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3年ぶりに正常軌道に戻った「平和統一」路線、李大統領「北朝鮮の体制を尊重」

登録:2025-08-19 07:05 修正:2025-08-19 08:18
8月15日にソウル世宗文化会館で開かれた第80周年光復節慶祝式典で、李在明大統領が演説している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏//ハンギョレ新聞社
 大韓民国の大統領は就任の際、こう宣誓します。

 「私は憲法を遵守し、国家を保衛し、祖国の平和的統一と国民の自由と福利の増進および民族文化の暢達に務め、大統領としての職責を誠実に遂行することを国民の前に厳粛に宣誓します」

 「祖国の平和的統一」は1972年、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の維新憲法前文と大統領宣誓に初めて入りました。朴正煕大統領は統一主体国民会議という憲法機構も作りました。「祖国の平和的統一を推進するための全国民の総意による国民的組織体として、祖国統一の神聖な使命を持つ国民の主権的受任機関」です。朴正煕独裁が崩壊し、統一主体国民会議は消えましたが、憲法前文と大統領宣誓の「祖国の平和的統一」はそのまま残り、今まで続いています。

 歴代大統領の多くは、就任後初めて迎える光復節(独立記念日)の記念演説で、統一案や南北関係の改善など、朝鮮半島政策の基本方向を示してきました。光復節は韓国が日本から独立した日であると同時に、南北分断が始まった日だからです。

 「民族の大量殺傷を前提とする武力統一は、絶対に民族のための統一とみなすことはできません。統一の正道は平和統一です」(1981、全斗煥)

 「私は今日、光復43周年を迎え、北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席に6千万同胞の念願に従って民族の統合を実質的に推進していくために、できるだけ早いうちに私と会って会談することを提案します」(1988、盧泰愚)

 「北朝鮮が核の透明性を保障し、誠実に対話に臨めば、我々は核エネルギーをはじめとする資源の共同開発と平和利用のための協力に積極的に乗り出します」(1993、金泳三)

 「南北が統一すれば、海洋と大陸がつながり、朝鮮半島は閉ざされた空間から開かれた空間へと変わるでしょう。 海の道、陸の道、そして空の道でユーラシアと太平洋をつなぐ繁栄の関門になるでしょう」(2008、李明博)

 「これからは南北間の不信と対決の時代を越え、平和と統一の新しい朝鮮半島時代を切り開いていかなければなりません」(2013、朴槿恵)

 平和統一案は朴正煕大統領時代からこれまで、大韓民国の公式的で唯一の朝鮮半島統一政策です。他の統一政策は韓国には存在しません。

 朴正煕大統領は1972年の7・4南北共同声明で、自主、平和、民族大団結の3大統一の原則について北朝鮮と合意しました。盧泰愚(ノ・テウ)大統領は韓民族共同体統一案を、金泳三(キム・ヨンサム)大統領は民族共同体統一案を作りました。

 金大中(キム・デジュン)大統領は2000年の首脳会談として6・15共同宣言を採択し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領も2007年に10・4宣言を採択しました。李明博(イ・ミョンバク)大統領の「非核・開放・3000」や、朴槿恵(パク・クネ)大統領の「朝鮮半島信頼プロセス」も平和統一案です。

2018年9月20日、文在寅大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長(左から2番目)が白頭山の頂上である将軍峰に登り、手を取り合っている。左端は金委員長夫人のリ・ソルジュ女史、右端は文大統領夫人のキム・ジョンスク女史=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は金正恩委員長とドナルド・トランプ大統領の朝米対話を仲介し、金正恩委員長との首脳会談で板門店宣言と9・19軍事合意に至りました。

 このように歴史と伝統を誇る韓国の平和統一路線が、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領時代に突然揺れ始めました。

 尹錫悦大統領は就任演説で、北朝鮮の核を平和的に解決するために対話の扉を開いておくと提案しました。北朝鮮が核開発を中止し、実質的な非核化に切り替えるならば、北朝鮮の経済や北朝鮮の住民の暮らしを画期的に改善できる「大胆な」計画を用意すると述べました。

 ところが、尹錫悦大統領の提案が実行に移されることはありませんでした。もちろん、尹錫悦大統領の在任中に南北関係が冷え込んだのは、尹大統領だけの責任ではありません。北朝鮮は2019年の「ハノイ・ノーディール」で衝撃を受け、米国との対話だけでなく、南北関係の扉も堅く閉ざしました。

 しかし、尹錫悦大統領が南北関係改善に向けて歴代大統領の平和統一路線を維持していたなら、状況が今のように悪化することはなかったでしょう。

 尹錫悦大統領は2022年の光復節記念演説で、「非核化すれば経済支援を行う」としながらも、北朝鮮に対して具体的な対話の提案はしませんでした。2023年の光復節記念演説では、「共産全体主義を盲従し、捏造扇動で世論を歪曲し、社会をかく乱する反国家勢力が依然として幅を利かせている」とし、北朝鮮や野党、市民社会に敵意を示しました。

