本文に移動

[ハンギョレ21 2010.10.08第830号]"いくら水で薄めても国防部実験は誤りだ"

[ズームイン]天安艦最終報告書も この間に提起された疑惑を解くことができない…イ・スンホン教授、国防部指摘を反映しアルミニウム酸化物に水を混ぜた再実験で最終報告書に反論(5168字)

□ハ・オヨン

←国防部が決定的証拠として提示した‘1番’魚雷の姿。白く見える吸着物質は爆発の秘密を解くことができるだろうか。ハンギョレ シン・ソヨン

天安艦事件の最終報告書が去る9月10日に発刊された。題名からして政府の立場をそのまま投影した‘天安艦襲撃事件’だ。序文に登場する‘北韓’という単語は全て赤色で強調されている。去る5月20日、民・軍合同調査団(以下 合調団)の中間発表以後、多くの論難があったが結論は全く変わらなかった。それなら国防部の最終報告書はそれだけの自信を含んでいるのだろうか?

国防部、吸着物質 再実験

報告書は289ページにわたり△事件概要などの序文△沈没要因の判断結果と形状および痕跡分析、証拠物分析等を含む分野別細部分析結果△北韓の仕業 という結論から構成される。資料の厚さだけを見れば中間発表で公開された資料よりはるかに多くの内容が含まれているように見えるが、中間発表で論難となった項目らは全て落ちたり同じ主張を繰り返す水準に止まった。天安艦の航路、潜水艦艇の正体、北韓の魚雷技術力などは言及されず、1番魚雷の腐食状態と爆薬成分、スクリューの曲がった状態なども内容が削除されたり既存の説明を繰り返した。

中間発表当時、唯一の科学的根拠として指定された‘吸着物質’分析は、最初から本文ではなく付録に載せられた。国防部の結論が魚雷による襲撃ならば、その始まりは魚雷爆発があったということであり、最終報告書はその部分から始まるべきだった。去る5月20日の中間発表で吸着物質分析が主要に扱われたのも同じ理由からだ。また、吸着物質分析が去る数ヶ月間、論難の中心に立ったことはその重大さを傍証することでもある。

懸案がこのように重要なことにも関わらず、最終報告書はその間の論議に対する解明や言及はせずに吸着物質が爆発の結果である(非結晶質)アルミニウム酸化物(Al2O3)という主張を繰り返している。ただしこういう主張を後押しするため新しい実験を追加した。天安艦船体と魚雷などの吸着物質を加熱し900度まで温度を高め段階別に構成成分を判読する実験と吸着物質を1200度の高熱で熱処理した後に観察する実験を追加したのだ。

吸着物質が魚雷爆発によりできた物質ではないという疑惑を初めて提起したイ・スンホン バージニア大学教授(物理学)は最終報告書に接した後、直ちに報告書に追加された実験を分析した。そして去る9月28日、自身の新しい実験結果を<ハンギョレ21>に送ってきた。

新しい実験も‘水分蒸発’反論できない

イ教授の実験は最終報告書に追加された合調団の実験を、仮定を変えて施行したものだ。国防部は試料の吸着物質が爆発の結果であるアルミニウム酸化物(Al2O3)という前提の下に実験を進行し、イ教授は吸着物質が爆発ではなく自然状態で腐食などにより生じうる水酸化アルミニウム(Al2(OH)3)という仮定で実験をしてみたのだ。

国防部とイ教授の実験を比較してみよう。

国防部が今回追加した実験は大きく2種類だ。最初の実験は吸着物質を900度まで加熱しながらエネルギー分光器分析を通じグラフの結果がどのように変化するかを見たものだ(最終報告書 258ページ グラフ)。この実験を追加したのは去る6月末、ヤン・パンソク博士(カナダ メニトバ大学地質学科分析室長)が提起した疑問点と関連がある。ヤン博士は当時、合調団が公開した吸着物質のエネルギー分光器グラフ上の酸素とアルミニウムの比率を分析すれば、爆発の証拠であるアルミニウム酸化物(Al2O3)より酸素の比重が多いので、これは自然状態で発見される水酸化アルミニウム(Al2(OH)3)と思われるという疑惑を提起した。合調団はこれに対し、ヤン博士がアルミニウム酸化物が含有している(日常の水という意味での)水分の存在を見過ごしており、それを考慮すれば吸着物質はアルミニウム酸化物というのが正しいと説明した。当時、ヤン博士は合調団が言う水分(日常の水)は実際にはエネルギー分光器実験で全て蒸発するので、水酸化アルミニウムのように化学的に水素と酸素が結びついている状態(OH)でこそ分光器を通じて分析可能だと再反論した。結局、合調団が分析した吸着物質は水酸化アルミニウムだということだ。

