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[寄稿] ウクライナのレッドラインはどのように引くのか

登録:2022-06-13 03:27 修正:2022-06-13 13:50
ウクライナのマリウポリ市のメトロショッピング・レジャーセンターにある統一ロシアの人道主義的救護物資配給所に現地の人々が並んでいる。ロシア軍は、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の指導部の支援要請を受け、ウクライナで特別軍事作戦を展開していると語っている=マリウポリ/タス・聯合ニュース

 今、西欧の大衆は「プーチンは何を考えているのか」、「プーチンが全面戦争に突き進まざるを得ないように我々が彼を追い込んでいるのではないか」といった問いに捕らわれている。私たちはこのように、ウクライナに対する支持と全面戦争を避けるための努力との適当な均衡点はどこなのかを必ず探り出し、「レッドライン」を設定するという考え方をやめなければならない。レッドラインは客観的な事実ではない。現在のレッドラインはプーチンが自ら再設定し続けており、西欧がロシアの行動に単に対応するというやり方によってプーチン大統領を助けることで形成される線だ。私たちはプーチンの行動に単に反応するだけでなく、視線を転じていわゆる「自由な西欧」が今の状況で望んでいることが果たして何なのかも考えなければならない。

 私たちは、ウクライナに対する西欧の支持が持つ曖昧さを分析するにしても、ロシアを分析する時と同じ厳しさをもって分析しなければならない。今日の西欧が適用しているダブルスタンダードは、欧州自由主義の根本にまで遡る。西欧自由主義の伝統に植民地主義を正当化した歴史があることを思い出してみよう。英国の啓蒙主義の哲学者であり、人権の擁護者だったジョン・ロックは、過度な私的所有に反対する論理をもって、米国人が先住民の土地を奪うことを正当化している。ロックは、土地はそれを生産的に利用しうる人々が所有すべきだという理論によって植民主義の基礎を提供した。

 最近、ロシア国家安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は「世界は、米国中心の世界という観念が崩れ、実用主義的基準にもとづく新たな国際同盟が登場することを待ち望んでいる」と主張した。彼の言う「実用主義的基準」とは、もちろん普遍的人権の無視を意味する。だが、彼の「西欧は私有財産に対する権利を西欧民主主義の軸としつつも、ロシア人の私有財産権は完全に無視している」との主張には同意できる部分がある。西欧はロシアの新興財閥「オリガルヒ」の財産権ばかりを制裁するのではなく、西欧の新封建主義的な億万長者の財産権にも制裁を加えるべきだ。

 私たちがレッドラインを設定する方向性は、第三世界との連帯を明確にするというものでなければならない。ロシア軍によるウクライナの穀物輸出港の封鎖で、数多くの人類が食糧危機の危険に直面している。これに対しては、トラックと鉄道によって穀物運送を支援すると約束するだけでは不十分だ。封鎖を解除することを明確に要求するとともに、軍艦を送って穀物輸送船を護衛すべきだ。これはウクライナに関する問題ではなく、アフリカとアジアにいる数億人の人類の飢餓に関する問題だ。私たちはまさにそこにレッドラインを引かなければならない。

 先日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「ウクライナはパレスチナであり、ロシアは米国だと想像せよ」と注文した。ウクライナをパレスチナに例えたことに対し、多くのイスラエル人が両者には類似性がないとして不快感を示したほか、多くの人々がウクライナは民主的な主権国家だが、パレスチナは国家ではないと指摘した。しかし、パレスチナが国家として認められないのは、パレスチナの国家となる権利をイスラエルが否定しているためだ。これはウクライナの国家となる権利をロシアが否定しているのと全く変わらない。ラブロフは一抹の真実をよく表している。

 そうだ。自由主義の西欧は、高い物差しを極めて選択的に適用するという点で偽善的だ。しかし偽善は、自らが主張する基準に違反することで、自分自身を内的批判にさらすことも意味する。私たち自由主義の西欧を批判する時、私たちはまさにその自由主義の西欧の基準を用いている。ロシアが提案する世界は偽善が存在しない世界、すなわち世界的に合意された倫理的基準なしに、互いの違いを実用的に「尊重」する世界だ。私たちはこれが何を意味するのかをすでに見たことがある。タリバンがアフガニスタンを掌握した時、タリバンと中国は取り引きし、その結果、中国は新しいアフガニスタンを容認し、タリバンは中国がウイグルでやっていることに知らないふりをしている。これこそまさにロシアが支持する新たなグローバル化の姿だ。

 自由主義の伝統から救い出すに値するものがあるとすれば、それを守る唯一の道は、普遍性を容赦なく主張することだ。ダブルスタンダードを適用した瞬間、私たちもロシアと同様に「実用的」になってしまう。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶熙大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1046695.html韓国語原文入力:2022-06-12 19:52
訳D.K

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