 2024年の総選挙惨敗後の光復節記念演説でははるかに遠くまで進みました。「自由の価値を北朝鮮に拡張し、北朝鮮の実質的な変化を引き出すことにさらに積極的に取り組むべきだ」と述べました。北朝鮮の体制を揺さぶって切り崩すという吸収統一推進宣言に他なりませんでした。

2024年8月15日、尹錫悦大統領とキム・ゴンヒ女史がソウル鍾路区の世宗文化会館で開かれた第79周年光復節慶祝式典で、太極旗を振っている=大統領室通信写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦大統領の北朝鮮体制揺さぶりは口先だけではありません。2024年10月、韓国軍は平壌(ピョンヤン)上空に複数回無人機を送り、対北朝鮮ビラを散布しました。北朝鮮の挑発を誘導し、非常戒厳宣言の名分にしようとしたようです。「内乱特検」が今、この部分を捜査しています。そのうち全貌が明らかになるでしょう。

 尹錫悦大統領のこうした行動は、朴正煕から文在寅まで歴代大統領の平和統一路線から明らかに離脱したものです。一体何が尹大統領をそうさせたのでしょうか。

 背景があります。生涯検事を務めてきた尹錫悦大統領は外交・安保分野では素人でした。尹大統領の外交・安全保障ブレーンは、居住しているマンション集合地の住民として知り合ったキム・テヒョ国家安全保障室第1次長でした。

 キム・テヒョ次長は新アジア研究所のイ・サンウ理事長の弟子でした。イ・サンウ理事長は朝鮮半島情勢を「韓米日海洋勢力と中朝ロ大陸勢力の理念対決」という古い理念対立構図で捉える人物です。彼は、2023年7月の「月刊朝鮮」でのインタビューでこのようなやり取りをしています。

-こんにち左派勢力が大きく振舞っているのを見ると、大韓民国は戦後70年間成し遂げた成就にもかかわらず、理念戦争では劣勢なのではないかと心配です。

 「私たちが理念戦争で劣勢というよりは、北朝鮮の政治戦を放置したためだと思います。経済発展をしながら貧富の格差が生じ、『こびとが打ち上げた小さなボール』(小説)でも見られるように、それに対して相対的剥奪感を感じる人々が出てくるようになった。ここに火をつけながら、向こうから工作が入ってくると地下組織になるのです。前はそれでも情報機関で対処しましたが、金泳三政権以降はほとんど手をこまねいていました。特に、李明博大統領と朴槿恵大統領時代にあまりにも放置してしまいました」

-今ではほとんど手の施しようがない状況になっていると思います。

 「今80%は超えたようです。全教組、民主労総、マスコミなど、尹錫悦大統領が特段の措置を取らなければなりません。漠然とした対処では正すことはできません」

 イ・サンウ理事長が要求した「特段の措置」が、まさに尹錫悦大統領の「12・3非常戒厳」だったのです。

 繰り返しになりますが、尹錫悦大統領の北朝鮮の体制揺さぶりと吸収統一宣言は、大韓民国の唯一の統一政策である平和統一路線から完全に離脱したものでした。

 一方、李在明(イ・ジェミョン)大統領の今回の光復80周年記念演説は、平和統一路線に復帰するという明確な宣言でした。

 「古い冷戦的思考と対決から抜け出し、平和な朝鮮半島の新時代を開いていかなければならない時です」

 「南と北はお互いの体制を尊重し、認めながら、平和的統一を目指す過程の特殊な関係にあります。南北基本合意書に盛り込まれたこの精神は、6・15共同宣言、10・4宣言、板門店(パンムンジョム)宣言、9・19共同宣言に至るまで、南北間のすべての合意を貫いている精神です」

 「現在の北朝鮮側の体制を尊重し、いかなる形の吸収統一も追求せず、一切の敵対行為をするつもりがないことを明確にします」

 「南北間の偶発的衝突防止と軍事的信頼構築のために『9・19軍事合意』を先制的かつ段階的に復元していきます」

 「公理公営、有無相通の原則に基づき、南北住民の暮らしを実質的に改善できる交流協力基盤の回復と共同成長の条件づくりに取り組んでいきます」

 キム・ジョンイン元「国民の力」非常対策委員長も李在明大統領の光復節の演説を肯定的に評価しました。

 「絶対に戦争が起きてはならない。平和を維持できる案を模索するのが最も現実的だ。統一を諦めようと言っているわけではない。そのような日が来るまでは、現実に合わせて北朝鮮との関係を導いていかなければならない。今日の李在明大統領の話は正しいと思う」(CBSラジオ「パク・ジェホンの一本勝負」)

 まとめます。李在明大統領はまもなく日本や米国と首脳会談を行います。尹錫悦大統領が強化した対日、対米関係をうまく維持しなければなりません。同時に、尹錫悦大統領の時に急速に悪化した北朝鮮、中国、ロシアとの関係を早急に改善しなければなりません。

 それがまさに歴代大統領と李在明大統領が一貫して強調した「国益中心の実用外交」だからです。皆さんはどう思われますか。

ソン・ハニョン政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1213617.html韓国語原文入力:2025-08-17 18:44
訳H.J

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