[マガジンesc] キムジョ・グァンスの「マイ ゲイ ライフ」
原文入力:2010/11/04 13:13(1564字)
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25年前の10月、彼に会った。鉄原の未舗装軍事道路を走る軍用トラック中で、彼を初めて見た。私は新兵教育を終え、二等兵階級章をつけたばかりの新兵で、彼は分隊長教育を受け、部隊に復帰する下士[訳注:下士官の一番下の階級]だった。はっと見るからに、世の中全部の悩みを、全て抱きしめている顔だった。あと時はどうしてそうだったのか、憂愁に満ちた瞳を持ったその類の人々に惹かれた。トラックの中には、分隊長下士ら5、6人に二等兵10人ほどがいたが、その中で断然、彼が光っていた。運命だったのか、彼と同じ中隊に配属された。こうして始まった。
デモに参加して捕まり、引きずられて来た学生運動の者にとって、軍隊生活は非常に苦しく、鉄原の寒い気候も耐えがたかった。私は古参兵たちには内緒で、砲倉庫に引きこもっているのが好きだった。そうして一人でいる短い時間が必要だったし、その時ごとに鉄原を離れ、催涙弾の臭いに満ちたキャンパスに飛び込んだりした。そうしていたある日、砲倉庫のドアを開けて彼が入ってきた。どうしようか! 私が敬礼する前に彼が泣き出した。私は泣いている彼を見ていたが、まだ闇に慣れていなかった彼は、私を見ることができなかった。彼の秘密をのぞき見するようで、申し訳なかった。何分、過ぎたのだろうか? 彼の泣き声が徐々になくなっている時、外から私を探す古参兵の声が聞こえてきた。すぐに階級と名前を叫んで飛び出さなければならなかったが、彼に対して申し訳ない気持ちのため、じっとしているしかなかった。そうしていると、彼が私を発見した。涙いっぱいに溢れた目で、私を恨むように見つめた。「この人を愛することになるだろう」。誰かを運命的に愛することになりそうな予感がしたのは、その時が初めてだった。
彼は軍隊生活を過ごすには、あまりにも弱い人だった。分断された祖国は、そのような人も例外なく徴集し、弱り目にたたり目で、分隊長教育まで受けるようになった。マッチョたちの集合所の軍隊で、彼は一日一日をかろうじて耐えていた。偶然に向き合ったその日から、私たちは、こっそり砲倉庫で会い、お互い慰めあっていた。そうするうちに、時折、愛という単語を口にすることもあった。はにかみ屋の彼は、作業に出かける道で野花をひとかかえ折って、私に直接与えられず、私たちの内務班の花瓶に挿しておくことで、愛情を示した。しかし、彼は私とは違った人、異性愛者だった。軍隊に来る前から付き合っていたガールフレンドがおり、時々、面会を来ては私の心を掻きむしった。外泊証を受けて面会へ行く彼を見るのは難しいことだった。彼がガールフレンドと別れるハッピーエンドを夢見たが、その夢は長続きしなかった。時間は速く流れ、彼が転役して悲劇は始まった。途切れ途切れに来た手紙が途絶えた時、現実を悟らなければならなかったが、まだ幼かった私は、除隊して彼の家を訪ねた。鋭い冬風が吹いた夜に、「お前を一度も愛したことなどない」との非常に冷酷な答を聞いてからも、彼に何度も追いすがり、涙の海を流しながら、整理した。
異性愛者の彼が、なぜ男の私を「愛する」と言ってから「一度もそんなことは言っていない」に変わったのか、その心をはっきりと理解することはできない。私が愛したから、そうなった。合意による同性愛を処罰する軍刑法第92条に違憲の余地があるとの国家人権委員会の決定を聞いて、ふと彼を思い出した。
キムジョ・グァンス 映画監督
原文:https://www.hani.co.kr/arti/SERIES/281/447090.html 訳 M.S