戦時作戦統制権(戦作権)の返還に反対する側は、韓国が北朝鮮に核兵器で攻撃された際には米国が核で報復することを約束するものである拡大抑止が、戦作権返還後に揺らぐと主張する。戦作権の返還後に韓米連合軍司令部(連合司)を代替する未来連合軍司令部(未来連合司)の司令官を韓国軍の大将が担うと、米軍の大将(韓米連合軍司令官)が韓国防衛の責任を免れるため、拡大抑止の実行が不透明になるとの予想だ。
しかしこのような主張は、米国の核戦略、韓米の制度的合意、拡大抑止の本質を見誤っている。
北朝鮮の核に対する韓国と米国の対応は、それぞれの国に合わせた抑止戦略にもとづいている。大阪総領事を務めた慶南大学のチョ・ソンニョル招聘教授は「米国の拡大抑止(核の傘を含む)は戦作権の所在とは関係なく、韓米相互防衛条約や韓米核協議グループ(NCG)などの高位級の政治・軍事的メカニズムを通じて機能する」として、「米国が戦作権を持っていないからといって連合防衛の約束を撤回するとの主張は、軍事的協力構造を誤解したもの」と語った。米国の韓国に対する防衛公約(拡大抑止)である法的・政治的約束そのものがなくなるわけではないため、作戦権が返還されても拡大抑止は維持されるとの説明だ。
NCGは、韓米同盟と拡大抑止を強化するための二国間協議体だ。NCGは尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権時代の2023年4月に韓米の首脳が発表した「ワシントン宣言」を契機として正式に発足。李在明(イ・ジェミョン)政権発足後も、昨年12月に米国ワシントンで第5回会議、そして今月11日にソウルで第6回会議が行われている。
米国による拡大抑止の約束には、「北朝鮮が核攻撃をした場合、米国が核で報復するので、韓国は核武装するな」という意味も込められている。拡大抑止が失われ、韓国が核武装すれば、日本や台湾も核武装に踏み切ることが懸念される。米国が戦作権返還後に拡大抑止を撤回すると、「東北アジア核ドミノ」が負担となってのしかかる。
現在の連合司や未来連合司の作戦計画に米国の核兵器使用に関する内容を加え、その権限を行使させるよう規定することはできない。核兵器使用の最終承認・命令は米国大統領の固有の権限であり、関連する情報は米国戦略軍の作戦計画で管理されている。米国が戦略軍に核の運用、核の指揮管理任務を与えたのは、核兵器が連合司レベルで扱う軍事目的の兵器ではなく、米国大統領によって統帥権レベルで戦略兵器として運用されるものだからだ。戦作権の返還後も拡大抑止の抑止要素の要である核の使用の決定構造、戦略資産の投入決定、偵察衛星にもとづく北朝鮮の核の情報追跡などは、米国が主導せざるを得ない。