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韓国の出生率0.03上昇が喜べないわけ【寄稿】

登録:2025-03-05 10:22 修正:2025-03-05 11:12
ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

 2024年の合計特殊出生率は前年から0.03上昇し、0.75を記録した。9年ぶりの上昇だ。とどまることを知らなかった下落が止まったのはうれしいニュースであり、それだけでも大きな意味がある。しかし、喜ぶにはまだ早いという反応が支配的なようだし、筆者もそう思う。昨年の出生率の上昇は、すう勢としての上昇のはじまりとみなせるに足る根拠が弱いからだ。

 まず、出生率の上昇幅は微々たるものだ。9年前の2015年の合計特殊出生率1.24を大きく下回るのはもちろん、2022年の0.78すらも回復できていない。将来に対し楽観できないさらに重要な根拠は、出生率を上昇させたと推定される要因だ。少子化対策の効果が本格的にあらわれるとともに、結婚と出産の環境が改善されたことで出生率が上昇したのだとしたら、今後の長期的な上昇が期待できるだろう。しかし昨年の出生率の上昇は、結婚と出産を先送りしなければならなかった人々がそれを実現したなどの、すぐに息切れする要因に支えられていた可能性が高い。

 まず、昨年の出生率上昇の重要な出発点とされる最近の婚姻数増加の要因をみてみよう。これは、長期的な結婚の減少とパンデミック期に見られた結婚の延期によって、結婚している状態にない配偶者なしの女性の増加が影響しているとみられる。筆者の推計によると、30代前半の配偶者を持たない女性の人口は、2019年の約67万人から2023年には約91万人に増えた。パンデミック後、30代前半の配偶者のいない女性の婚姻件数は大きく増えたが、彼女たちの婚姻率は2021年の7.7%から2023年には7.0%へと逆に下落している。

 昨年の出生率の上昇を主導した第一子出産の増加の要因も同様だ。これは、子どものいない配偶者ありの女性の出生率の上昇によるものではなく、子どものいない配偶者ありの女性の数の増加によるものだと把握される。実際に、子どもを持たない配偶者ありの女性の割合は、かなり前から急速に高まってきていた。筆者の推計によると、2019年に約25万9千人だった30代前半の子どものいない配偶者ありの女性は、2023年には約27万7千人に増えている。まだ資料がないためはっきりとは分からないが、前年の婚姻数の増加で2024年には子どものいない配偶者ありの女性はさらに増えたと推定される。このような状況を考慮すると、第一子出産の増加は、子どものいない配偶者ありの女性の出生率の上昇ではなく、彼女たちの絶対数の増加によるものである可能性がある。

 政府の政策が出生率の上昇をどれほど後押ししたかも疑問だ。政策の効果が高かったなら、配偶者のいない人の婚姻率や配偶者のいる人の出産率の上昇が期待できる。しかし先に説明したように、二つの指標はいずれも上昇していない可能性が高い。2024年6月の「人口非常事態」宣言と共に発表された各種対策は、効果が出るまでの時差を考慮すると、昨年の出生率上昇の原因だとは考えづらい。出会い利用券、親への給与支給、育児休職給与の引き上げなど、2023年以前に実施された政府の主な少子化対策は、その規模と範囲を考慮すると、出生率上昇の説明としては無理があるように思える。

 何より、最近の結婚と出産の条件が改善されているという兆候を見出すのは難しい。20代の雇用率の低下、非正規労働者の割合の上昇など、青年層の雇用指標はこの2年間で悪化している。正規労働者と非正規労働者との賃金格差は拡大しており、資産の不平等度も広がっている。私教育(塾や習い事。公教育と対になる概念)費支出の増加、受験浪人の割合の上昇など、教育競争も緩和の兆しが見えない。韓国人の生活満足度は2023年にさらに低下し、経済協力開発機構(OECD)38カ国で33位を記録している。人口構造の変化、結婚や出産の遅延の拡大のような要因に支えられ、出生率が今後どれほど上昇するかは分からないが、本格的な上昇がはじまり、それが続くと信じるに足る根拠は弱いようにみえる。

 連敗の泥沼にはまったチームは目の前の1勝を切実に求める。相手のミスや幸運で得た勝利も大切にせざるを得ない。しかし、よいチームは連敗脱出をきっかけに改めて長いシーズンを展望し、弱点を分析したり戦力を補強したりといった作業に着手するだろう。8年にわたる出生率の下落局面からようやく抜け出した今は、過去の政策の限界を見極めて補完し、さらに先を見据えて根本的な変化を試みるべき時だ。子を産み育てやすい社会を作るための長期的なビジョンをもち、それを着実に実行していけば、すぐには出生率が上がらなくとも、落胆したり焦ったりする必要はないはずだ。

//ハンギョレ新聞社

イ・チョルヒ|ソウル大学経済学部教授・国家未来戦略院人口クラスター長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1185146.html韓国語原文入力:2025-03-04 08:00
訳D.K

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