無脊椎動物だが驚くべき知覚能力を見せるタコから、新たな知的能力が発見された。しつこく絡んでくるオスなどの仲間のタコに対して、物を「投げつける」行動を取るというのだ。
オーストラリア・シドニー大学のピーター・ゴドフリー=スミス教授らの研究チームは19日、ニューサウスウェールズのジャービス湾で2015年と2016年にタコの生息地を水中撮影し、こうした事実を発見したと「バイオアーカイブ」に発表した。バイオアーカイブは、正式出版前の事前審査を経ていない論文のオンライン共有サーバだ。
この海は、一地点に4~8匹のタコが生息するほど密度の高い「タコ天国」だが、それだけタコ同士の争いや繁殖行動などの様々な活動が観察されるところだ。研究者たちが注目したのは、撮影したタコの半分以上が、たびたび物を投げる行動を取るということ。
この論文によると、タコは自分の巣穴や周辺にあった貝殻、泥、海藻類などを腕で引き寄せて体の下にかき集め、水管の方向を変えてジェット流を強く放って物を投げつける。水管はえらからの水を吐き出したり、墨を吐いたりする器官だ。
研究者たちは「水管から噴き出した強い水流は、タコの体長の数倍遠くへと物を飛ばした」と述べた。投げつけ行動は3つのタイプがある。穴の中の食べかすを吹き出す、穴の内外を整備するために底に敷かれた貝殻を押し出す、そして社会的関係だ。
研究者たちが注目したのは社会的脈絡だった。主に交尾するために絡んでくるオスに、メスのタコが泥の塊を吹きつけていたのだ。
メスのタコは明確な意図をもって泥を投げつけているようだった。2016年の撮影では、あるメスは近くの穴のオスに向かって泥の塊を10回投げつけ、5回当てた。正確度を高めるためか、物は主にいちばん前の2本の腕の間から放たれた。
オスも相手の投げ方を予想したかのような反応を示した。泥が飛んでくると頭を下げて避け、一度は泥が飛んでくる前に避ける動作を取った。
掃除や環境美化の際に比べて相手に投げつける時の方が強く発射するのも、このような行動に意図があることをうかがわせる。タコはオスだけでなく、撮影しているカメラや通り過ぎる魚にも物を投げつけた。
研究者たちは、このような物を投げつける行動は相手を攻撃するという目的を持っているだけでなく、誇示行動である可能性も提起した。交尾を試みて断られたオスが体の色を変えながら貝殻を投げるのは、相手に対するものではなく、興奮を鎮めるためのものだと解釈された。
研究者たちは「人間以外の動物の中でも、同種の他の個体に向かって物を投げつける行動は非常に珍しい」と述べた。正確かつ速く投げる能力は人類の進化において大きな役割を果たしたことが知られており、チンパンジーも強さでは劣るが、そのような能力を持つ。
研究者たちは「オマキザル、ゾウ、マングース、鳥、テッポウウオ、アリジゴクなども直接的、間接的に物を投げる行動をする」としつつも「彼らはほとんどが狩りをしたり、外部の脅威に対応したりするためにするのであって、社会的な目的はない」と論文で説明した。
タコは無脊椎動物でありながら、優れた知覚能力を示す。ネズミ並みの迷路学習能力を持っており、自分によくしてくれる人と虐待する人を区別できる。
また、野生状態で他の動物を真似し、周辺環境に合わせて肌の色や模様を自由に変えるほか、貝殻を建築材料として持ち歩いて隠れ家を組み立てたり、死んだ海綿を巣穴の扉にするなど、巧みに道具も使う。
研究者たちは、ホッキョクグマがセイウチを狩るために丘の上から大きな石や氷の塊を投げる可能性があることが最近報告されたことから、今回の観察結果を発表することになったという。
引用論文:bioRxiv, DOI:10.1101/2021.08.18.456805v1