、国政を誤った方向に導くしかない。


 キム・ヒョンテ候補者の当選を例に見てみよう。 この地域の市民団体活動家である漢方医師チョン・フィ氏は「この地域の有権者たちはいま、自己恥辱感と衝撃で恐慌状態にある」と伝えた。それなら何故そんなことが起こったのか。 「その問題がマスコミであまり取り上げられなくて、多くの人がそんな事実があることも知らずに投票した。 市民団体が報道資料を出したけれども、中央の保守言論はもちろん地域の言論も振り向きもしなかった。 新聞所有主がセヌリ党と近い仲なのに、そのような記事を書くはずがあろうか。」 いったいこの地方区1ヶ所だけだっただろうか。 民心の巧妙な操作は今回の総選挙に現れた全国的な現象だった。


 民心の誤導は選挙過程においてだけでなく、選挙後にも起きる。 全てを “有権者の選択” に帰結させ、本当に共同体が直面している問題の本質は回避する。 総選挙の結果再度確認された亡国的地域主義病に目をとじるのも代表的な例だ。 “洛東江(ナクトンガン)ベルト” をセヌリ党が守ったとか守れなかったとか、大邱(テグ)・慶北(キョンブク)で “パク・クネ旋風の威力” がまたも確認されたとか、そういう類の解釈だけが乱舞する。 せっかく地域構図の問題に言及しても、“湖南(ホナム)の壁” がどれほど頑丈だったかを強調することにより、お互い様だと、うやむやにしてしまう。 有権者の選択は尊重されなければならないという論理の中に、既得権は巧妙に維持される。
     
現在の民心の生産-流通構造は、民心を作った側が自ら結果を称賛するグルグル回りの枠の中に入っている。 民心賞賛はまた別の民心誤導の始まりだ。 ここに民心敬拝の致命的な毒がひそんでいる。民心の存在様態に対する批判的省察が必要な理由だ。


キム・ジョング論説委員 kjg@hani.co.kr


原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/528927.html 訳A.K