台湾ドルや韓国ウォンなど東アジア諸国の為替相場がこのところ乱高下している。その元凶とされるのは米国の「見えない圧力」だ。米国が輸出競争力を高めるために主要貿易黒字国を相手に通貨の切り上げを要求しているという疑いだ。
韓国銀行のイ・チャンヨン総裁までが言及したこの市場の「うわさ」には根拠がある。「トランプの策士」と言われる米ホワイトハウス経済諮問委員会のスティーブン・ミラン委員長が昨年11月に作成した報告書だ。同報告書には、米国が貿易赤字の解消に向け、関税を武器に貿易相手国の通貨価値を強制的に引き上げようという内容が盛り込まれている。
ミラン委員長の主張のように「キング・ドル」が「ドル安」になれば、米国の大規模な貿易赤字は本当になくなるのだろうか。主流の経済学界の答えは「ノー」だ。国際通貨基金(IMF)の首席エコノミストを務めたカリフォルニア大学バークレー校のモーリス・オブストフェルド教授が代表的な反対論者だ。オバマ政権時代、ホワイトハウスの経済諮問委員会の委員として活動したこともある。彼の主張は、今年3月に発表した報告書「米国の貿易赤字:誤解と真実」に書かれている。
報告書によると、ドルの価値と米国の貿易赤字の間には明確な相関関係は観察されていない。むしろ米国の貿易赤字の規模が大きい時、ドルは劣勢を見せたりもした。実際、貿易赤字を含めた米国の経常収支赤字の割合(経常赤字を国内総生産で割った割合)が6.0%で最高点を記録した当時の2006年のドル価値は、今より安い時だった。
具体的に当時のドル指数は90を下回っていた。この指数はユーロ、円、ポンドなど主要6カ国の通貨に対するドルの価値を示す。現在、ドル指数は100前後にとどまっている。これは「ドル安=貿易黒字」という公式が成立しないことを示している。
ドルの価値は2000年代に入って、金融危機(2008年)以前まで目立った劣勢を見せた。同じ時期、米国のGDP比の経常収支赤字は高どまりしていた。なぜこのような現象が現れたのか。
これは米国の輸入が輸出よりはるかに速く、大幅に増えたためだ。ドル安で輸入品の価格が高くなったが、米国の消費者・企業など経済主体は赤字を出してまでお金をたくさん使ったという話だ。
その中心に米国の「不動産バブル」があるというのがオブストフェルド教授の分析結果だ。米国の金融規制緩和と住宅価格上昇に支えられた民間の融資・消費拡大、政府の資金供給などで、外国から資金を引き出し、過度な投資をしたということだ。米国は大規模な経常収支赤字を出し、他国は黒字を出す「グローバル不均衡」現象の原因も結局は米国の内部にあったという論理だ。
オブストフェルド教授は「不動産バブルは貿易赤字だけでなく製造業の雇用減少まで招いた」と診断した。働く人が足りない完全雇用状態で不動産景気の好況でサービス需要が増えると、製造業が縮小する風船効果が現れたという意味だ。
韓国の漢城大学のキム・サンボン教授(経済学)は、「ドル安が米国の貿易赤字解消に一部役立つことはあるが、結局のところ重要なのは米国が生産した商品の中で果たして買いたいものがあるかということと、彼らの製造業の競争力だ」と指摘した。