国防部の新しい実験はアルミニウム酸化物が水分を含有しているという点を再度立証するためのものだった。この実験では吸着物質の温度が200度、400度、600度、900度などと順に上がる中で酸素比率が減る現象を確認したが、これに対し国防部は水素と酸素の結合物である水分(日常の水)が増発し酸素が抜け出たためという結論を下している。だが、これはヤン博士が以前に合調団の解明に繰り返し反論して提示した‘水分はエネルギー分光器実験過程で全て蒸発する’という指摘に対する反論にはならない。

イ・スンホン教授が今回実施した実験でもこういう事実が確認されている。イ教授は国防部と同じ方式で実験を進行した。イ教授の結論は変わらなかった。“吸着物質は非結晶質アルミニウム酸化物ではなく爆発とは関連のない水酸化アルミニウムに過ぎない。”

イ教授はまず99%純度の水酸化アルミニウム(Al2(OH)3)を準備した。実験方法は国防部の最終報告書に従った。準備した水酸化アルミニウムを加熱しながらエネルギー分光器で成分を分析した(▲イ・スンホン報告書グラフ3ページ)。実験の結果、常温で酸素とアルミニウムの比率は0.8だったが、900度に加熱するとすぐにその比率が0.4程度に酸素の比率が減った。国防部の新しい実験と同じ結果を示したのだ。国防部が試料として使った吸着物質が水酸化アルミニウムでも結果は全く同じに出てくるので吸着物質をアルミニウム酸化物と決めつけることはできないという結論が出てくる。

イ教授は「国防部は今回の実験を爆発の結果物であるアルミニウム酸化物中にあった(一般的意味の)水分を熱処理を通じて取り出す過程で、それが吸着物質が爆発物質であることを立証することだと言うが、その水分の存在はすでにエネルギー分光器分析過程でなくなるということを再度見過ごしたことに過ぎない」と話した。

←最終報告書258ページ グラフ/イ・スンホン報告書3ページ グラフ/イ・スンホン報告書4ページ グラフ

水で薄めたアルミニウム酸化物も吸着物質とは違う

イ教授の実験はここで更に一歩前に出る。イ教授は合調団がヤン博士の主張を解明するのに動員した水分含有問題に反論するため、合調団の主張どおりアルミニウム酸化物に水を40%混ぜた。そして200度の熱処理をした後にエネルギー分光器実験を経て酸素とアルミニウム比率を確かめてみたのだ(イ・スンホン報告書4ページ グラフ)。この実験から出た比率は0.3だった(イ・スンホン報告書4ページ グラフ上段左側)。これは国防部の今回の実験の中で200度段階の熱処理実験結果値の0.8と大きな差を示す(イ・スンホン報告書4ページ グラフ下段)。

今回は水酸化アルミニウム(Al2(OH)3)を200度に加熱し冷却させた後、エネルギー分光器で分析した。結果は0.7だった(イ・スンホン報告書4ページ グラフ上段右側)。イ教授はこれにより水を混ぜたアルミニウム酸化物より水酸化アルミニウムが既存吸着物質実験の結果とさらに類似しているという事実を明らかにしている。イ教授は「実験結果は吸着物質が水の混ざったアルミニウム酸化物ではなく水酸化アルミニウムということを示している」として「国防部最終報告書の実験が自分たちの論理だけを継ぎ合わせるためのものであったことを傍証する」と話した。

