「キル記者、それなら代案は何なのか」
7月末に「台湾海峡危機」問題を扱った共著『米中競争と台湾海峡危機』(カルマパラム)を出し、平和ネットワークのチョン・ウクシク代表と時々論争になった。
「そうだな、代案は何だろうか…」。この質問を受けてから数カ月考えてみたが、すさまじい勢いで進行中の米中戦略競争の“最前線”といえる台湾海峡の対立緩和のために韓国が独自に出せる「戦略的妙案」を思いつくのは容易ではなかった。現実的に、米国が台湾関連で協力を要請する場合、韓国は、韓中関係が破綻に至らない程度のぎりぎりのラインで何ができるかに悩まなければならない困難な状況に追い込まれざるをえない。
しかし、米中双方から難癖をつけられない完璧な“均衡点”は存在するのだろうか。いつも尻を半分程度引いた姿勢を取る韓国に失望感を積み重ねてきた米国はともかく、純然たる防衛用の兵器であるTHAAD(高高度ミサイル防衛)の配備にさえ経済報復をしてきた中国は黙っていないだろう。以前、日本大使館の関係者らと集まった席で、台湾危機が発生した場合、「韓国も米国を助けるべきだが、日本がすることの60~70%程度しかできない」と言ったことがある。返ってきた言葉は「20~30%なのでは」という冷ややかな応答だったが、20~30%にせよ60~70%にせよ、結局のところは抽象的な言葉遊びにすぎない。実際に戦争が起き、韓国と日本が米国を助けることになれば、両国とも中国との軍事的対決を覚悟しなければならない。ぞっとすることだ。
台湾海峡で実際に戦争が起きた場合、どうなるのだろうか。米国紙ウォール・ストリート・ジャーナルは9日、ワシントンの著名なシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が最近、中国の台湾侵攻を想定した「ウォーゲーム(机上演習)」を実施したとし、その結果を紹介した。シミュレーションの結果は、聞くだけでも背筋が寒くなる。中国は、欧州戦線に気を取られている米国、侵攻に先立ち実施した「サイバー攻撃」で麻痺状態に陥った台湾、参戦をためらう日本の隙をつき、様々な中・短距離ミサイルを米国領グアムと日本領沖縄(これにより日本は自動参戦することになる)に打ち込む。その過程で、米国の空母2隻、艦船20隻あまり、最新型戦闘機500機あまりが破壊される。中国はその隙に乗じ、台湾南部に約2万2000人の兵力を上陸させることに成功する。
先制攻撃を受けた米国と日本は激しい反撃に出る。中国本土から兵力と物資を運び続けなければならない中国の上陸艦隊は、米国と日本の容赦ないミサイルと潜水艦攻撃で壊滅する。3週間の悽絶な戦闘により、双方とも途方もない被害を受けるが、米国と台湾が最終的には台北を守りぬくというのが最終結論だ。1人か2人の愚かな決定により、勝者のいない無意味な殺戮が展開されるのだ。
こうした悲劇を避けるためには、どうすべきなのか。現在、米国と日本が選んでいる道は単純だ。同盟の「抑止力」と「対処力」を強化し、力で中国を負かし抑えるということだ。しかし、力による抑止というのは、はたして可能なのだろうか。
多くの関連文を読むなかで注目したのは、日本の軍事評論家の前田哲男氏が雑誌「世界」2021年9月号に掲載したアイデアだった。彼は、中国を包囲する「抑止・対処型防衛」を通じて軍備競争に乗りだす代わりに、韓国・中国・日本などの東アジア各国が協力可能な「協調的安全保障」モデルを作ってみようと提案した。「ミサイルのない東アジア」を作るための果敢な「ゼロ・ゼロ戦略」だ。1番目のゼロは、東アジアだけでもTHAADのようなミサイル防衛(MD)体制をなくすことであり、2番目のゼロは、相手を直接攻撃する中距離ミサイルを除去することだ。空想のように聞こえる話だが、そうではない。冷戦時代の米国とソ連(後のロシア)両国が、この二つをまったく持たないようにしようと約束し、守った時があった。すでにすべての記憶から消えてしまった弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM・1972~2001年)と中距離核戦力全廃条約(INF・1987~2019年)のことだ。
もちろん、東アジアをめぐる複雑な安保環境を考える場合、この二つの協定を今すぐ復活させることは不可能なのかもしれない。しかし、今からでも、無謀な米中対決を止められる「創造的代案」を考えなければならない。終わりの見えない敵味方分け為すすべもなく振り回されているかぎり、私たちに未来はない。
キル・ユンヒョン|国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )