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利子月55万円、破産…韓国の50代の退職者が経済的死に至るまで(2)

登録:2024-02-01 08:44 修正:2024-02-01 09:49
イ・インスクさんが昨年11月21日、ソウルのあるカフェでハンギョレのインタビューに応じている=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

3億ウォンのマンションも競売に

 こうして増えた借金は、高金利の時代になってチェ・ギソンさんの足を引っ張った。3%台だった金利は2022年末に7%台にまで上昇し、利子は月500万ウォン(約54万9000円、1月31日のレートによる。以下同)にまでふくれあがった。マンションの担保額の上限に達したため仮差押通知が送られて来て、まもなく競売にかけられた。

 裁判所競売情報の売却統計によると、昨年、全国60裁判所に認められたマンション、戸建て、その他各種集合住宅の競売件数は6万7360件で、2022年の4万4736件と2021年の4万7196件はもちろん、コロナ禍初年の2020年の6万597件すらもはるかに上回った。高金利に耐えられず、保有している住宅が競売にかけられる人が急増しているということだ。

 チェ・ギソンさんは結局、妻と共に弁護士事務所を訪ね、夫婦で個人破産を申請した。そして昨年10月、母親が世を去った。「お金があったなら、母はもっと生きられたでしょう。私が母を殺したんです」

 チェ・ギソンさんは破産免責決定が下されて店の保証金も失うことになれば、居酒屋をたたんで宅配の仕事を始めようと考えている。「50代以上にできるのは宅配や運転職しかありません。生きたいのに追い詰められていると感じます。破産したからといって知人からの借金はなくならないので、働いて残った借金を返さなければ」

 破産する中高年の多くがチェ・ギソンさんのように多重ケアの状況に置かれている。自分の生活のための稼ぎではなく、扶養家族の生活のための稼ぎが中高年の肩に何重にものしかかり、経済的破産へと導くのだ。

 「ダブルケアとは、60代になっても子どもが自立しておらず、親も世話しなければならないケースのことです。中年が社内で定年が保証されていないため、ごく平凡な中産層でも経済的な問題が発生するのです。日本では20年前にすでに社会問題になっており、韓国でもすぐに現れうる現象です」。国民健康保険公団のユ・エジョン統合ケア研究センター長の説明だ。

親と独立できない子の世話に板挟みの中高年

 イ・インスクさん(62)には、ダブルケアは「時間差」で発生した。2002年、配偶者が健康食品事業に失敗し、借金を残して行方をくらました。銀行から差し押さえられ、イ・インスクさんは間もなく信用不良者(金融債務不履行者)となった。取り立てがやってきて脅迫される事件も起きた。不幸は重なり、当時7歳だった下の息子は脳梗塞と診断された。

 週末も休まずに手当たり次第に働かなければならなかった。一日12時間、食堂のホールで働き、サウナの掃除もした。しかし、4大保険に入れる職場では働けなかった。「一度はホテルのルームメイドの仕事をしてみようと思って派遣業者に所属して2カ月教育を受けたんですが、健康保険料を払うのを見て差し押さえが来るということを知りました」

 週末にも働く母親と「遊園地に行くのが願い」だと言っていた2人の息子も、10代になってからはアルバイトをしてイ・インスクさんを助けた。「お米がなくなったので、知り合いのお姉さんの家にお米を借りに行って、言い出せずに帰ってきたこともありました」

 2人の息子が成人してからは、保険設計士の仕事をはじめた。だがコロナ禍がはじまって営業ができなくなった。電話での営業では成果が上がるはずがなかった。さらに2021年に、忠清南道瑞山市(ソサン)に住む母親(80)に認知症の症状が現れはじめた。週末には往復6時間かけてソウルと瑞山を行き来して母親を看病するため、仕事を減らさなければならなかった。

 ダブルケアの費用の負担と急激な所得の減少で、結局イ・インスクさんは昨年5月に破産を申請し、先月免責決定が下された。「いつかは返せるだろうと思いながら頑張っていたんですが、20年たっても変わらないんですよ。法的に一度整理して、人間らしい生活を送ってみようと思ったんです」

 イム・スチョルさん(仮名、67)は80万ウォン(約8万7900円)の基礎生活保障(日本の生活保護にあたる)受給費でなんとかまかないつつ、同居する30歳を超えた2人の娘の生活費まで負担しながら暮らしている。イム・スチョルさんは運転代行とバイク便の労働者として働いていたが、2016年に直腸がんの手術を受けてからは働けなくなった。せめて公共勤労でもしようと思ったが、症状のせいで勤労能力評価で勤労能力がないとされ、応募もできなかった。

 32歳の長女は2022年5月に公企業に臨時職として就職したが、正社員への転換に失敗して今は無職だ。31歳の次女はマーケティング会社に正社員として就職したが、役員からパワハラの被害にあい、辞めた。2人の娘は再就職を準備中だが、容易ではない。

 イム・スチョルさんは2022年に破産を申請し、免責決定も受けた。「娘たちを独立させたくても、私に助ける能力がないから、それも言い出せません。娘たちも家計をとても心配しています」

 2022年の韓国保健社会研究院の発表によると、満19~49歳の成人の約29.9%が親と同居している。特に満19~49歳の非婚成人は64.1%が親と同居。「高齢化で複数の世代が同居していることで、人口学的に中高年層が親と子を両方ともケアしうる環境になりつつあります。中高年層が失職や自営業の失敗などに直面すると、扶養する家族にも連鎖危険効果が発生します」。韓国保健社会研究院のチェ・ソニョン副研究委員はこう語った。

 チェ・ギソンさんはマンションが競売にかけられたため、先月保証金200万ウォン(約22万円)、家賃55万ウォン(約6万400円)の66平米(20坪)のアパートを1年の短期で賃貸して引っ越した。家主が直前の借家人に保証金を返さなかったため紛争中の家なので、いつまた出て行くことになるか分からない。チェ・ギソンさんの家族にとって、マンションが競売にかけられたのは大きな衝撃だった。「20年前、狭い家に住んでいた時、末娘のソウォンが『私たちもエレベーターのある家に住みたい』と言ったんです。私も子どもの頃、リンゴの箱で作った「箱部屋(バラック)」に住んでいたんです。すでに経験している貧しさ、だからなおいっそう怖いですね」

パク・チュニョン、キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1126586.html韓国語原文入力:2024-01-31 05:00
訳D.K

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