景気が少しのあいだ悪いために生じた問題は、景気が良くなればまた回復しうる。しかし構造的変化による問題は回復が難しい。日本の東京都心5区のオフィスの平均空室率は、先月の時点で4.82%にまで跳ね上がった。1年前は1.53%程度であり、6カ月前も1%台だったので、半年間で急騰したことになる。数年間は1~2%台を維持してきたものの、パンデミック以降は月を経る毎に大きく上昇しているのだ。理由は遠隔・在宅勤務が拡大したことと、企業の構造調整が増加したこと。日本最大手の広告会社である電通は、社屋を売却して同じ建物を賃貸で使うことを明らかにしたが、事務スペースは従来の半分ほどに減る。社員の20%が遠隔勤務中で、大量の人員削減も行ったため、事務スペースを大幅に減らせるようになったのだ。英国の代表的な広告会社であるM&Cサッチもオフィスのスペースを25%減らすと発表しており、世界107カ国で13万人の社員を抱えるグローバル・メディア・コミュニケーション企業WPPの英国本社もスペースを20%減らす計画を発表している。これは他国に限った話ではない。韓国もオフィスのスペースを減らしたがっている企業は多い。遠隔や在宅勤務の普遍化、景気低迷による構造調整のみならず、自動化による雇用減少もオフィスの空室率を引き上げる。オフィス空室率の増加は結局、周りの自営業者の危機にもつながり、これが悪循環となって商店街の空室率を押し上げる。ソウル都心のオフィス空室率は、調査機関ごとに差はあるものの、おおよそ10%前後だ。
映画振興委員会によると、2020年の全映画館の観客総数は5952万人。2019年は2億2668万人だったので、4分の1になったことになる。一方、ネットフリックスをはじめとするOTTサービスの利用は急増し、高画質の大型テレビ販売も急増した。映画館は潰れそうだが映画は見続けられている。自宅で映画を見る環境は以前より整っているわけで、パンデミックが終わっても、映画館の観客数が再び2億人台を回復する保証はない。もしかすると映画は残るが映画館は消えるかも知れない。1994年にビル・ゲイツは「銀行業務は必要だが、銀行は必要なくなる」と言ったが、すでに現実となっている。銀行の営業店は減り、構造調整も続く。ゲイツの言葉を少し言い換えれば、営業は必要だが営業社員は必要ない、ショッピングは必要だがショッピングモールは必要ない、ともなる。テスラは電気自動車、自動運転車だけでなく、車の販売方式でも既存の業界を驚かせた。最初から自動車を営業社員ではなくオンライン・プラットフォームで売り、今や自動車保険もプラットフォームで販売している。パンデミックに襲われ対面営業がさらに難しくなったことで、自動車業界でもオンライン・プラットフォームで自動車を販売することに対する関心がより高まっている。自動車であれ保険であれ、営業社員の立場は狭まりつつあり、パンデミックが本格的な転換点となった。伝統的な流通強者であるロッテはオンライン戦略で限界を示し、苦戦している。逆にクーパン(オンライン・ショッピングモールのひとつ)はオンラインで大企業の流通を圧倒している。このような状況はパンデミックが終わっても変わるはずがなく、古いビジネスモデルの持つ危機はさらに深まるだろう。あらゆる変化は雇用につながっている。
個人の危機も全てが雇用とつながっている。統計庁によると、1月現在の失業者数は157万人で、これは1999年以降の最大値だ。非経済活動人口のうち「休んでいる」(育児、家事、学業などにも関与していないのに働いていない)、すなわち何もしていないという人は、2020年には237万人だった。これに加えて求職活動をあきらめた求職断念者60万人、就職はしたものの仕事はしていない一時休職者も84万人ほどいる。この数字が事実上の失業だ。数多くの数字が、危機が今後さらに深刻となるであろうことを語っているが、政治は雲をつかむようなことばかり、消耗する対決ばかりしている。現実感覚がなさすぎるにも程がある。
キム・ヨンソプ|鋭い想像力研究所 所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )