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[記者手帳] 日本で上映された『もう一つの約束』

登録:2014-10-10 21:38 修正:2014-10-11 07:07
映画<もう一つの約束>は、三星電子の半導体工場で勤務して白血病で死亡した労働者の実話を扱った。大企業を相手に苦しい法廷攻防を繰り広げる父親の話の中に家族の濃い愛情を描く。エイトボルピクチャーズ提供 //ハンギョレ新聞社

 1日、普段から交流のある日本人たちから映画試写会への招待を受けた。 実際、試写会とは言っても韓国に関心のある日本人数人が集まって一緒に映画を見る簡素な席だった。 急いで記事をまとめて映画が上映される文京シビックホール地下1階の学習室に到着したところ、10人余りの知人たちが集まって上映を待っていた。 上映予定の映画は『もう一つの約束』。 そう。 サムスン電子半導体工場で働き白血病に罹って亡くなったファン・ユミさんの事情を扱った、まさにその映画だ。

 今回の試写会を準備した「西ヶ原字幕」の林原圭吾は「映画上映を前にずいぶん悩んだ」と話した。 韓国を代表する企業であるサムスン電子を正面から批判する映画に対する日本社会の反応がどうなるか心配だったためだ。 それでなくとも最近は、日本社会では韓国人と在日朝鮮人に対する人種的差別を助長する”ヘイト スピーチ”(反韓デモ)が大きな社会問題になっている。 そのような状況で韓国を代表する企業の恥部を明らかにする映画を日本社会に紹介すれば、日本の嫌韓ムードに油を注ぎかねないからだ。 実際、いくつかの日本のメディアはサムスン電子の今年3分期の実績が大幅に悪化すると、サムスンがすぐにも倒産するかのような刺激的な記事を吐き出している。

 しかし、映画を観た日本人たちの反応には“韓国が嫌いになった”という嫌韓情緒は見当たらなかった。 日本の進歩的知識人である田中宏 一橋大学名誉教授は何度も「良い映画だった」と称賛してくれ、矢野秀樹「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」事務局長は、韓国の地図を持って来て映画の背景に登場する束草(ソクチョ)がどこなのかを指してほしいと言った。

 興味深いのは先月22日の『NHK』でファン・ユミさんの事情を扱った立岩陽一郎記者の反応だった。 彼にファン・ユミさんの事情に関心を持つことになった背景を尋ねたところ「有害薬品を使って職員が亡くなった大阪の出版社での事件を取材して、サムスン電子の半導体労働者の事情を聞いた」と話した。 実際、彼が製作したニュースを見れば、ファン・ユミさんなど韓国の被害者の事情を扱った後に、再び日本の現実に焦点を合わせていた。 日本の厚生労働省の資料を見れば、石綿のように発ガン性が認められ製造が禁止された物質は8種に過ぎないが、日本の産業界で使われている化学物質は計6万種ある。 産業界で使われる化学物質による被害は、韓国と日本が一緒に考えなければならない共通課題であるわけだ。

 席が佳境に入り話題は映画の製作過程に移った。この映画は投資家が見つからなくて、個人投資家約1万人から10億ウォンの製作費を集めて作られ、上映館を確保できなくて配給にも困窮した。 映画が完成されるまでに体験しなければならなかったもう一つの闘争の結果は、映画が終わった後しばらく延々と続いた個人投資家の名前からも確認できる。

キル・ユンヒョン東京特派員 //ハンギョレ新聞社

「あー、あれはそういう意味だったんですか?」。説明を聴いた一人の日本人が、珍しいものでも見たように尋ねた。

「はい、あれがこの映画を作るためにお金を寄せてくれた人々の名前です」。思わず急に声が高くなってしまった。 自分が属す共同体を誇らしく思わせるのは何だろうか。 よく分からないが、それが「大統領に対する冒とく的発言が度を越している」と平気で言う国家元首でないことだけは明らかだ。サムスンという巨大な財閥に対抗して、不可能とも思える戦いを行って、最後まで退かなかった韓国市民の闘争の記録が誇らしくて、私は映画が終わった後にそっと自惚れた気分にもなった。 映画『もう一つの約束』は名古屋(11月14日)、大阪(15日)、東京(16日)などに日本の観客を訪ねて巡回する予定だ。

キル・ユンヒョン東京特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/659072.html 韓国語原文入力:2014/10/09 19:05
訳J.S(1718字)

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