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[レビュー]K-POPは最もグローバルなブラックミュージックだ

登録:2022-08-06 11:54 修正:2022-08-08 11:45
「K-POP」の概念、流れ、グローバル化の理由など 
挑発的な分析…米ジョージ・メイソン大学のクリスタル・アンダーソン教授 
「ブラックミュージックを借用しつつ意味を拡張し生み出す」  

『K-POPはブラックミュージックだ:ヒョン・ジニョンからBTSまで、そしてその先』 
クリスタル・アンダーソン著、シム・ドゥボ、ミン・ウォンジョン、チョン・スギョン訳|ヌルミン刊
グラフィック:チャン・ウニョン//ハンギョレ新聞社
『K-POPはブラックミュージックだ:ヒョン・ジニョンからBTSまで、そしてその先』クリスタル・アンダーソン著、シム・ドゥボ、ミン・ウォンジョン、チョン・スギョン訳|ヌルミン刊//ハンギョレ新聞社

 本書は導入部から3つの点で驚かされる。

 韓国音楽に対する学術・文化界の分析が、英語圏でこれほど多く蓄積されているということ。そして、一人の学者のK-POPに対する愛情と、ブラックミュージックに対するさらに大きな愛情。もちろん、その信頼は詳細な事例研究に基づく。

 これらすべてを貫通して、クリスタル・アンダーソン教授(米国ジョージ・メイソン大学アフリカ系米国学)が世に出した本のタイトルは『K-POPはブラックミュージックだ』である。

 断定的で挑発的なタイトルに気分を損ねる読者もいるだろう。韓国が日本のバラエティ番組の構造や字幕挿入の機能を丸写ししてきた時代もあったため、影響を受けたとはいっても、現在の韓国ドラマが米国ドラマだとか日本ドラマだとは言えない独自性は日々証明されてきている。それに、ハイブリッドと相互テクスト性(互いに異なるテクストが影響を与え意味が生成変化する=フランスの記号学者ジュリア・クリステヴァ)は、それ自体として文化の本質であり根元だ。

 どうしても不快だと思うなら、このような言葉をしばし読み返してみよう。

 「私たちはブラックミュージックを基盤にK-POPを作った」(SMエンターテインメント設立者イ・スマン、本書より再引用)

 「ブラックミュージックが基本だ。ハウス、アーバン、オルタナティブR&Bなど、様々なジャンルの曲をやる時もブラックミュージックが基本だという点には変わりない」(HYBE理事会議長パン・シヒョク、本書より再引用)

 「アジアンソウル」という芸名とともに、米国のブラックミュージックに対する嗜好はもちろん、「K-POPのフィーリングを持つブラックミュージック」としてレーベルを紹介したりもするパク・ジニョン(JYPエンターテインメント代表)は言うまでもない。

PSYの2012年11月18日のAMA閉幕公演はそれ自体が記念碑的だ。当時黒人ラッパーのM.C.ハマーとともに「カンナムスタイル」を演出した。その後PSYは「20年前にハマーの振り付けを練習した」と告白した=ABCの動画(YouTube)より//ハンギョレ新聞社

 このあたりから読み進める気になるだろう。改めてブラックミュージックがK-POPに及ぼした影響の「ジャンル工学的」な分析(音楽的要素だけでなく、振り付け・スタイリングなどミュージックビデオの傾向、歌手発掘システムなどでも見られる)に対する理解を越え、文化的な辺境で巨大なハイブリッドを通じて一つのグローバルなジャンルを創り出した意味の感覚。さらに言えば、K-POPとブラックミュージックの距離を測量することは、大衆文化の消費者の文化の多様性・包容性の深さと余波を計量することにつながる。

 実際、取りあげられる過去の争点は、世界の音楽、特に主流としての西欧音楽(人)がブラックミュージックを借用して消費してきた手法と態度だ。大衆音楽とブラックミュージックの関係は、ビッグバンと地球のそれのように、ヒップホップ、R&B、ソウル(soul)、ゴスペル、ジャズ、ダンスなど根が深いが、黒人系が大衆文化の開拓・生産者として流通・消費の段階から排除されてきたという文化史的な批評は少なくない。著者が言及したポール・C・テイラー教授(ヴァンダービルト大学哲学科)は、これを「エルビス効果」(Elvis Effect)と呼ぶ。彼の批評(1997)によると、これは伝統的につくられた黒人の文化生産過程に白人が参加して不快な感情を引き起こす現象であり、白人社会の関心や干渉、歓呼などなしにこれまで独自に進められてきた黒人の文化の生産過程が、白人によって「発見」され、終いには訓練された白人が開拓者かつ主流となる構造によるものだ。「(不快な感情は)黒人の伝統に参加する一部の非黒人のアーティストたちが、社会歴史的な脈絡や意味を無視する瞬間に現れる」という著者の比較的抑えた叙述は、「最も重要なのは、文化商品に対する白人共同体の欲求が歴史的に人種差別的な軌跡だったという点だ」というテイラーの率直な分析に基づく。

