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極端な近親交配、「悪魔の穴」の魚は生き残れるだろうか

登録:2022-11-11 07:18 修正:2022-11-14 06:05
世界で263匹だけが残っている1年生の淡水魚「デビルズホールパプフィッシュ」。長期間の孤立による遺伝的多様性の減少が深刻な水準にあることが分かった。オリン・フォイエルバッハ―氏、合衆国魚類野生生物局//ハンギョレ新聞社

 米国ネバダ州モハベ砂漠の小さな池に長期間孤立している絶滅危機種の魚が、これまで知られたなかでは最も激しい近親交配を経験していることが明らかになった。気候変動に加え有害な突然変異が蓄積し、200匹ほどが残っている淡水魚の生存を脅かしている。

 米国カリフォルニア大学バークレー校の大学院生であるデービッド・チャン氏らによる大学の研究チームは、科学ジャーナル「王立学会報B(Proceedings of the Royal Society B)」最新号に掲載した論文で、デビルズホールパプフィッシュ(学名Cyprinodon diabolis)のゲノム(遺伝体)を分析し、このような結果を得たと明らかにした。

 この魚の生息地は、デスバレーにある石灰岩洞窟の横3.5メートル、縦22メートルの長方形の形をした小さな池で、地下の大水層とつながっており、水深は150メートルを超えるが、魚は水深30メートルより上で生活し、表面近くに柵のように突起している岩の上で繁殖する。

デビルズホールパプフィッシュの生息地の様子。研究員3人が全個体数の調査を一度にできるほどに小さい。米国国立公園局提供//ハンギョレ新聞社

 世界で最も暑い砂漠であるため、池の水温は年中34度で冬には太陽がまったく入らず、なんとか生き延びられる程度にしか餌がないうえ、水中の酸素濃度が普通の魚であれば生存できない2~3ppmの低酸素状態だ。「悪魔の穴(デビルズホール)」と名付けらのは、そうした理由からだ。

 この魚がどれほど長く孤立しているのかをめぐり、議論が起きている。1万~2万年前に孤立したという主張に対して、最近になり、砂漠のオアシス間の交流がはるかに活発であったことがわかったことから、その期間は1000~2000年だろうという主張も出ている。

デビルズホールパプフィッシュの個体数の変化。1990年代以降は減少傾向を示している。縦軸は個体数、横軸は年。赤線は秋、青線は春。デービット・チャン他(2022)「王立学会報B」提供//ハンギョレ新聞社

 この小さな池で孤立しながらもなんとか数百匹を維持してきた個体数は、2014年に35匹まで減少してから回復し、現在は263匹が生存している。研究者らは、このように険しく孤立した環境が、この魚の遺伝的多様性にどのような影響を与えたのかについて調査した。

 この魚のゲノムを分析した結果、近親交配は非常に深刻な水準で行われており、8匹のゲノムのうち平均58%が同一だった。第一筆者であるチャン氏は、同大学の報道資料で「デビルズホールパプフィッシュの近親交配の水準は、子同士がつがいになることが4代から5代の間続く場合に起きるものと同じだ」と述べた。

繁殖地である岩の中ほどに上がったデビルズホールパプフィッシュは、そこで餌を食べ繁殖する。婚姻色に染まった雄の姿だ。オリン・フォイエルバッハ―氏、合衆国魚類野生生物局//ハンギョレ新聞社

 近親交配は、生存に有害な劣性遺伝子や悪性の突然変異が、ふるい分けらず集団の遺伝子に蓄積される結果をもたらす。環境の変化や新たな寄生虫、天敵に対応できず絶滅するリスクも高まる。

 研究者らは、この魚のゲノムから精子の運動性を落とす突然変異が「清掃」されず残っていることを確認した。また、低酸素の環境に適応するために必要な遺伝子5個が完全に消えていることを発見した。

 遺伝的多様性が崩壊し有害な突然変異が蓄積したり、必須な遺伝子が失われる事例は、ロイヤル島に孤立したオオカミやマウンテンゴリラ、一部のインドトラなどで発見されている。研究者らは「この魚の近親交配の水準は、これらの事例に比べ同等かさらに深刻な水準」だと論文に書いた。

 共著者であるクリストファー・マーティン教授は「今回の研究では、遺伝的多様性の減少が生存力にどれほどの影響を及ぼすかについては測定できなかった」とし、「しかし、生存能力を著しく減らす可能性が高い」と述べた。

 研究者らは、1980年に採集したこの魚のゲノムを分析した結果、近親交配の程度は現在の個体と同水準であることが判明したと明らかにした。マーティン教授は「これは、魚にとってはよいニュースかも知れない。35匹まで減少した最近の遺伝子のボトルネック現象がさほど大きな悪影響を及ぼさなかったことを意味する」と述べた。

野生生息地で絶滅する事態に備え、デビルズホールパプフィッシュを保護する避難所の様子=オリン・フォイエルバッハ―氏、合衆国魚類野生生物局//ハンギョレ新聞社

 しかし、遺伝的多様性の減少に加えて、気候変動や人為的な生息地撹乱のリスクは、現在「危急」状態にあるこの魚の生存の可能性をさらに脅かしている。ネバダ州は2013年にアッシュ・メドウズ国立野生生物保護区を設置し、この魚の野生生息地に近いかたちの避難所を作り、万一の事態に備えている。避難所の個体数は、野生集団を上回る400匹に達する。

引用論文: Proceedings of the Royal Society B, DOI: 10.1098/rspb.2022.1561

チョ・ホンソブ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/animalpeople/ecology_evolution/1066434.html韓国語原文入力:2022-11-10 01:16
訳M.S

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