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一滴の血もない遺体となって帰ってきた新郎

登録:2026-02-12 23:48 修正:2026-02-16 06:54
ゲッティイメージバンクコリア//ハンギョレ新聞社

 近ごろは、盆正月などの長い連休に海外旅行することが増えた。飛行機に乗ることを考えながら荷造りするだけで胸が高鳴る。新婚旅行の計画ともなれば、さらに胸が高鳴るものだ。蜜のように甘い時期という意味でハネムーンと呼ばれるほどなのだから。しかし、このひたすら美しい時期に悲劇を迎えた夫婦がいた。

■新婚旅行先での悲劇

 新郎新婦となったばかりのその20代の男女は、結婚式が終わるやいなや飛行機に乗り込んだ。2人は大学時代に恋に落ち、数年の交際を経て、知人たちの祝福を受けながら結婚式をあげた。良い職場も見つけて、小さな家も手に入れた。今ややるべきことは、幸せな家庭を築いていくことだけだ。

 新婚旅行先はオーストラリア。うねる波と真っ白な砂浜でサーフィンを楽しみ、日光浴をすることを考えると、すでに天国にいるような気分だった。恋愛中も、行くのは山より海だった。海からもらえる余裕とロマンが好きだった。写真でしか見たことのないオーストラリアのガラスのように透明な海に、今すぐにでも飛び込みたかった。

 ホテルに着いて荷物を下ろし、同時に緊張もほぐれたため、初日は一日中気絶したように眠ってばかりいた。翌日、さわやかな朝を迎えた2人は、夢にまで見た海へと向かった。エメラルドグリーンの水の中は、深いところまで透き通って見えた。白いサンゴは宝石のようにきらびやかな光を放っていた。泳ぎに自信のあった夫は、早く妻の前で実力を見せつけたかった。

 彼はためらうことなくエメラルドグリーンの未知の世界に飛び込んだ。妻はビーチに残り、手を振って歓声をあげた。彼の軌跡が遠くでかすかに揺れている。しかし、バッグの中からカメラを探すためにほんの少しのあいだ目を離したすきに、彼の姿が見えなくなった。どこへ行ったのだろうか。いくら探しても彼は見つからない。笑顔あふれる人の波の中で、必死に呼んでも答えがない。彼は戻ってこなかった。

 海へ出た救助のボートが重々しいモーター音を立てて帰ってくる。遠い異国の砂浜にへたり込み、とめどなく涙を流していた彼女は、がばっと立ち上がり、そちらの方へと走り出した。救助隊員たちが夫を持ち上げて地面に横たえた。でも、なぜ人工呼吸をしてくれないのだろう。なぜ何もしないで視線をそらし、どこかに電話をかけてばかりいるのだろう。うちの夫はあんなに力なく横たわっているだけなのに。助けてくれと叫んだりしがみついたりしても、無言のままだ。彼女は新婚旅行の二日目。新郎の遺体と向き合わなければならなかった。

■遺体の防腐処理に遺族の胸は張り裂け

 葬儀の申し込みがあったのは、これらすべての悲劇が起こった後だった。結婚したばかりの息子が無念の死を遂げたという知らせを聞いた彼の両親は、急いでオーストラリアに向かった。しかし、息子を母国に連れて帰ろうとしたら、飛行機で移送する前に必ず遺体の防腐処理をしなければならないという法規があり、戸惑った。「エンバーミング」は、遺体の腐敗や病原菌の拡散の可能性を保存剤で遮断して感染を防止するための措置だ。遺体から血液を抜き、血管に防腐剤を満たす作業が伴う。元気な子どもを失っただけでも目の前が真っ暗なのに、遺体をそのまま連れて帰ることもできないため、張り裂けた胸は粉々に砕け散ってしまった。

 家族は故郷で葬儀を執り行うことを望んだ。しかし、外国で亡くなったため手続きに必要な書類が非常に多かった。それらの書類の手配を葬儀会社に代行してもらいたいと考えた。現地での死亡診断書や防腐処理証明書、病院での葬儀確認書などからなる1束の紙を受け取り、空港で故人を迎える準備を整えた。婚姻届は紙1枚で済むのに、別れのための紙は残忍なほど多かった。

■「罪なき罪人」となった新婦

 遺族はとうてい言葉にできないほど悲痛だった。若さもそうだし、2人で出かけた新婚旅行で1人だけ生きて帰ってきたから。妻とその両親は、罪なき罪人にならざるを得なかった。数日前の結婚式に出席した友人たちは、服を変えただけで弔問に来なければならなかった。誰もが信じられないという表情だった。満面の笑みで撮ったウェディング写真は、白黒の遺影に変わってしまった。

 夫が恋しい妻は頻繁に訪ねたいと言って、家の近くの納骨堂に遺骨を納めることを望んだが、夫の実家には、うちの息子だから故郷の一族の墓に埋葬すべきだと言って強く反対された。つい最近までひとつの家族だったのに、望まぬかたちで他人となった家族の先祖の墓を妻が1人で訪ねられるのか心配だった。去った人も、残された人も、誰もが悲しい。死という不確実性は人間を謙虚にさせるが、時には惨めさに身もだえさせる。生と死の道はなぜこんなにも予測できない場所にあるのか。何が彼らにとって慰めとなるのか。次の生があるのなら、必ず再会して切れてしまった縁を結び直せるよう祈った。

おくりびとヤン・スジンの哀悼と愛情の間とは]/b>

この星からの別れ』の著者、ヤン・スジンは葬儀指導士ですが、別れの儀式を指導するのではなく、故人と遺族に手を差し伸べたいと願っています。おくりびととして働いてきたこの15年間、彼女は母となり、愛する家族を失った遺族にもなりました。まだ先は長いですが、ときおり息を整えながら、生に対する愛情と哀悼の間でさまよう物語を小さな声で紹介しようと思っています。

ヤン・スジン|作家、『この星からの別れ』著者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1244210.html韓国語原文入力:2026-02-10 09:27
訳D.K

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