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最高裁判決・被害者の苦痛は無視…「日本完勝」もたらした尹政権

登録:2023-03-06 01:16 修正:2023-03-06 08:16
昨年11月29日、ソウル瑞草区の最高裁前で行われた三菱強制動員最高裁判決4周年記者会見で、三菱重工業に強制動員された被害者のヤン・クムドクさんが発言している=キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が6日に発表する日帝強占期の強制動員被害者問題の「解決策」の骨子は、「第三者による併存的債務引受」▽韓日の財界団体である全経連-経団連による「未来青年基金(仮称)」造成などだ。

 これには強制動員に対する日本政府の直接の謝罪も、戦犯企業の謝罪と賠償も含まれていない。三菱重工業などの日本の戦犯企業の「損害賠償(慰謝料支払い)責任」を認めた大韓民国最高裁の最終確定判決(2018年10月30日、11月29日)とは接点が全くない。韓国最高裁の判決を「国際法違反」だとして頑強に拒否してきた日本政府の「完勝」だ。

 これは「金大中(キム・デジュン)-小渕共同宣言を継承する」と公言した尹大統領の昨年8・15光復節祝辞に照らしても、大きく後退した「自己否定的解決策」だ。1998年10月8日に当時の金大中大統領と日本の小渕恵三首相が東京で共同で発表した「韓日共同宣言-21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」の2大軸は「過去の直視」と「未来志向」だ。ところが尹錫悦政権は今回の解決策で、「未来志向」を口実として「過去の直視」という絶対的課題を投げ捨てた格好だ。

 政府の発表に続き、日本は岸田文雄首相が「過去の談話を継承する」という表現で歴史に対する反省・謝罪を示すものと考えられているだろうが、これは侵略戦争に対する包括的な反省であって、強制動員問題に直接的に言及するものではない。また、日本の歴代政権は「談話の継承」の意思を表明してきたため、今回の問題に対する追加措置だともみなしがたい。

 尹錫悦政権が1月12日に初めて公にした「第三者併存的債務引受」案とは、最高裁判決によって賠償責任を負った日本の加害戦犯企業の「債務」を第三者である韓国の日帝強制動員被害者支援財団が引き受け、1965年の韓日請求権協定で恩恵を受けたポスコなどの韓国企業から寄付金を集めて被害者に支給するというもの。加害者は高みの見物をしていてもよいという奇異な解決策だ。

 「未来青年基金」は、全経連と経団連が共同で基金を造成し、韓国の留学生などに対する奨学金の支給などの事業を行うというもの。しかし、これは強制動員被害者問題と直接関係のない別個の事案だ。世論の逆風を意識した「希釈」や、「粉飾」(強制動員被害訴訟代理人団のイム・ジェソン弁護士)だとの批判の声が一斉にあがっているのはこのためだ。

 何よりもこのような尹錫悦政権の解決策は「未来志向の韓日関係を切り開く」という美辞麗句だけでは覆い隠せない、政権のレベルにとどまらない根本的な問題を抱えている。

 第1に、国際人権法の大原則である「被害者中心主義」と真正面から衝突する。被害者が中心に立っていない「外交的解決」はさらに深い泥沼への道だということは、2015年12月28日の朴槿恵(パク・クネ)政権と日本の安倍晋三政権によるいわゆる「慰安婦合意」で確認されている。韓日関係に長く関与してきたある人物は「尹錫悦政権は『みの着て火事場に飛び込む』(非常に危険な状況で自ら災いを招く)ようなもの」だとし、「『慰安婦合意』より深刻な対立が生じうる」と指摘した。

 第2に、日本の戦犯企業の参加なき「第三者併存的債務引受」策は、三菱重工などの「国際法違反と違法行為による損害賠償」責任を認めた最高裁判決を無力化するという問題を抱えている。2018年の最高裁判決は、1965年の韓日請求権協定だけでは「大韓民国国民個人の請求権は消滅していない」ということを明示した、「大韓民国司法の国際裁判管轄権」を前提とした最高憲法解釈機関の判断だ。尹錫悦政権の解決策は「違法な植民地支配と侵略戦争による被害の救済」を試みたこのような最高裁判決の根本精神を無視している。

 第3に、このようなことから尹錫悦政権の解決策は、日本による植民地支配は「合法」だと主張する日本と「違法」だとする大韓民国の長年の意見の相違について、事実上日本政府の主張を認めた外交・行政行為として解釈・悪用される危険性がある。大韓民国憲法は「3・1独立運動で建設された大韓民国臨時政府の法統を継承する」と前文に明示しており、2018年の最高裁判決は「大韓民国憲法の規定に照らせば、日帝強占期の日本による朝鮮半島支配は違法な占領」だとの憲法解釈を前提としている。尹錫悦政権の「第三者併存的債務引受」策について、ソウル大学のナム・ギジョン教授ら多くの韓日関係の専門家が「植民地支配は合法だったと主張する日本が、これを自国に有利に解釈する可能性は濃い」と懸念する理由はここにある。

 しかも、尹錫悦政権と岸田政権の合意によって強制動員被害者問題が解消される可能性もほとんどない。日本の戦犯企業を相手取った裁判で韓国最高裁で勝訴した被害者(4件15人)は、大韓民国政府が公式に認めた強制動員被害者(21万8639人)の0.0069%に過ぎない。すでに係争中の訴訟だけでも66件、原告の数は1124人にのぼる。最高裁が2018年の判決を覆さない限り、ほとんどは勝訴の可能性が高い訴訟だ。尹錫悦政権の一方的な「解決」宣言で済む問題ではない。

イ・ジェフン先任記者、東京/キム・ソヨン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1082198.html?_fr=mt1韓国語原文入力:2023-03-05 16:24
訳D.K

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