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韓国行安部長官の弾劾訴追、判断は憲法裁へ…「災害対応の失敗」が事由になるかが争点

登録:2023-02-09 06:22 修正:2023-02-09 08:41
イ・サンミン行政安全部長官が8日午前、大統領府迎賓館で開かれた第56回中央統合防衛会議に出席している/聯合ニュース

 梨泰院(イテウォン)惨事発生から103日目を迎えた8日、韓国国会がイ・サンミン行政安全部長官に対する弾劾訴追案を可決したことで、イ長官の責任をめぐる攻防は憲法裁判所の判断に委ねられた。弾劾訴追を主導した野党は、イ長官が159人の犠牲を引き起こした惨事の対応に失敗し、憲法と災害安全法・国家公務員法などに違反したうえ、国政調査で偽証した疑いもあり、弾劾の事由が十分だとみている。前例のない国務委員の弾劾訴追で政治的な爆発力が大きいだけに、災害対応の失敗をめぐる責任が弾劾の事由に当たるかどうかをめぐり、憲法裁の弾劾審判に関心が集まるものとみられる。

「あの日、あの場所で果たせなかった責任を果たすため」

 「今、私たちは決断の時間を控えています。2022年10月29日、あの日、あの場所で私たちが果たせなかった責任を果たすため、この場に立ちました」。野党「共に民主党」のキム・スンウォン議員は同日、国会本会議場で、イ長官弾劾案の提案理由についてこのように述べた。キム議員は犠牲者の名前を一人ひとり読み上げたうえで、イ長官を弾劾しなければならない理由について説明した。

 議員176人が共同発議した弾劾案で、野党は「災害および安全管理業務を総括・調整し、これを通じて災害と災難を予防し、その危険から国民を守るべき国家の義務を履行するのが被訴追者(イ・サンミン長官)の職に与えられた任務の要」だとしたうえで、「いつにも増して行政安全部長官として適切な職務遂行が強く求められる危機状況で、憲法と法律に違反した」と指摘した。イ長官が惨事直後、災害対策本部や収拾本部の迅速な設置など災害安全法において行政安全部長官に求められる責任を放棄したため、適切な救助・救急活動が適時に行われず、被害を拡大させたとみたのだ。このため野党はイ長官が「すべての国民は人間として尊厳と価値を持ち、幸せを追求する権利を有する」という憲法第10条にも違反したと指摘した。

 野党はまた、イ長官が惨事当日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領より遅く報告を受けたにもかかわらず、自宅で運転手を待っていたため惨事現場に到着するまで80分以上を無駄にしたなど義務に反しただけではなく、不適切な発言を繰り返して遺族を傷つけたことも国家公務員法の誠実・品位維持の義務などに反するとみなした。国政調査で遺族名簿の確保などをめぐって偽証した疑いも弾劾の理由の一つに挙げられた。キム議員は「このような総体的な対応の失敗で、被訴追者のイ・サンミン長官は行政安全部長官としての職責の遂行が不可能なほど国民の信任を失った」と述べた。

憲法裁の審判、険しい道のりを予想

 憲法裁は国会から弾劾訴追議決書を受け取り、近く審理に着手する予定だ。しかし、憲法裁の弾劾審判までは険しい道のりが予想される。国会法制司法委員長がイ長官の弾劾を求める訴追委員を務めることになるが、キム・ドウプ法司委員長は与党「国民の力」の所属だ。キム議員は同日、国会本会議前に記者団に対し、「訴追委員が法的地位であるため、憲法と法律に従って活動せざるを得ず、(弾劾事案に)当たらないものを当たるともいえない」と述べた。

 内容面では、イ長官が災害対応への主務長官として「重大な憲法・法律違反」を犯したかどうかが弾劾の可否を分けるカギとなる。ある憲法専門の法学部教授は「(違反したという規定としては)憲法より具体的な法律を適用しなければならないが、災害安全法における責任も直接的に行安部長官の責任だというのは難しいのではないかと思われる。その部分を国会の訴追委員が証明しなければならないが、キム委員長がそれを誠実に行うかは疑問だ」と語った。

 論争が予想される事案であるだけに、憲法裁がもう少し幅広く考えなければならないという指摘もある。亜洲大学法科大学院のオ・ドンソク教授は、「憲法第10条は国家の責任、義務とつながる条項であり、これを宣言に過ぎないとみなした場合、憲法は死文化せざるを得ない」としたうえで、「実質的な法違反も問わなければならないが、憲法が追求する『国家的責任』と現実的な状況を考慮し、この問題について厳しく責任を問う必要がある」と話した。元憲法裁研究官のある弁護士は「弾劾は一種の『懲戒手続き』の属性を持っている。刑事機関の嫌疑なし処分とは属性が異なる」とし、「結局、イ長官が重懲戒に値するほど『重大な不誠実』を犯したか否かが争点になるだろう。裁判官の間で相当な議論があるものとみられる」と指摘した。弾劾案が認容されるためには裁判官9人のうち6人以上の同意が必要であり、このような前例は2017年の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾審判が唯一だ。

 このため、野党にとってもイ長官弾劾審判の行方は大きな政治的負担だ。憲法裁判所法に規定された弾劾審判の期間は180日だが、強行規定ではない。棄却決定が出た場合、民主党は「尹錫悦政権を揺さぶるため、無理な弾劾に乗り出した」という政治的逆風にさらされる可能性もある。国民の力のチュ・ホヨン院内代表は、弾劾訴追案が可決された後、「(憲法裁で)弾劾が棄却された場合、民主党は全面的に責任を取らなければならない」とし、「来年の選挙で国民が多数議席を持ってこのような行動に出た民主党に明確な審判を下すだろう」と述べた。民主党のパク・ホングン院内代表は同日、本会議直前の議員総会で、「我々は今後の本会議、与党の法司委員長が務める弾劾訴追委員、憲法裁の認容という3つの壁を乗り越えなければならない」とし、「一つ一つの壁が非常に高く堅固かもしれないが、人間としての良心、国民の常識、国家の責任という3つの力で乗り越えていく」と明らかにした。

オム・ジウォン、チョ・ユニョン、チョン・グァンジュン、シン・ミンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/assembly/1078884.html韓国語原文入力: 2023-02-09 02:43
訳H.J

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