(2の続き)
-今おっしゃったことは、既存の発展傾向がそのまま続くということを前提にしたものです。ここ数年で米国による技術輸出の制限、中国政府による民間企業への介入の強化などの新たな変数が登場していますが、このような変数はどれほど影響を及ぼすでしょうか。
このような予測に影響を与える第1の変数は、先進技術へのアクセスです。中進国が先進国になるためには経済産業構造がアップグレードされなければなりませんが、その最も重要な要素は革新を通じたローエンド(低い技術段階)産業からハイエンド(高い技術段階)産業への転換です。韓国は西側諸国から技術を導入し、それを応用して経済をアップグレードしましたが、このような技術へのアクセスが阻まれれば中国のアップグレードは遅滞しえます。
より根本的なリスクは、政治の民主化の落とし穴です。東アジア発展モデルの核心は権威主義国家が民主化される過程ですが、韓国はOECDに加入する前に民主化しましたよね。今の中国の所得水準は、まさに韓国が民主化をしていた時期のものなんです。では民主化なしに先進国になれるのか。まだそのような例はありません。中国が西側式の自由民主主義を採用する必要は必ずしもないと思いますが、それなら代案として中国式の民主主義のあり方を示さなければならないのに、それがまだ見えないということです。
-後進国から中進国への発展は権威主義モデルによっても可能ですが、中進国から先進国への発展は難しいと考えていらっしゃるということですか。
中国に何らかの創造性が求められる部分です。中国がそれをも示せれば、世界史的な新たな発展モデルを示すものとなりますが、それが可能かどうかは分かりません。
-現政権は経済安保を対外政策の基調として掲げています。ですが、サプライチェーンの回復力や素部装(素材・部品・装備)の競争力の強化の観点から経済安保にアプローチするのは望ましいのですが、対外政策の基調として掲げれば、大国の保護貿易主義の枠組みにはまってしまうのではないでしょうか。
経済安保は大国が用いる概念です。韓国のような通商国家は、経済と安保を分離するのが正しいあり方です。トランプ政権時代のように、米国の技術が使われている商品は中国に売るなというのは、話にならない介入です。私はバイデン大統領が来た時、このような話をしたかったのです。韓国が米国に工場を建てるのは良い。ですがそのプレゼントを贈る対価として、韓国の対中国ビジネスへの干渉はしないという約束を取り付けるべきでした。互いに得るものがあるべきだったのですが、そうはなりませんでした。
-利害関係と能力が類似する「中堅大国」が連帯外交を通じて米中の緩衝材の役割を果たすべきだとの主張も出ていますが、どうお考えですか。
大国の経済的な圧力のようなものにさらされない経済秩序を作らなければなりません。中堅諸国は力を合わせ、米中は戦うことをやめて世界経済のために協力せよと頻繁に声をあげるべきです。でなければ、世界経済全体が滅びの道へと向かっていってしまいます。米国内でも、中国を攻撃することが本当に正しいのかについては批判も強い。インフレは結局のところ米中対立が根本原因なのです。多国間主義とルール(規則)を回復しようという声をしっかりとあげていかなければなりません。(了)