最近、ある報道機関が西海(ソヘ=黄海)の北方限界線(NLL)近くの無人島「咸朴島(ハムバクト)」で北朝鮮の軍事施設と推定される構造物が捉えられたと報道し、咸朴島とNLLをめぐる様々な論争が起こった。
咸朴島問題は、山林庁などが「仁川広域市江華郡西島面マル島里サン97」という住所を付けた事実が加わり、韓国の領土に北朝鮮軍施設が設置されたのではないかという疑惑まで浮上した。一部の専門家は、「当該構造物は多連装ロケットランチャーと海岸砲と推定され、西海上の島だけでなく、仁川空港や首都圏まで危険にさらされる恐れがある」と主張し、問題に油を注いだ。これに対して国防部と国連軍司令部は、咸朴島はNLL北方にある北朝鮮管轄の島嶼だと明らかにしたが、論議は収まっていない。
北朝鮮は江華郡マル島から約9キロ離れた咸朴島で2017年5月からレーダーと監視装備を運用しているという。
咸朴島をめぐる議論の中心にはNLLがある。
NLLは休戦直後の1953年8月30日にマーク・クラーク国連軍司令官が、当時国際的に通用していた領海基準である3海里に基づいて、西海5島の白ニョン島(ペンニョンド)、大青島(テチョンド)、小青島(ソチョンド)、延坪島(ヨンピョンド)、牛島(ウド)と北朝鮮側の黄海道甕津(オンジン)半島の中間線を基準に決めた海上の境界線だ。
1953年7月27日の休戦協定で陸上軍事境界線(MDL)は確定したが、北朝鮮は海上封鎖を憂慮して12海里沿海を、国連軍司令部は3海里を主張して合意に失敗した。結局、停戦協定上には海上境界線に関する定めがなく、西海5島は国連司令部の軍事統制下に残すことにした。未決の西海海上境界線の協議は、その後の南北の海上衝突の元になった。
北朝鮮はNLLについて20年間にわたって異議を唱えなかったが、1973年10月に西海5島周辺水域は北朝鮮の領海と主張したことで状況が変わった。北朝鮮は1977年に「200海里経済水域」を設定するとともに海上軍事境界線を宣言し、NLLの無効を主張した。以降NLLは1999年の延坪海戦の火種になるなど、朝鮮半島の平和を脅かす最大の震源地へと変貌した。特に6~7月ごろには北朝鮮のワタリガニ漁船がNLLを越えて来るため、南北間の軍事的緊張が続いている。
休戦協定上根拠がなく国連軍司令部が一方的に引いたNLLが、国際法上領海を規定する境界線として効力を持つかどうかについては、様々な解釈が出ている。
韓国外国語大学のイ・ジャンヒ名誉教授は、NLLに関する3つの法的争点として、NLLは領土境界線か▽NLLは合法的軍事境界線か▽NLLの南方の海域は南の領海か、を示した後、「韓国社会ではNLLについて立法的、司法的に対応することは不可能」と述べた。
イ名誉教授は「NLL問題はすでに政治問題化し、南北どちらにも、南の保守・進歩のどちらにも、譲歩したり理性的、客観的な討論や解決方法が入り込む余地はなくなった。したがって、統一されるまで平和的に管理するのが最善の方法」と述べた。彼は「2007年10・4南北首脳会談で合意した『西海平和協力特別地帯』は現行NLLに触れずに、NLLの上に安保や経済を調和させるビジョンを描いているという点で良い政策代案だ」と評価した。さらに、「昨年の4・27板門店(パンムンジョム)宣言で合意した西海NLL一帯の平和水域設定も、中国や第3国の不法漁労に共同対処できるとともに、偶発的な軍事衝突を阻止できるだろう」と付け加えた。