新生代の更新世に栄えて絶滅した古代鹿「メガロケロス」は体も大きかったが、それより巨大な角で有名だ。このシカは体高2メートルに体重540~600キログラム、角は横幅3.5メートルに達した。メガロケロス(Megaloceros)という名前自体がギリシャ語で巨大な角という意味だ。
メガロケロスは、欧州や北アジア、アフリカなどに生息しており、一部の化石は中国でも発見された。ほとんどの化石がアイルランドの沼地で発見され、復元した姿が現代のヘラジカ(エルク)と似ていることから、「アイリッシュエルク」とも呼ばれる。しかし、ノロ亜科に属するヘラジカとは異なり、シカ亜科に分類される。
メガロケロスは進化を研究する科学者にとって様々な研究素材になってきた。絶滅という概念を研究するきっかけになった動物であり、定向進化説(ある生物が自然選択や性選択ではなく内在的要因でさらに完璧になる一定の方向に変化するという仮説)の代表的事例に挙げられる。しかし、現在までもメガロケロスの角がなぜこのように大きく育ったのか、なぜ絶滅したのかについては明らかになっていない。
ただし、1970年の進化生物学者であるスティーブン・ジェイ・グールド博士と共に研究した科学者たちは、メガロケロスと他のシカ科動物の角を比較分析した結果、メガロケロスの体の大きさと角の成長が密接な関連があるという仮説を示した。彼らはシカの体高と角の大きさをデータ化したが、シカの体の大きさと比例して角が育ったものの、体が育つ速度より角が育つ速度がさらに速かったと推定した。進化学者らは、これを「優性長(Positive allometry)」の代表的な事例に挙げた。優性長とは生物の全体の成長に比べて、ある一部や器官がより早く成長することをいう。
ところが最近、ノルウェーの研究者たちが、グールド博士の主張は一部修正されるべきだと主張しはじめた。オスロ大学のトーマス・ハンセン教授と研究陣は、進化生物学ジャーナルの最新号で「メガロケロスをはじめとする57分類群シカとの角の大きさ、形などを分析した結果、今までメガロケロスの角の体積を17.5リットルと推定したのとは異なり、この古代シカの角の体積は平均25.5リットルで、(従来の仮説より)150%もさらに大きいと推定される」と明らかにした。また、研究陣はグールド博士と過去の研究陣がシカの角で発見した優性長概念は今回も同じように現れたが、これがメガロケロスだけの独特な進化というよりはシカ科全体が似たような様相を呈すると主張した。
ハンセン教授は「グールド博士が完全に間違っているとは言えないが、当時の研究陣が用いたデータと分析法は、今日の基準からすると、非常に不正確だ」とし、「単純にシカの角の長さだけを測定したことなどがそのような例」だと科学雑誌「ニューサイエンティスト」に語った。今回の研究で研究陣はシカの角の長さではなく、体積で全体の大きさを測った。
依然としてグールド博士の仮説が有効だとみる研究者もいる中で、メガロケロスがなぜ約7700年前に絶滅したのかも、今後解くべき謎として残っている。角が生存を妨げる要素だったのだろうという主張と、気候変化によって絶滅したのだろうという主張などが混在している。前者の場合、角がますます大きくなったことで、木の枝に角が引っかかり、生息地が変わるとともに、植生も変わったものと推定する。ハンセン博士は「現存するシカの中で、メガロケロスのように体が巨大だが、角はそれよりはるかに小さいヘラジカが『角のミステリー』を解く手掛かりになるかもしれない」と語った。