北朝鮮が核兵器の構成や指揮統制体制、使用原則と条件などを明示した「朝鮮民主主義人民共和国核武力政策について」(以下、核武力政策法)を最高人民会議(国会にあたる)の法令として採択した。いわゆる「核兵器使用の教義」を明示することで抑止力を高めようとする意図であり、核経済並進路線への復帰を知らせる対内外的宣言とみられる。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党総書記兼国務委員長は8日、最高人民会議第14期第7回会議で核武力政策法が議決された直後に行った施政方針演説で「朝鮮人民の総意によって国家核武力政策に関する法令を採択したことは、国家防衛手段として戦争抑止力を法的に持つようになったことを内外に宣言した特記すべき事変だ」と述べた。また「米国の目的はわが政権を崩壊させること」だとしたうえで、「米国が作り上げた朝鮮半島の政治・軍事的形勢のもとで、核は絶対に放棄できない」と述べた。
計11条23項からなる核武力政策法は、「核武力は国務委員長の唯一の指揮に服従する」(第3条1項)と規定し、「国家核武力指揮機構」を新設して国務委員長を補佐(第3条2項)することにした。また第6条では、核兵器またはその他の大量殺戮兵器による攻撃が強行あるいは差し迫ったと判断される場合と、国家指導部と核兵器指揮機構に対する核および非核攻撃が強行あるいは差し迫ったと判断される場合の核兵器使用の条件5つを具体的に明示した。
外交安全保障の消息筋は「米国を除く核保有国の大半が特定状況で選択の制約を避けるため、核兵器使用と関連してできるだけ曖昧さを保っている」とし、「一方、北朝鮮はむしろ核教義を鮮明かつ具体的に公開し、抑止効果を高めようとしている」と述べた。
特に核武力政策法第9条1項は「外部の核脅威と国際的な核武力態勢の変化を常時注視し、それに相応して核武力を質量的に更新、強化する」と定めている。来月16日に予定されている中国の第20回全国代表大会で習近平国家主席の3期連任が確定すれば、北朝鮮がいつでも7回目の核実験を実施しうるという見通しが示されているのもそのためだ。
2018年の4・27板門店南北首脳会談を1週間後に控えて「勝利の中で結束した」と宣言した核経済並進路線も、完全に復活したとみられる。金委員長は施政演説で「社会主義のたゆまぬ発展と繁栄を成し遂げるうえで、いかなる侵略脅威も通用しない条件と環境を整えることが重大かつ死活的な要求」だとし、「これを実現するためには敵に圧勝できる絶対的な力を持たなければならない」と強調した。
北韓大学院大学校のク・カブ教授は「2018年には南北・朝米首脳会談を控えて経済的条件改善のために外交的交渉に出たが、今は経済的条件改善のためにも核が必要だというふうに論理が変わった」とし、「経済建設に総力を尽くすことに戦略的路線を切り替えたが、朝米関係の改善という外的条件が満たされなかったため、並進路線への復帰を宣言したといえる」と指摘した。
これに先立ち、北朝鮮の最高人民会議は2013年4月1日に開かれた第12期第7回会議で、10カ条で構成された「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについて」(核保有法)という法令を採択した。前日開かれた第23回労働党中央委員会全員会議で提示した「経済建設と核兵器建設の並進路線」の法的根拠だった。