ウクライナ戦争は、当初は欧州の戦争ではなかった。米国とロシアの戦争だった。欧州は「自分の意志半分、他人の意志半分」で米国に背中を押された。戦争に足を突っ込むと抜くことができなくなり、泥沼に陥った。時には米国よりも強硬にロシアを罵倒し、ウクライナ支援を主張した。そうしているうちに、米国が心を変えた。帰ってきたドナルド・トランプ大統領がロシアの要求をほとんど受け入れ、電撃的に終戦交渉に合意した。欧州には一言も言わなかったし、終戦後はウクライナに責任を持つよう押し付けた。欧州は、このままでは戦争を終わらせることはできないとして、米国のズボンの裾をつかんでいる。
欧州は、身も心も捧げお金も与えたのに、いまは「お前こそしっかりしておけ」と言われ頬を叩かれた状態だ。16日のミュンヘン安全保障会議では、米国のJ・D・バンス副大統領は「欧州に対する最大の脅威は、ロシアや中国でなく、内部から来る」と言い、ドイツ政界が極右ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を無視していることを強く批判した。「ドイツのための選択肢」はウクライナ戦争に反対している。
欧州はなぜ、このような悲惨な境遇に陥ったのだろうか。米国の独走と傲慢によるものだろうか。欧州の誤った立ち回りと判断だろうか。欧州としては、目の前で繰り広げられるウクライナ戦争が喜ばしいわけがない。2014年のロシアのクリミア半島併合とドンバス内戦で危機が高まると、ドイツとフランスは仲裁に乗り出し、2015年までにミンスク協定1・2を締結させた。ロシア系住民が住むドンバスに高度な自治を保障し、内戦を解決しようとした。
欧州はこのときからふらふらしはじめた。ミンスク協定は守られなかった。核となるドンバス地域の自治のための選挙が実施されなかったためだ。ウクライナ政府にこれを実施する意志も能力もなかったことが、最大の要因だ。ウクライナ民族主義勢力が猛烈に反対し、その民兵隊がドンバスでテロ攻撃を行った。ドンバスの反乱軍とロシアは「泣きたいところへちょうど頬を叩かれた」ようなものだった。
この協定の保障者である欧州は何をしたのか。ウクライナ戦争勃発後の2022年12月7日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)はドイツ紙「ディー・ツァイト」のインタビューで、「ミンスク協定はウクライナに時間を稼がせようとする試みだった」とし、「現在みられるように、ウクライナはこの時間を利用してさらに強くなり、2014年と2015年のウクライナとははっきり違う」と述べた。その間にウクライナを武装させようとする意図だったということなのか。
欧州とロシアの協力に反対した米国の顔色をうかがい、ドイツは一進一退した。欧州‐ロシア協力の象徴であるロシアの巨大欧州パイプライン「ノルドストリーム計画」をめぐり、米国と激しく対立したことによる負担も重かった。戦争が起きると、ドイツはノルドストリームのパイプラインを自発的に閉めた。2022年9月末にはノルドストリームのパイプラインが爆発した。ウクライナの工作であり、その背後に誰がいるのかは明白だったが、ドイツは沈黙した。
ノルドストリームのパイプライン爆発は、ウクライナ戦争で破壊された欧州経済の象徴だ。欧州経済の機関車であるドイツは、ウクライナ戦争によって安く便利に輸入していたロシアのガスなどのエネルギー供給が断たれ、エネルギー価格が高騰したことで、エネルギー集約的な産業の競争力が大幅に低下した。ドイツのガスの32%、石油の34%、石炭の53%がロシアから輸入されていた。米国はロシアとの協力を警告していたとして、ロシアとの関係を断絶するよう要求した。
別の考え方をしてみよう。自分に利益を与えることが多い隣人とは、仲良くしなければならないのか、不和でなければならないのか。ここで浮かび上がるのがロシア脅威論だ。しかし、ロシアにとって欧州は脅威ではなかったのか。中世の時代からの、スウェーデン、ポーランドに続き、フランス、ドイツのロシア侵略は何だったのか。ナポレオンとヒトラーから欧州を救ったのはロシアではないか。
米国は、ロシアは侵略者であり脅威の根源だという主張を一日でひっくり返し、関係改善に乗り出した。しかし、欧州はいまでもロシア脅威論を掲げている。欧州はいまこそ、米国のように思考しなければならない。トランプ大統領が圧力をかける通り、英国を含む欧州が国内総生産(GDP)比で5%まで防衛費を増額した場合、2024年を基準にすれば、米国の国防費8240億ドルを凌駕する1兆1000億ドルになる。現在は4100億ドルにすぎない欧州の国防費が米国の水準まで増えれば、欧州は米国を必要としなくなる。むしろ、欧州がNATOから脱退し、欧州独自の軍隊や軍事同盟を結成すれば、米国がしがみつくことになる可能性もある。
米国がロシアと手を組むのは中国のためだ。ならば、欧州もいまこそロシアと和解し、中国と手を組まなければならない。それが勢力均衡の論理であり、地政学の基本だ。欧州が米国から侮辱されるのは、長きにわたり米国のもとで暮らしていたため、独自の思考能力を失ったからではないだろうか。欧州へのあのような侮辱は欧州だけのことでは済まない。大韓民国は欧州の国々よりはましだと自信を持って言えるのか。
チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )