「夢見る美しい年齢でうちの子は無念に世を去りました。ですが、誰もう娘の死について謝罪しません」
20日夕刻、大邱市中区(テグシ・チュング)のCGV大邱韓一劇場前。ベトナム人留学生の故トゥアンさん(仮名、25)の遺影の前に立った父親のブ・ヴァン・スンさん(48)はそう語った。頬杖をつき、首を少し横に向けて微笑む写真の中のトゥアンさんは、はつらつとした平凡な少女だった。この日、大邱では、先月28日に取り締まりから逃げようとして転落死したトゥアンさんを追悼するろうそく集会が行われた。
ブ・ヴァン・スンさんは舞台前の焼香台の線香の火が消える度に、立ち上がって火をつけ直した。彼はトゥアンさんが韓国の啓明大学に入学する前に、先に韓国にやって来て溶接工として働いていたという。娘の学費を稼ぐためだ。先月28日、城西(ソンソ)工業団地のある工場で、取り締まりから逃れて隠れていたトゥアンさんが亡くなった日、彼の人生も止まってしまった。「娘は礼儀正しくてとても親孝行でした。卒業して就職して故郷で学んでいる妹(弟)を助けると言っていました。でも、その約束を果たす前に無念に世を去りました」
今年2月に啓明大学国際通商学科を卒業したトゥアンさんは、大学院への進学を準備していた。当初は専攻を生かして就職しようとしたものの、6年間の韓国生活を経ても仕事を探すのは容易ではなかった。トゥアンさんが亡くなったのは、城西工業団地の自動車部品を作る工場で働きはじめてちょうど2週間目だった。その日の午後3時ごろ、取り締まり班が急襲し、彼女は工場3階の倉庫の室外機の後ろに隠れた。その時、トゥアンさんは友人に「私、隠れているんだけど、怖い」、「出入国(管理局)が入ってきて大声で叫んでいる。すごく怖い」、「死にそう、どうしよう」などとメッセージを送っている。トゥアンさんの返事は、3時間ほど過ぎたその日午後6時27分のものが最後だった。
大邱・慶北移住連帯会議のキム・ヒジョン執行委員長は、「トゥアンさんは狭くて息もできない場所で3時間も耐え、最後は転落して亡くなった。取り締まり班に捕まると追放されたり、大学院進学が難しくなったりする可能性があった。すでに一度取り締まりにあった経験があったため、人より恐怖心も強かったと思われる」と語った。
トゥアンさんはD-10ビザを持っていた。D-10ビザは、学士以上の学位を持つ外国人在留者に限定的ながら就労を認めるビザ。彼女は大学院進学前に生活費を稼ごうとしていた。D-10ビザは飲食店、単純事務補助などで時間制勤務が認められている。製造業、配達、ライダーなどの職種には就けない。トゥアンさんは未登録ではなかったが、製造業の工場で働くのは「違法」だった。キム執行委員長は「安定した仕事が得られないものだから、物量の多い工場に人が必要だと言われれば、時々アルバイトをしていたようだ」と語った。
トゥアンさんが亡くなった日に同じ工場で摘発された外国人留学生は10人。全員がトゥアンさんのように学びながら生活費を稼ぐために働いていた若者たちだ。「“人が来た”移住労働者差別撤廃ネットワーク」に所属する行政士(日本の行政書士に相当)のチェ・ヒソンさんは、「外国人留学生は、いくら良い大学で学位を取っても就職する会社が見つからなければ労働ビザが取れない。仕事探しの猶予期間を与えるのがD-10ビザ」だとして、「それさえもどこででも働けるというわけではないうえ、仕事を見つけても出入国管理当局の許可を得るのに時間がかかるため、一日早く出勤しただけでも『違法』状態になる」と説明した。
近年は大学と地方自治体が外国人留学生の誘致に熱を上げているが、留学生の卒業後の定着を支援する政策は足りないとも指摘されている。チェさんは「地域の大学は、倒産しないように先を争って留学生を誘致しているが、学生たちが卒業して仕事を探す時、ビザ問題でそれが難しいという現実は誰も語らない。留学生の卒業生の就職率は7.7%にとどまっている。政府や大学には彼らの将来についての対策が何もない」と指摘した。
キム執行委員長も「実際に、卒業後に未登録状態になる留学生の割合が高まる傾向にある。韓国政府は留学生を誘致しておきながら、大学を卒業後はアルバイトひとつまともにできないようにしている。求職は雇用センターを通じてのみ可能だ。移住民を道具としてのみ利用しようという発想だ。私たちはこれ以上トゥアンさんのような境遇を作り出してはならない」と強調した。
大邱・慶北移住連帯会議などの大邱地域の市民団体は、「移住労働者トゥアン死亡事件対策委員会」を立ち上げ、真相究明と再発防止対策を要求している。彼らは今月13日に大邱市東区(トング)の大邱出入国外国人事務所前にトゥアンさんの焼香所を設けるとともに、無期限のテント座り込みを開始した。また今月30日には、全国の出入国外国人事務所前での同時多発1人デモや、ソウル出入国外国人事務所前で移住労働者らが五体投地(両手両膝、額を地面に投げ伏す礼)で訴えるなど、取り締まりの中止と制度改善を要求する闘争を全国で行う予定だ。
慶山(キョンサン)移住労働者センターで活動するランミさんは、「ビザがあろうがなかろうが誰もが追われる取り締まりは、文字通り狩りだ。法務部は労働者を隠れさせ、震えさせ、負傷させ、死に追いやるやり方の取り締まりをやめるべきだ」と述べた。
一方、法務部はトゥアンさんの死について「取り締まり班は適法な手続きを順守し、事故防止のための措置を取ってから、同事業場に対して取り締まりをおこなった。故人の死亡時間は午後6時30分以降で、取り締まり終了後に発生したと推定される」と述べた。