23日、英国が2016年6月23日の国民投票で欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を決めてから9年たった。EUとの交渉を経て正式に離脱した2020年からは、5年が過ぎた。しかし、EUとの別れを宣言した英国は最近、EUと再び密着しつつあり、英国世論はざわついている。
■変化する英国とEUの関係…なぜ?
先月19日に英国がEUと結んだ「関係再構築」合意は、ブレグジット後のEUと英国との関係を設定しなおす転換点となった。また、混乱した英国人が感情を噴出させる契機ともなった。
この合意は英国とEUが安全保障と貿易・出入国に関して関係を強化することを内容とするが、英国は合意のためにかなりの部分をEUに譲歩しなければならなかった。「英国はEUに苦しい譲歩をした」、「首相はEUに国を売った」、「屈辱のはじまりに過ぎない」といったスターマー労働党政権に対する露骨な非難が英国にあふれた。
EU加盟国の漁船が英国海域で操業することを2038年6月まで認めるとしたことが非難の的となったのがその代表例だ。漁業が英国の国内総生産(GDP)に占める割合は0.04%に過ぎないが、ブレグジットが議論される過程で英国の「独立国家」としての象徴となり、敏感な問題になっていたからだ。
関係再構築合意に含まれている、青年(18~30歳)が英国とEUを行き来する際に旅行と就業を容易にする「移動性合意」も、敏感な問題だ。「ブレグジット」後、英国はEU市民による域内の国家間通行の制限をなくしたシェンゲン協定の適用地域から除外された。これは移民流入制限ともつながる。移民の流入制限を求める世論は9年前のブレグジット国民投票での賛成論の勝利の代表的な要因の一つだ。その他にも英国は、肉加工品を輸出する際にEUの検疫を従来より軽減してもらう代わりに、EUの食品安全および動物福祉規定を「永久に(permanently)」順守するとするなど、一定部分を譲歩した。
英国が急いだのは経済問題があるからだ。
英国は2016年の国民投票でブレグジットを決めたが、実際のブレグジットはかなりの時間を経てから実施された。英国のEU離脱協定が発効したのは投票から3年半後の2020年1月31日であり、その日が公式のブレグジット開始日とされる。しかし、その日から英国とEUは1年間の履行期間を設けており、それが終わったのは同年12月31日。英国とEUは「貿易と協力に関する協定(TCA)」という貿易協定を結んで2021年から適用しているが、実質的なブレグジットのはじまりはこの時だと考えられる。
このように英国とEUはブレグジット後も関係を慎重に調整してきたにもかかわらず、ブレグジットが英国経済に及ぼした影響は小さくなかった。英国財務省傘下の予算責任局(OBR)は、ブレグジットを実行しなかったケースを仮定するシナリオによってブレグジットの影響を追跡している。OBRは今年2月、英国がブレグジットを実行しなかったと仮定したケースと現在とを比較し、ブレグジット後に輸出入の規模が15%減少したと診断した。
しかも、ブレグジットの公式の開始年の2020年の3月には、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を宣言した。英国を含む世界各国が大きな経済的打撃を受けた。パンデミックによる経済的打撃を緩和するため各国は資金を供給し、そのせいでパンデミックが収束する頃にはインフレが起きた。英国はこのインフレが深刻だった国の一つだ。2022年10月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同期比11.1%で、それまでの41年で最高値を記録した。
不確実性が高まった英国経済に投資する投資家は次第に減り、小規模な自営業者はさらに大きな打撃を受けた。英紙ガーディアンは先月19日、「関係再構築」合意後「英国政府は景気浮揚のためにEUとの関係を再設定しようとしている」として、「英国のEU公式離脱から5年が過ぎた今、解決すべき経済的課題が明確に存在する」と指摘した。
ブレグジット以降、英国はオーストラリア(2021年)、ニュージーランド(2022年)、インド(2025年)などと自由貿易協定(FTA)を締結し、EU離脱で生じる不利益を減らそうとしてきた。昨年、英国はアジア太平洋の国以外の国としては初めて「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」にも加盟し、輸出市場を拡大しようとした。しかしこれらの努力は、ブレグジットで生じた否定的な影響をすべて相殺するほどのものではなかった。
経済の衰退のせいで、英国の世論は徐々に変化しつつある。2016年6月に実施された国民投票でEU離脱を支持した人の割合は51.9%、残留支持は48.1%で、離脱世論の方が多少優勢だった。しかし9年後のこんにち、状況は変化している。英国の世論調査機関「YouGov」の今月の調査結果を見ると、「英国のEU離脱は良い決定か」との問いに対し、「良い決定」だったという回答は31%にとどまった。「誤った決定」だったとの回答は56%で、大きく上昇していた。英国では、EUに再び戻るべきだとする「脱ブレグジット」デモが起き続けている。先月19日に英国がEUと関係再構築合意を締結した場所であるロンドンのランカスターハウスの前では、ブレグジットに反対する人々が青いEU旗を掲げて大規模な集会をおこなった。
保守党が昨年14年ぶりに政権を失ったことも、英国とEUの関係が密接になる契機となった。ブレグジットはキャメロン政権の時代に国民投票ではじまり、メイ政権やジョンソン政権などの保守党政権でまとめられた。だが、昨年政権交代を成し遂げた労働党党首のスターマー首相は「EUとの関係を以前とは異なるものにする」と強調した。
■「大国に挟まれた中堅国へと転落」
EUと新たな合意を結んだ英国について、米紙ニューヨーク・タイムズは先月20日、「英国は巨大な大国に挟まれた中堅規模の経済国になった」と診断してすらいる。英国がEUから離脱し、巨大な経済ブロックから外れたことで、力を失ったと評したのだ。国家単位で見れば、2023年の世界銀行の統計による英国のGDPは3兆3808億5500万ドルで、インド(5位)に次ぐ世界6位の経済大国だ。ただしこれは、世界は米国、中国、EUという3大貿易ブロックを中心に動いており、EUから離脱した英国はこれらのブロックほどの影響力を持つのは難しいということを意味する。
9年前の国民投票の際、ブレグジット支持者たちは、英国はEUの官僚主義と規制から脱し、より有利な取引ができるようになると主張したが、現実は異なっていた。先月19日に英国がEUと結んだ合意では、過去より立場が弱まった英国は多くの分野で譲歩を求められた。キングス・カレッジ・ロンドンのジョナサン・フォーティス教授(経済学)は同紙に、「英国が選べるのは、はるかに限られた選択肢のみ」だとし、「我々は今や、はるかに厳しい環境に置かれており、英国は道を探らなければならない」と述べた。
英国人は、今後、英国がEUとどのような関係を維持することを望むのか。今月のYouGuvの調査では、「公式のEU再加盟は行わないが、EUとより緊密な関係を維持」することが、最も支持されている。
この案には全体の約3分の2に当たる65%が賛成しており、「分からない」は19%、「反対」は16%だった。将来、英国がEUに再加盟する可能性もありそうだ。「英国のEU再加盟を支持するか」という問いでは、「賛成」が56%、「分からない」が10%、「反対」が34%だった。