尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が3日深夜に電撃的に宣布し、153分後に事実上「鎮圧」された非常戒厳は、尹大統領の「政治的自傷行為」というのが大方の見解だ。野党が非常戒厳解除要求決議案を処理できる十分な議席を持っている状況で、これを阻止する準備もなく、要件も手続きも無視し、勇み足で非常戒厳宣布に踏み切った理由は何なのかをめぐり、様々な分析が飛び交っている。
有力な見方の一つは(夫人の)キム・ゴンヒ女史を守るためだ。尹大統領が先月26日、3度目の拒否権を行使した「キム・ゴンヒ特検法」は10日に国会での再表決を控えている。ところが最近、与党「国民の力」のハン・ドンフン代表が賛否について「戦略的曖昧さ」を示したことで、与党の離脱票(賛成)が増える可能性があるとみられていた。尹大統領にとってキム・ゴンヒ女史は「聖域」同然であり、キム女史に対する野党の度重なる批判に不快感をあらわにしてきたにもかかわらず、ともすれば与党の「協力」で特検が実現する余地が生まれたことで、無理な手を使ったということだ。8月から戒厳説を主張してきた野党「共に民主党」のキム・ミンソク最高委員は4日、ラジオ番組のインタビューで、「憲政秩序を破壊してでもキム・ゴンヒ特検を阻止するという病的執着が生んだ状況がついに到来した」と主張した。
4日は野党がチェ・ジェヘ監査院長、イ・チャンス・ソウル中央地検長らの弾劾訴追案の国会本会議での表決を予告した日で、尹大統領がこれを阻止しようとしたという分析もある。民主党が検察などの特殊活動費を全額削減した来年度予算案を単独で処理したことも、尹大統領を刺激した可能性がある。20%前後の支持率の尹大統領に残された事実上の国政運営の動力は検察・警察・監査院などの司正機関だけだが、野党が彼らの活動にブレーキをかけようとしたため、「武力示威」に出たということだ。実際、尹大統領は前日の緊急談話での非常戒厳宣布で「弾劾と特検、野党代表を守るためのこじ付けで国政が麻痺状態」だと述べ、民主党を激しく非難した。
尹大統領夫妻の公認介入疑惑の中心人物であるミョン・テギュン氏が前日に拘束起訴され、彼が特検を要求するなど新たな暴露の可能性が高まったことで、戒厳を宣布したという見方もある。ミョン氏の弁護人はこの日「携帯電話に関するミョン氏の様々な発言、拘束起訴当日の特検要求発言、そして検察の『証拠隠匿教唆』容疑の適用などが、尹大統領を圧迫したと思われる」と語った。これに先立ち、ミョン氏は「私が拘束されれば1カ月以内に政権が崩壊する」と主張した。特にミョン氏は起訴前に弁護人を通じて、尹大統領夫妻と通話する際に使った携帯電話を野党などに渡すことも考えていると伝えたが、これが「引き金」となったともいわれている。改革新党のイ・ジュンソク議員は同日、ラジオ番組のインタビューで、「(ミョン氏が)特検を主張するのは、事実上、本人が持っている資料のようなものを積極的に提供するという意思表示ではないか」とし、「そのような情報を大統領が入手し、到底正常な方法では阻止できないという判断をしたのではないか、このように考える議員もいる」と主張した。
普段からよく「激怒」をあらわにする尹大統領の性格と「権威主義検事リーダーシップ」も、戒厳宣布の強行に影響を及ぼしたという見解もある。任期前半に大統領室で勤務した与党関係者は、「尹大統領は検事時代のスタイルのためか、随時1対1の報告を受け、激しく叱責する場合が多かった。システムや組織の意思決定に対する理解がほとんどなかった」と語った。