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[ハンギョレ21 2010.08.13 第823号][焦点] 真昼に起きた殺人事件を契機に見て回った性売買集結地の危険な今日…

‘売春防止法’施行後 むしろ業者は増えた(3775字)

イム・ジソン

←去る7月30日、殺人事件が発生したソウル、清涼里‘588’性売買業所全景

午後2時‘清涼里588’と呼ばれる通りはうらさびしかった。雨が降る路地には殆ど人が入らなかった。ソウル、東大門区、典農洞588番地。狭い路地の向い側にそびえ立つLデパート正門では、平日の昼間時間帯にも多くの人々が出入りしていた。路地は2つの世界を鋭く区切っていた。

路地内に入れば自動車2台がかろうじてすれ違える程度の狭い道が現れる。道に沿ってズラーっと‘ガラス部屋’が並んでいる。ガラス部屋はショーウィンドーのように並んだガラスドアの中で性売買女性たちが客引きをする形態の業所を意味する。赤い灯りの下に白のタンクトップを着た女性が座り、お客を待つ。濃いまつげの目を伏せて携帯電話をいじっている。一人の男が駆け引きを試みる。真昼にも‘588’は動いている。

真昼の殺人、"誰にでも起きうること"

駆け引きが行われている店の横に‘ポリスライン’が長く張られたガラス部屋が見える。ここで去る7月30日午後2時頃、殺人事件が起きた。前に説明した風景と変わらない真昼のことだった。性売買女性 パク・某(31)氏がお客と共に部屋に入り凶器で刺されて亡くなった状態で発見された。‘588’を去り何年かぶりの昨年7月「母親が脳出血で倒れ生活が苦しい」として、金を稼ぐために戻ってきたということだった。解剖検査の結果、警察は犯人がパク氏の首を絞め殺害した後、凶器であたりかまわず突き刺したものと推定した。殺害方法に‘怒り’がにじみ出ていた。

4日後、ソウル、東大門警察署はこの事件の有力な容疑者 シン・マルソク(52)氏を公開手配した。彼は‘588’の常連客で、最近はパク氏を頻繁に訪ねてきて買春をした後に他で会うことを要求していたと知られた。背167cm、端正な角刈り、白い皮膚、ワイシャツと綿のズボンをしばしば着用、すっきりした会社員風だ。人相着衣まで何一つ特異なことはない。

‘588’は衝撃に包まれた。ある性売買女性は 「ここでは誰にでも起きうること」と言って悲しんだ。お客と2人きりで部屋に入り殺害された情況は、性売買女性にとって日常的な、しかし無理に無視してきた恐怖を蘇らせた。だが、翌日も、その翌日も事件が発生した業者が門を閉めただけで、周辺業者は営業を継続した。

性売買女性殺人事件は無数に繰り返されてきた。去る2月には釜山、釜山鎮区のあるオフィステルで性売買をした女性がを絞められ殺害された。昨年8月には済州市,蓮洞で性売買女性が凶器で刺され首を絞められ殺害された。2003年9月から2004年7月まで、ソウル、西大門・鍾路・江南などで、出張性売買女性11人が相次いで殺害された。全て‘お客’による殺人事件だった。そしてパク氏が亡くなった。
今回の事件は多くの人々に‘588’が依然として健在だったことを知らせる契機となった。この間、性売買集結地は2004年の‘性売買斡旋等の行為の処罰に関する法律’と‘性売買防止および被害者保護などに関する法律’が制定・施行され、一月間にわたり行った大々的な‘特別取り締まり’で大部分が消えたと思われていた。だが‘588’は健在だった。‘反性売買人権行動 イルム(成し遂げること)’(以下‘イルム’)が‘588’一帯で現場支援センターを開き、性売買女性の相談と自活支援を始めた2006年には80ヶ業者が営業中だった。2007年には94ヶ、2008年には104ヶに増えた。取り締まり期間に他の地域の性売買業者を飛び回った女性たちは再び‘588’に集まっていた。

現在‘588’で性売買を行う空間はガラス部屋の他に喫茶店、箱部屋などがある。喫茶店は集結地内の小さな飲み屋だが、コーヒーと酒類を共に販売する性売買業者だ。箱部屋は大部分が中・壮年女性たちが住居と売春を兼ねる形態であり、‘588’内業者の25%ほどを占めている。一つの建物に3.3㎡(1坪)を少し越える部屋6~7個が並んでいて、大部分が共同トイレと共同台所を使う構造だ。‘イルム’が去る4年間‘588’現場での活動経験を盛り込んで出した‘不穏な確信、終わらなかった千一夜話’というタイトルの報告書は「営業のみを行う箱部屋はシングルベッド一つがかろうじて入る程度の大きさで、頭がつくほど天井が低い」と記録した。住居貧困と貧困労働の空間だ。

