「今回こそ天に与えられたチャンスだと思います!」。今月10日、「不正選挙報告大会」の舞台に立った極右ユーチューバーのチョン・ハンギル氏は、並々ならぬ様子で叫んだ。
不正選挙を主張する人たちにとって、6月3日の統一地方選挙での投票用紙不足事態は、実に久々に訪れたチャンスに違いない。不正選挙の話を出すだけで、陰謀論者や極右、時には奇妙な精神異常者とみなされてきた。それが、今となっては(デモで)自分たちに反対する勢力は全員「韓国大学生進歩連合(大進連)」だと主張することで、序盤の劣勢を克服し、ソウル松坡区(ソンパグ)のオリンピック公園ハンドボール競技場前の「開票所封鎖デモ」現場を事実上掌握した。デモ初期には「再選挙(選挙やりなおし)」に限られていたスローガンは、「不正選挙・再選挙・当日投票・手集計」へと変わり、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は正しかった」など、いまや12・3内乱を正当化する文言も至る所で見られる。
不正選挙の陰謀論者たちにチャンスを与えたのは「天」ではない。選挙管理委員会だ。選管委の無能さと規律の緩み、行政の便宜主義が陰謀論に火をつけた。投票用紙が足りなかっただけではない。忠清北道清州(チョンジュ)では選挙人名簿漏れがあり投票できなかった有権者も見つかり、全羅北道教育監選挙と京畿道教育監選挙では開票結果が誤って入力された。候補間の得票差は、全羅北道の場合19票、京畿道は47票が減った。当落には影響がなかったとはいえ、決して言い訳にはなりえない。
嘆かわしい管理の不手際ではあるが、これが即ち組織的な不正選挙を意味するわけではない。これまで不正選挙陰謀論は、「誰が、なぜ」という壁を越えられなかった。保守野党「国民の力」のチャン・ドンヒョク代表が9日に提起した、いわゆる「双子得票」(事前投票で、ある候補らの得票数がまったく同じだったこと)疑惑を見てみよう。「数学的には自然に理解できる現象」という統計学者の検証結果はさておき、そもそも与党の支持基盤が強く、与党候補が80%近い得票率を記録した地域で、期日前投票を捏造する理由があるだろうか。
開票操作などの不正選挙を主張して提起された選挙訴訟は「百戦百敗」だった。代表的な事例として、最高裁(大法院)は2022年、ミン・ギョンウク元未来統合党議員が提起した第21代総選挙無効訴訟を棄却し 、「多くの人々の監視の下で、原告の主張のような不正行為を行うためには、高度なコンピュータ技術やハッキング能力だけでなく、大規模な組織、それを支える莫大な財源が必要となるが、原告は約2年以上にわたり裁判が進められたにもかかわらず、そのような不正選挙を実行した主体が誰なのかさえ証明できなかった」と指摘した。
ずさんな陰謀論が大学街を浸食できなかったのは、ある意味当然のことだ。10日に一斉に発表された18大学の時局宣言は、参政権の侵害に憤りつつも、陰謀論とは一線を画し、徹底的な真相究明と選管委の構造改革を要求した。現場での自由発言では、「選管委の無能さと安逸さが市民の不信を煽り、陰謀論が再び拡散する環境を作り上げた」(延世大学24期生のキム・ミンスさん)という批判の声が噴出した。
ところが、大学生たちの常識的な声は「国民の力」にはまだ届いていないようだ。チャン代表は13日、フェイスブックへの投稿で、改めて「全国再選挙」を掲げ、今回の地方選挙だけで「双子得票」が全国的に869件発見されたという記事を引用した。チャン代表によると、「『奇跡』のようなことが一度に発生した」という。ところが、同記事は「その多くが多者対決の地域で、得票規模の小さい候補者に主にあらわれる現象」であり、「専門家たちによると、統計的に十分にあり得る現象だという」と報じている。700字を超えるチャン代表の投稿には、こうした内容は抜けている。不正選挙の疑惑を強調するため、記事の内容を都合よく選別したとの批判を免れない。
同日夕方、チャン代表はオリンピック公園を訪れた。一度や二度ではない。選挙惨敗の責任を取れという声も、辞任の圧力も届かない唯一の空間。オンラインコミュニティには、「チャン・ドンヒョク代表、ファイト」と書かれた移動式カフェも登場したという投稿もあった。参加者たちと撮った写真で、チャン代表は「不正選挙・再選挙」と書かれた紙を手に、満面の笑みを浮かべていた。「オリンピック公園に全力を注ぐ」戦略が「天が与えたチャンス」になるか、「切れそうな命綱」になるかは、まもなく答えが出るだろう。