6月3日の韓国大統領選は、世界史的な大転換の最中に繰り広げられる。過去80年間、韓国は米国主導の国際秩序に順応し、韓米同盟を基盤として安全保障・経済・政治などのシステム全般を運営してきた。問題は、地殻プレート自体が揺らいでいることだ。大転換期の韓国を率いるべく大統領選に立ち向かう候補者であれば、現在の変化を直視し、荒波の時代を乗り切る外交と安全保障のビジョンと戦略を提示しなければならない。
■同盟構造を変えようとするトランプ大統領
米国のドナルド・トランプ政権は、韓米同盟をはじめとする同盟構造自体を変えようとしている。韓国がより多くの費用を負担し、中国けん制の先頭に立てというのがトランプ政権の要求だ。この圧力はますます激しくなるだろう。トランプ大統領は「関税爆弾」をテコにして、韓国から経済や安全保障など全分野において最大限の譲歩を得ようとする「ワンストップ・ショッピング」構想を明らかにしている状態だ。すでに両国が合意した防衛費分担特別協定(SMA)を無視し、韓国の分担金を大幅に引き上げるという無理のある要求も問題だが、トランプ大統領の圧力が在韓米軍と韓米同盟の性格自体を変えようとする米国の戦略変化と連動しているという点で、状況はさらに深刻だ。
米国のピート・ヘグセス国防長官は、北朝鮮の脅威は韓国軍が自ら対応し、在韓米軍は中国の「台湾侵攻」阻止をはじめとする中国けん制用に切り替える内容が加えられた「国防暫定戦略指針」を2月中旬に指示したという。この指針に従うならば、在韓米軍は朝鮮半島において北朝鮮の挑発に対応する据え置きの軍隊ではなく、台湾事態などの有事が起きれば中国に向けて動く迅速機動軍になる。いわゆる「戦略的柔軟性」だ。これは、韓国に対して「米国と中国のうち米国を選択せよ」という圧力でもある。
このような状況のもとでは、韓国は安全保障を米国に全面的に依存することは大きな弱点となる可能性がある。戦時作戦統制権の返還と「自強」の努力を前提にして具体的な戦略を綿密に準備しなければ、関税で圧力をかけるトランプ大統領に押し切られ、安全保障問題でも無為無策に米国の要求に引きずられていく公算が高い。保守陣営からは、米国の要求を無条件に受け入れるべきだとする主張が出ているが、これは「変化した米国」を正しく見定めることができていない危険な主張だ。
ソウル大学統一平和研究院のチャン・ヨンソク客員研究員は、「トランプ政権の要求を正面から拒否することは難しいとしても、『戦略的柔軟性』などについては、韓国がディテールを準備し、米国の要求に対応しなければならない。何より、戦時作戦統制権を早めに得て韓国軍の独自作戦と戦闘能力を強化する『自強戦略』が並行して推進されなければならない」と指摘する。経済と安全保障、先端技術競争が連動する時代に、自強能力は軍事分野だけに限定されるものではない。先端製造業国家として競争力を維持するための政府レベルでの産業政策、未来産業育成のための研究開発能力の強化も放棄してはならない。
■尹錫悦政権が台無しにした韓中関係
尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は3年の任期の間じゅう、中国とは不快な関係にあった。12・3内乱後には「嫌中陰謀論」を掲げて拡散し、両国関係を深刻に損ねた。激化している米中覇権競争は、「挟まった境遇」にある韓国をよりいっそう困惑させる。次期政権では、尹錫悦政権が残した外交対立を収拾し、長期的な基準と原則に沿って韓中、韓米関係を管理する負担がさらに高まったことになる。
トランプ政権の要求に応じて「親米反中路線」を確実にすべきだという一部の主張は時代錯誤的だ。韓国が先に明確な戦略と座標を立てなければならない。これに反する要求と圧力を受けるならば、時には中国に、時には米国に「ノー」と言うべきだ。第2次トランプ政権の発足後、欧州連合(EU)と日本も米国一辺倒の安全保障の枠組みから抜け出し、「自強戦略」を急いでいる。専門家らは、韓国も自ら力をつけ、EU、日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)などとの連帯・協力を強化してこそ韓米同盟でも声を上げることができると述べている。
亜洲大学米中政策研究所のキム・フンギュ所長は14日、国会で開かれたプラザプロジェクトの次期政権政策提案討論会で、「韓米同盟だけでは韓国の外交・安全保障を解決できない時代が到来したことを直視しなければならない」として、「北朝鮮の核とミサイルの脅威を乗り越える自強策を推進し、韓米同盟も一方的な依存関係ではなく、相互が支え合う関係に切り替えなければならない。中国、ロシア、日本との関係も戦略的に管理しなければならない」と述べた。
ソウル大学国家未来戦略院が次期政権に提案した報告書「大韓民国の大国戦略」も参照するに値する。報告書は、韓米同盟を「核心同心円」とみなし、EU・日本との協力を「主要同心円」、中国・インド・ロシア・東南アジア諸国との連結を「郊外周辺同心円」、中東・アフリカ・南米国家との協力を「境界線同心円」に拡張していく「同心円多国間主義」を提示している。
■統一・非核化は長期目標、中短期の課題は
南北関係の管理と北朝鮮問題の解決策は、次期政権が直面する最大の難題だ。北朝鮮は核とミサイルの能力をスピーディーに強化し、南と北を「二つの敵対的国家」に規定した。ロシアとの同盟関係を復活し、これをもとに「北朝鮮・中国・ロシア」連帯を急いで構築している。6月3日の大統領選で政権交替が行われるとしても、北朝鮮がこのような基本戦略を変えて南北関係の復活に積極的に乗り出す可能性は低い。
結局のところ、次期政権は「統一」と「非核化」という長期目標は維持しつつ、短中期的には安全保障の脅威を低め、必要な対話を再開し、南北関係を管理・改善する青写真を用意していくことが現実的だ。朝ロ密着によって厳しくなっている朝鮮半島の緊張を緩和するためにも、韓ロ関係の改善を後回しにしてはならない。
12・3内乱後に中断された首脳外交の正常化のためには、体系的かつ緻密な準備も重要だ。韓米・韓中などの2カ国首脳会談を準備し、今年10月末から11月初めに慶州(キョンジュ)で開かれるAPEC首脳会議を、新政権のグローバル戦略の実行舞台として活用する構想を精巧に練る必要がある。米国のトランプ大統領、中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らがこの会議に参加するならば、激変期の世界秩序を新たに描きだした場として、歴史に記録されるだろう。
次期大統領が対処すべき韓国外交の課題は、いつにもまして複雑かつ重い。グローバル地政学の変化を正確に貫くことができる広い見識と現実主義的な冷徹さを維持し、緻密な設計図と有能な外交安全保障チームを設け、国民の前に示さなければならない。