‘家賃’賄うために危険も甘受

最近では‘588’がより一層貧困になっている。昨年5月、ソウル市は‘588’一帯に高さ200mのランドマーク タワーなど7ヶのビルディングを新築する内容の‘清涼里均衡発展促進地区開発基本計画変更案’を発表した。2013年までに400億ウォンが投入される予定だ。去る2月には‘588’の大きな町角の一つが再整備対象となった。10ヶ余りの業者が集まっていた建物が撤去された。今では‘588’には80ヶ余り業者が残っている。通りはより一層汚らしくなり、訪ねる人は一層減った。

‘588’の性売買労働者たちの状況も劣悪だった。お客がなくてお茶を挽く日が増えると事業主たちは採算がとれないとして営業方式を変えた。お客から受け取るお金を事業主と性売買女性が5対5程度の割合で分けてきた方式の代わりに‘家賃’を導入した。夜の営業は月に250万ウォンを一括集金することにした。性売買女性は性販売がたくさんできなくとも月に一定金額をぴったり事業主に払わなければならなくなった。‘イルム’のある活動家は「ある業者は250万ウォンを日銭でとるようにしている」と説明した。

亡くなったパク氏は250万ウォンの夜間営業費用を賄えず、代わりに昼間営業にしたと知られた。昼間に営業をする人の払う‘家賃’は100万ウォンだ。からだが痛くとも、お客がいなくても、なんとかして家賃より多く稼いで初めて家にお金を持って帰ることができる。

昼間営業者たちは午前8時に出勤し午後4時に退勤する。夜間営業者たちは午後4時に出勤して明け方や朝に退勤する。‘イルム’のある活動家は「裏方を務める所謂‘叔父さん’らと事業主が業所周辺にたむろする夜の時間帯とは異なり、昼間の時間帯は性売買女性を守る人がおらず、かえって治安の死角地帯」と話した。性売買女性を監視し束縛する‘叔父さん’だが、実際に性売買女性が危険な時には助けを得られる人々もまた‘叔父さん’だけというのが現実だ。

性売買空間で繰り広げられる状況は今この瞬間も続いている。「私がその人のガールフレンドや恋人だったら、そのようにむやみに対しえなかったでしょう。熱いコーヒーをかける人もいれば、髪をむしられたこともあって、頭は殴るは、頬は殴るは…。警察に申告ですか? それはできません。」‘イルム’との相談で、ある性売買女性はお客の暴力が辛くて恐ろしいと打ち明けた。両親が離婚して父親の暴力に苦しめられ、中学校の時に家出して保育園に入った彼女は保育園院長からセクハラにあった後、世の中を巡り巡った。19才の時から20代後半まで性売買をしている彼女を助けられる方法は何だろうか。

代案を求めることは容易ではない。その上に、今では‘588’のような性売買集結地に取り締まりの手助けさえ届かない。女性家族部と警察は今年に入り性売買集結地で大々的な取り締まりを行ったことがない。女性家族部関係者は「最近ではキス部屋など類似性売買業者を中心に取り締まり活動を行っている」と明らかにした。

現実とかけ離れた政府対策

政府が出す政策も現場とは距離が遠い。‘イルム’は女性家族部の委託で売春女性たちに検定試験・学院受講などを支援し脱性売買を援助する‘集結地自活支援事業’を以前に止めた。昨年から女性家族部が‘性売買女性の内、住民登録番号などを明らかにした人だけに生計支援金を支給する’という方針を定めたためだ。性売買女性たちが受け入れることのできない条件だった。支援の一時性も問題だ。10代後半で‘588’に入ってきて、ガラス部屋で仕事をしてきたある性売買女性(33)は「自活事業の支援を受けて検定試験を受ければ勉強に欲が出るが、大学に行こうとしても授業料が高く卒業してもこの歳では就職が難しいので結局また、この仕事をすることになる」と話した。‘イルム’のイ・スジン活動家は「政府の政策は性売買女性の全生涯的な危機と貧困問題に対応することができていない」と批判した。

‘588’はそのままであり、危険に追いやられた性売買女性の日常も相変わらずだ。誰もいない路地で見慣れない男性を迎え入れ貧しい空間にからだを横たえる彼女たちを守る力はどこにもない。パク氏の死がより一層悲しい所以だ。

文・写真 イム・ジソン記者 sun21@hani.co.kr

原文: http://h21.hani.co.kr/arti/special/special_general/27891.html 訳J.S