もちろんこの実験には‘水を混ぜる過程で事件当時の環境が考慮され得なかった’という限界が存在する。‘爆発の高熱と海水での急冷が持たらす不規則性と複雑性が介入した原試料との差をどのように説明できるか’という指摘も提起されうる。

だが、これに対し 今回の実験を検討したある国公立大教授は「それでも国防部はイ教授の実験で使われた試料が原試料と比較する時に作られた環境が違うという言葉だけではやり過ごすことはできない」とし「合理的な疑いを持った実験だ。国防部は公開再実験を通じイ教授に再反論しなければならない」と話した。続けて「吸着物質がどこからきたかを巡る国防部の爆薬起源説、イ教授の水酸化アルミニウム説を再実験を通じて立証することができる程度に私たちは世界的なナノ技術を持っている」とし「一部欠陥があるとしてもイ教授の実験が相変らず説得力を持つことができる状況自体が、国防部が出した最終報告書がどれ程不良であるかを示している」と付け加えた。

国防部が今回追加した2回目の実験は、吸着物質を1200度の高熱で熱処理した後に観察する実験だ。これは5月20日の中間発表当時、エックス線回折機分析でアルミニウム成分が検出されなかった問題と関連がある。当時、イ・スンホン教授らは「当初吸着物質に爆発物質のアルミニウム酸化物がなかったためにアルミニウム成分が検出されなかった」と問題提起し、合調団側は「アルミニウムが高温の爆発をたどりながら100%非結晶質に変わったためにエックス線回折機分析では検出されない」と反論した経緯がある。これに対しイ教授らは「高温でもアルミニウムが100%非結晶質に変わることは不可能だ」と再反論した。

国防部の今回の実験は、吸着物質から検出されなかったアルミニウムが熱処理を経ると再び検出されたいうことが核心だ。国防部は報告書で「吸着物質を1200度で30分間 加熱をした後、自然状態で徐々に冷却した後にエックス線回折機で分析してみると当初登場しなかったアルミニウム酸化物が登場した」として「これは当初、吸着物質が非結晶質酸化物であったためエックス線回折機分析に現れなかったが、熱処理により結晶質に変わり分析結果に現れたということを示す」と説明している。これにより吸着物質がアルミニウム酸化物であったという結論を導き出しているのだ。

これに反論するために、イ・スンホン教授は国防部の2回目実験と同じ実験を進行した。代わりに条件一つに変化を与えた。国防部が吸着物質を試料として使ったように水酸化アルミニウムを実験の試料として使ったのだ。イ教授の実験で水酸化アルミニウムは1200度の高熱処理をたどりながら結晶質アルミニウムに変化した。結論的には国防部の結果と同一に出てきた。だが、イ教授は「アルミニウム酸化物でも水酸化アルミニウムでも、この実験結果は同一に出てくることになる」として「国防部がこういう事実を知りながらも、最終報告書に自分たちの実験で吸着物質が爆発物質ということを確認したという形で決めつけるのは話にならない説」と話した。

その上、最終報告書の実験はイ・スンホン教授の「(結晶質)アルミニウムが爆発・冷却をたどりながら非結晶質アルミニウム酸化物に100%変わるということは不可能に近い」という主張に対しては全く解明していない。ただ「爆発物に含まれているアルミニウムが爆発と急冷をたどりながら100%に近く非結晶質アルミニウム酸化物に変わり、エックス線回折機にはアルミニウムが見られない」という過去の主張を繰り返しているだけだ。

“最終報告書を巡る論争 期待”

イ・スンホン教授は自身の実験結果を持ってソ・ジェジョン米国ジョーンズホプキンス大教授(政治学)とともに講演に出た。去る9月30日、ニューヨーク大講演には韓国言論だけでなく米国言論、非政府機構などが参加した。去る10月1日には自身が在職しているバージニア大でもソ教授とともに講演した。

魚雷襲撃の最も基本前提である爆発物質論難さえ解明できない最終報告書を巡る論争は続きうるだろうか。真実を正すための努力を止めない学者らは相変らずいる。イ教授は「最終報告書を巡る活発な論争を期待する」という言葉を残した。

ハ・オヨン記者 haha@hani.co.kr

原文: http://h21.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/28257.html 訳J.S