ロシア軍内の中心的な将軍がワグネルの起こした武装反乱に「同調」し、それにより「粛清」されたとする報道を、西側の主要メディアが流している。ロシア大統領府は関連報道を一蹴したが、一部のロシアメディアはこれを裏付ける報道を行った。
米国「ニューヨーク・タイムズ」は27日、1月までウクライナ駐留ロシア軍の総司令官を務めていたセルゲイ・スロビキン航空宇宙軍司令官らは今回の反乱計画を事前に知っていたと米国の情報当局が判断していると報じた。同紙は、スロビキン氏の関与の事実が判明したとすれば、ロシア軍の内紛がきわめて深刻であることを示す事例になるとした。その後、CNNや英国「フィナンシャル・タイムズ」なども粛清説の報道を裏付ける後続報道を行った。
シリア内戦などで果敢かつ残酷な作戦を遂行し、「アルマゲドン将軍」と呼ばれるスロビキン氏は、昨年下半期には強硬かつ効率的にウクライナ戦争を指揮するなど、ロシア軍内では信望と影響力が強い。スロビキン氏は、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が反乱を宣言すると、すぐにテレグラムに投稿した動画を通じて「敵は私たち内部の政治状況が悪化することを望んでいる」とし、「(反乱を)止めるよう要求する」とする立場を明らかにしている。
プリゴジン氏は、シリア内戦でともに戦ったスロビキン氏を高く評価していた。先月初めには、スロビキン氏がワグネルとロシア軍首脳部との間の摩擦を仲裁する役割を果たしているとして、「彼はロシア軍で戦う能力を備えた唯一の将軍」と述べた。
スロビキン氏は昨年9月、ウクライナ駐留ロシア軍の総司令官に任命されたが、今年1月に副司令官の地位に降格した。スロビキン氏の同調・粛清説について、ロシアでは相反する反応が出ている。ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は28日、ニューヨーク・タイムズの前日の報道は事実ではないと断言した。ペスコフ報道官は、その報道に対する質問に「こうした事件をめぐり、多くの憶測やうわさがある」としたうえで、「これもそういった事例の一つだと信じる」と述べた。
翌日29日、ロシアで発行されている英字新聞「モスクワ・タイムズ」は、ロシア国防省関連の消息筋の話を引用し、スロビキン氏が逮捕されたと報じた。同紙は、スロビキン氏がワグネルの反乱について尋問を受けていると報じた。ある消息筋は「スロビキンは明らかにプリゴジン側だった」と述べた。
これに先立ち、CNNは28日、あるロシアの軍事ブロガーの話を引用し、軍粛清説を報じたことがある。「リバル」という人気の高いブロガーは、粛清はすでに進められており、民間人の被害を懸念してワグネルを射撃することを拒否した中間級の司令官に影響を及ぼしていると明らかにした。さらに、「ロシア連邦警護庁(FSO)の捜査官が、数日にわたり軍指揮部と各部隊の司令官を対象に調査を進行中」であり、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナ戦争について形式的に責任を持ち、ミハイル・テプリンスキー空輸部隊司令官(中将)が実質的な指揮を担当していると述べた。また、別の有名軍事ブロガーであるボリス・ロジン氏も、今回の反乱の「肯定的な側面は不十分な者と不安分子の粛清」だと述べた。
西側の報道機関が流す同調・粛清説は、反乱時にプリゴジン氏のワグネル部隊が留まったロストフナドヌーの軍事基地などで、一部の部隊と指揮官が消極的な態度を取ったり、スロビキン氏がプリゴジン氏と良好な関係を維持していたという点などに基づいている。だが、ロシア指導部の分裂を狙った西側情報機関の「情報工作」である可能性も排除できない。ニューヨーク・タイムズは「米国の官僚たちは、他の指揮官よりも有能で無慈悲なスロビキン氏の地位を脅かす情報を出すことに関心がある」とし、「彼が除去されるとすれば、疑いの余地なく、ウクライナの役に立つだろう」と指摘した。