「新冷戦」という言葉が初めて出始めた時は、「半信半疑」という意見がかなりあった。適切でないとか大袈裟だという反論も出た。しかし、今や新冷戦はこの時代を描写する有力な表現となりつつある。
今度は「新・悪の枢軸」という言葉の番だ。北朝鮮とロシアの首脳会談が触媒の役割を果たしている。中国、ロシア、イラン、北朝鮮が米国側の主張する「新・悪の枢軸」だ。共和党関係者たちはこれをさも常識かのように口にする。ドナルド・トランプ前大統領の安保補佐官を務めたロバート・オブライエン氏も23日、CBSとのインタビューで、4カ国を「悪の枢軸」と呼んだ。ワシントン・ポスト紙のコラムは「悪の連帯」という言葉を使った。
元祖「悪の枢軸」は、9・11テロから4カ月後の2002年1月、ジョージ・ブッシュ大統領が一般教書で名指ししたイラン、イラク、北朝鮮だ。ブッシュ大統領は第2次世界大戦時の枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)にちなんでこの新造語を作り出した。ジョー・バイデン政権と民主党側は、このような言葉をほとんど使っていない。共和党政権の失敗した対外政策の象徴のようになってしまった言葉を使うのは得策ではないからだ。
ところが、実は「新・悪の枢軸」の概念の基本枠組みを作ったのはバイデン政権だ。 国家情報局(DNI)が発刊する「年次脅威評価」報告書は、バイデン政権の初年度の2021年から序論で中国、ロシア、イラン、北朝鮮を別途に取り上げ、最も深刻な脅威として提示し始めた。これまでは分野と地域ごとに脅威を説明し、これらの国々について言及してきた。今や米国では新しい叙述方式に従わなければ時代遅れと言われるかもしれない状況だ。3月にはジョン・アクリーノ・インド太平洋司令官まで「悪の枢軸」という表現を使った。バイデン政権では、彼が初めてこの表現を公に使ったものとみられる。
権威主義政権の連帯を「悪の枢軸」や「新・悪の枢軸」と呼ぶのに、何が問題なのかと思うかもしれない。ところが、実はそれほど単純な問題ではない。ブッシュ大統領が「悪の枢軸」を打ち負かそうとした後、アフガニスタンとイラクで戦火があがった。米国は、北朝鮮に対しても先制打撃を示唆し、北朝鮮核問題を再びこじらせた。宥和局面だったイランも一瞬にして敵に回した。西欧の言う善と悪には、かなり宗教的な意味合いと感情が含まれている。そのような二分法的な世界観において、悪とは対話と矯正ではなく、撲滅の対象にすぎない。
このような概念のもう一つの問題は、対象の違いを区別できず、その違いの活用も困難にすることだ。「新・悪の枢軸」4カ国のうち3カ国が核武装国だ。残りの一国であるイランも、核武装の道に進む可能性がある。約20年前とは次元の異なる新たな「悪の枢軸」をどうやって一度に扱うことができるのか疑問だ。
「悪の枢軸」は自ら生まれる場合もあるが、そう呼ぶ側によって作られ成長する場合もある。米国は、彼らが力を合わせて安全保障を阻害していると主張するが、向こうは、米国が自分たちを押さえつけるから団結しなければならないと主張する。紛争と対立の原因を冷静に考えて一つずつ解決するのではなく、「お前たちごときが…」という考えのもとでアプローチするならば、過ちを繰り返す可能性がある。
ところで、悪がどうのこうのと言う人たちに聞きたい。8カ月以上ガザ地区で起きている状況は、悪でなければ一体何なのかと。あれが悪でないならば、悪というものが世の中に存在するのかと。