去年4月、当選者の身分だった尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がチョン・ジンソク特使団長ら日本に派遣した特使団一行と夕食会を持った際、焼酎の「チョウムチョロム」のラベルの文字が「申栄福(シン・ヨンボク)体」(「統一革命党事件」で逮捕され20年間服役した思想家の申栄福氏が作った書体)であるという理由で「私はそんなものを飲まない」と言ったというエピソードを、私は今年3月にコラム(「中央日報」の「キム・ヒョンギの時々刻々」)で知りました。その時はまだ「まさかそんな」と思っていました。
私が間違っていたようです。尹大統領なら十分にありうるということを、近ごろ私は改めて実感しています。先月28日の国務会議終了後、イ・ドウン報道官が尹大統領の発言をこのように紹介しています。
「統一部は今後、北朝鮮への支援は中止し、北朝鮮が核開発を推進する状況ではたった1ウォンでも与えることはできないということを明確にせよ」
「北朝鮮の人権、政治、経済、社会的実状などを様々なルートによって調査し、国内外に知らしめることが、安保と統一の核となるロードマップだ」
「先週、大田(テジョン)の顕忠院(国立墓地)で行われた西海守護の日の行事で、遺族たちが『日本には謝れと口癖のように言う人々は、我が子を殺した北朝鮮に対してはなぜ謝れと言わないのか』と訴えていたが、このような見方が普遍的に広がらなくてはならない」
あきれました。信じられなかったので何度も読み返しました。
あるのは感情だけで品格、度量、力なし
尹大統領はいわゆる保守政党の大統領です。北朝鮮の核の廃棄や北朝鮮の人権の改善に対して強い意志を鮮明にするのは当然のことです。大統領選挙の公約集にも「北朝鮮の完全な非核化の実現」、「北朝鮮人権財団の早期設立」などが記されています。しかし、今回の発言はとても奇妙です。
まず、北朝鮮の人権を安全保障と統一のロードマップにつなげる論理は理解困難です。北朝鮮の人権の実情をきちんと知らしめてこそ国民の安保意識が強化され、統一を早めることができるという話のようですが、どういう意味なのかよくわかりません。
「北朝鮮への支援中止」も話になりません。統一部が北朝鮮に何を与えたというのでしょう。尹錫悦大統領就任後、いや、文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代の2019年の「ハノイ・ノーディール」以降、南北関係は事実上途絶えています。
「1ウォンも与えることはできない」という感情的な表現も納得できません。北朝鮮を物乞い扱いする発言だからです。当惑した統一部はその日午後、「人道支援は一貫して進めるという従来の立場に変わりはない」と火消しに乗り出しました。
尹大統領の強硬発言は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の核物質生産拡大指示など、北朝鮮による最近の武力示威への対応と解釈できます。しかし、大統領の対外発言には品格と度量が必要です。乱暴な言葉を並べ立てるより、重みのある一言の方が力を持ちうるのです。
しかも「日本には謝れと口癖のように言う人々は、我が子を殺した北朝鮮に対してはなぜ謝れと言わないのか」という天安艦の遺族の訴えが普遍的に広がるべきだと言ったのは、一種の暴言です。
天安艦の遺族は言いうるとしても、大統領が言うべきことではありません。「韓日関係改善に反対すればアカ」と言っているのと変わらないからです。韓国国民を「親日」と「従北」に分断する危険な発言だからです。
尹大統領は10日前の3月21日の国務会議でも、「前政権は泥沼にはまった韓日関係をそのまま放置した」とし、「韓国社会には排他的民族主義や反日を叫ぶことで政治的利益を得ようとする勢力が厳然として存在する」と述べました。文大統領と「共に民主党」を一種のイデオロギー的レッテル貼りで攻撃したのです。
(2につづく)