 K-POPはまさにこのような脈絡の真ん中で、韓国語で、白人でも黒人でもない韓国人として享有されている。

防弾少年団(BTS)は2017年11月20日、米ロサンゼルスのマイクロソフト公演場で開かれた「2017アメリカンミュージックアワード」の舞台に立った。BTSはK-POPグループ初、かつアジアのミュージシャンとして唯一招待された=AMA公式フェイスブックより//ハンギョレ新聞社

 軍部独裁直後、グローバル化を経て成長した1990年代から、「アジアの大衆文化は模倣ばかりだ」とか「韓国の音楽産業全体は西欧あるいは日本の大衆文化のコピー機だ」という当時の無関心に近い酷評が、いつからかブラックミュージックの専有についての真正性論争などへと緻密になってきたのは、固有のジャンルとして負わなければならない役割とも思える。

 「単にクールに見せる効果のために、原作に対するリスペクトもなく特定の要素を使うのは問題がある」(著者が引用した批評、2013)、「黒人を演じることが、自分たちをある程度クールでより真正性あるものにし、大衆にアピールするという考えは体系化されているようだ。これは、他の文化に対して一抹のリスペクトさえも示さないということだ」(2015)といった批判に対し、アンダーソン教授は、R&Bの曲構成とボーカルのスタイルなどを借りて拡張して生み出される相互テクスト性と真正性などを様々な例をあげて指摘し、K-POPを「グローバルR&Bの伝統の一つの支流」とまで言い切るに至る。著者の観点からすれば、K-POPは、10代のアイドルだけでなくインディーズ音楽、ヒップホップなどの存在なしには構成されず、批評と享有を行き来する「超国家的共同体を代表」するデジタル基盤のファンダムなしには持続しえない。

HYUKOH(ヒョゴ)。インディーズからメジャーに進入したとして、K-POPを一つのジャンルではなく多様なジャンルを合わせた大きな「傘」として見ることを勧めると著者は評価した=ドゥルドゥルアーティストカンパニー提供//ハンギョレ新聞社
2009年に米市場に進出した初のK-POP女性グループのワンダーガールズが打ち出したコンセプトは、1960年代の黒人ガールズグループのレトロスタイルに近かった=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 著者の説明は、ある部分ではいわば「ブラックミュージックのビッグバン論」のように読み取れるところもある。米国本位という立ち位置も色濃く漂う。だが、本書の底流には、黒人学者の「元祖」に対する執着というよりも、非主流の音楽が白人か黒人かの構図を越え、事実上初のグローバルなジャンルになったことへの支持が一貫して感じられる。

クリスタル・アンダーソン教授(米ジョージ・メイソン大学アフリカ系米国学科)=ヌルミン提供//ハンギョレ新聞社供

 米国の代表的な映画学校の一つであるロサンゼルス・フィルムスクールがホームページで紹介している「K-POPの歴史」によると、1997年からの3世代(第1世代はH.O.T.、ジェクスキス、SES以後、第2世代は1999年のgod以後、第3世代は2010年代のEXO、BTS、BLACKPINKなど)に分類しつつ、第3世代の米国市場での成功は「独特だ」と明言する。「率直にいって米国のエンターテインメントは白人中心の単一文化が支配している。業界が後援する成功したグループのほとんどは白人だ。… K-POPアイドルは商品を販売するだけでなく、才能があり、スタイルも完璧で、社会的意識も高く…どの世代にも、追いかける自分たちだけのポップスターがいるが、米国で初めて、それが白人ではなく韓国人となった」

 『私たちが知っているすべての言語』(原題:Confabulations)の著者ジョン・バージャーの言葉を借りるならば、歌は「ある不在の前で歌われる」。ハイブリッドのK-POPを聞く人たちは、もっと自負してもいい。アイドルの優れたダンスやルックスのおかげだけで、世界のあらゆる地で歌われるわけではないのだから。

イム・インテク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1053612.html韓国語原文入力:2022-08-05 11:04
訳C.M