私が幼い頃、「近眼のマグー(Mr. Magoo)」というまんがのキャラクターがあった。彼は優しい老人だがほとんど目が見えなかった。ソファーと話したり、上がった状態の跳ね橋に突進するなど、荒唐無稽な状況に置かれた。彼は、跳ね橋の下を通る船が自動車を反対側の川辺に着かせるなど、いつも自分もわからない偶然によって惨事をまぬがれた。
ドナルド・トランプは慈愛に満ちていないバージョンの「近眼のマグー」だ。挑発的発言や卑劣な政策からは、彼の時代に何が起こるかを知る手がかりが全く見当たらない。どんな方法でも、彼の多くの行動を説明するのは難しい。就任式を例に挙げてみよう。出席者が少なかったのは、は天気が悪かったからかもしれないし、熱意ある労働者の支持層がワシントンにまで来る旅費がなかったからかもしれない。しかし、トランプは就任式は歴代最大の群衆だったとし、奇怪な主張を展開した。マグーのような行動は経済に対する主張にもつながる。彼は米国経済が上向きに転じてから何年も経ったにもかかわらず、低い失業率、強力な雇用の拡大、堅調な国内総生産(GDP)の成長の勢いについて自慢を並べる。
事実、バラク・オバマ時代からほとんどの指標がこのような傾向を示した。雇用は2017年に月平均17万1千件が作られたが、2016年の18万7千件、2015年の22万6千件よりは減少した。失業率は2016年末の4.7%から2017年末には4.1%に落ちた。しかし、失業率は2010年11月9.8%を記録して以来、およそ1年に0.8%ずつ下落しており、2017年の下落は単純に傾向が続いているだけだ。
実質賃金は2016年12月から2017年12月まで時間当たり0.4%上がったが、2016年の0.8%、2015年の1.8%の上昇に比べると、上昇率が鈍くなった。ほぼ全面的にエネルギー価格の上昇のせいだ。世界のエネルギー価格の値上げはトランプの失策ではないが、実質賃金について彼の功績と主張できる部分はあまりない。国内総生産成長率は2016年1.8%、2015年2.0%に比べ、昨年には2.6%へと緩やかに高まった。2015年に0.3%、2016年に0.7%だった非住居用投資増加率が2017年に6.3%に上昇したのが主な要因だ。トランプ行政府は「米国を再び偉大に」キャンペーンに対する投資と自慢したいだろうが、ほぼ全面的に石油とガスの採掘に対する支出のためだ。つまり、エネルギー価格の上昇で簡単に説明することができる。エネルギー部門を除けば、2017年投資の成長率は、その前3年とあまり変わらない。
減税の効果を評価するにはまだ早すぎる。しかし、約束した投資ブームを期待することは難しそうだ。昨年12月資本財新規注文は前月より0.1%減少した。企業が減税に反応を示したなら、減税案が通過することが明確になるやいなや、実行する準備を備えた計画がなければならなかったはずだ。
トランプの強硬な表現にもかかわらず、貿易赤字は2017年に500億ドル増え、5710億ドルになった。要するに、トランプ就任以降、経済を明確に浮上させたという証拠はほとんどない。しかし、経済は少なくともこの45年間の基準からすると、良く見える。2000年を除いては、失業率が1970年代初め以降このように低かったことはない。実質賃金はこの3年間上昇を続けた。1990年代末を除いては唯一の事例だ。最も大きな恩恵は賃金のはしごの下部分にいる人たちが受けた。この3年間、労働者の収入の中間値は5.3%上昇した。下位25%に該当する労働者の収入は7.1%も上昇した。
さらに厳しくなった労働市場のために企業が労働の効率性を重視し、生産性が高まっているという証拠も現れている。それ以前の5年間は1%を下回った生産性増加率は、昨年第3四半期に年率基準3%以上だった。急速な生産性向上の道に入ったかどうかを判断するためには、データがもっと必要だが、もしそうなら大きな意味がある。さらに急激な賃金の上昇と生活水準の向上につながるためだ。
トランプは間違いなく自分の偉大な経済について自慢を続けるだろう。経済が相対的に良く見えるという彼の言葉は正しいが、これはジャネット・イエレン元連邦準備制度理事会議長とオバマ前大統領の功労であり、ホワイトハウスのミスター・マグーのおかげではない。