「仮面がこれほど珍しい物だと知っていたら、決して捨て値で売ったはずがありません。6億7千万円に達する競売収益は正当に夫婦が受け取らなければなりません」
「何を言っているんですか。仮面は植民地時代に略奪されたものです。夫婦も中古品商人も、この仮面の合法的所有者ではありません。仮面はガボンに返還されるべきです」
31日(現地時間)、フランスのある法廷では、ゴリラを思わせる細長い仮面をめぐる熱い論争が繰り広げられた。物語は2021年にさかのぼる。当時、フランスの80代の夫婦が別荘を売ることにした。そのためには屋根裏部屋に積まれていた骨董品から片付けなければならなかったが、その中に埃をかぶった古い木の仮面も含まれていた。かつて植民地時代にアフリカで総督を務めた夫の祖父が所有していたもので、夫婦が骨董商人にこの仮面を売って受け取った代金は150ユーロ、約2万円だった。
6カ月後、夫婦は新聞を読んでいて椅子から転げ落ちるほど驚いたという。捨て値で売り渡した仮面が競売にかけられ、19世紀の中央アフリカの国家ガボンのパン族が作った、世界に12個ほどしか残っていないきわめて珍しく価値の高い文化財であることが分かったからだ。特に仮面の形が非常に独特で、ピカソやモディリアーニなどの巨匠画家たちにインスピレーションを与えたという。競売所のある関係者は、フランスのテレビメディアに「この種の仮面はレオナルド・ダ・ヴィンチの絵より珍しい」と話したと、英紙「ガーディアン」が伝えた。2022年3月、この仮面は匿名の販売業者に420万ユーロ、約6億7千万円で売れた。
結局、夫婦は骨董品商人を相手に競売収益を返してほしいと民事訴訟を起こし、先月31日に開かれた裁判所の審理で、夫婦の弁護人は「夫婦が仮面がこれほど珍しい物だと知っていたら、決して2万円という捨て値で売ったはずがない」と主張した。骨董商人が仮面の価値を知っていながら、わざと価格を低く付けたという趣旨だ。一方、骨董商人は自分も仮面の価値を競売にかけるまで同じく知らなかったと主張しているという。
競売の収益金が誰に渡るべきかに対する裁判所の決定は12月に出る予定だが、訴訟戦にガボン政府まで加わって状況は一層複雑になった。BBCの報道によると、ガボン政府は仮面がそもそも盗まれたものなので「家」に返還されなければならないと主張しており、返還について別途の判断が出るまでこの訴訟の判決を延期してほしいと裁判所に要請したという。これに先立って、昨年の競売当時にもフランス南部のガボンの共同体の構成員たちは「仮面は決して販売されてはならず、ガボンに返還せよ」として、競売所でデモを行った。
ガボン側の関係者はこの日法廷で、今回の訴訟は夫婦と骨董商人の間で提起されたが、彼らは共に仮面の適法な所有者ではないと主張した。この関係者は「この仮面には魂があり、ガボンの村では正義を確立する時に用いられた」として「仮面は植民地時代に略奪された文化財であり、私たちが望むのはガボンへの返還のみ」と述べた。さらに「法廷で道徳性を論じているが、私たちの文化財と私たちの尊厳性を略奪した行為には道徳性があるのか」と尋ねた。ガボンは1839年からフランスの植民地支配を受け1960年に独立した。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2017年、「アフリカの遺産をアフリカに臨時または永久に返還する」努力をすると約束している。2018年のフランス政府報告書によると、フランスにはサハラ以南のアフリカの文化財が9万点以上ある。2020年12月、フランス議会は植民地時代に略奪したベナンとセネガルの文化財を返還する法案を圧倒的賛成で可決した。
フランスのメディア「RFI」は「フランスと他の欧州諸国を対象に、植民地時代にアフリカから略奪した文化財を返還せよという圧力が強まっているが、返還された文化財の大部分は公共所蔵品だった」とし「個人が所蔵している場合には不法取得が立証されない限り返還を強制することはできない」と報道した。