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「トランプ式通商は帝国主義…韓国に対応カードがないわけではない」

登録:2025-03-01 06:56 修正:2025-03-01 08:17
ドナルド・トランプ米大統領が2月16日、米国のパームビーチ国際空港に着陸した後、記者団に話している/聯合ニュース

 ドナルド・トランプ米大統領が主導する「関税戦争」に世界が戦々恐々としている。既存の貿易秩序の根幹を揺さぶるトランプ大統領の真意は何であり、関税戦争はどこに向かうのか。トランプ政権の通商政策を深層的に研究してきた大邱大学のキム・ヤンヒ教授(経済金融通商学科)は「関税と減税の混合政策」という構図と「全般的な世界秩序の転覆を目指すレベル」という両面から状況を認識する必要があると強調する。25日、ハンギョレ新聞本社で、キム教授にトランプ政策の本質と韓国の対応策について話を聞いた。

大邱大学のキム・ヤンヒ教授が25日午前、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社でハンギョレのインタビューに応じている=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

―トランプ大統領の通商政策を「関税と減税の混合政策」と位置づけた理由は何か。彼の政策が通常の保護貿易主義として貿易赤字の縮小にこだわることを越えるものを目指している点をどうみるべきか。

 「今の関税戦争は通商政策の枠組みだけに限定しては答えが見えてこない。米国内の減税と、これを埋めるための新しい財源として関税に注目していることを共に捉えてこそ、韓国の対応も方向性が明確になるという点を強調したい」

―トランプ氏の至上目標が貿易赤字の縮小を越えて個人の所得税を関税で代替し、米国の税金制度の根幹を変えることなら、高率関税の賦課への意志はさらに強いものとみられる。米国内ではどのような効果が予想されるか。

 「近隣窮乏化政策(他国の経済を犠牲にして自国の利益を図る政策)だけでなく、貧者窮乏化政策だ。関税を引き上げて減税を埋め合わせるために、2つでジャグリングをしている。ところが、関税を引き上げれば物価が上がり、減税は基本的に税金を払う余力がある金持ちが利益を得る。関税率50%に同じ規模の減税を仮定した予測モデルによると、所得上位20%である5分位だけが関税引き上げで所得が3.8%減少する一方、減税を通じては6%増え利益を得ていることが分かった。さらに驚くべきなのは、上位1%だけで計算すると、所得が関税引き上げで1.9%減少するが、減税を通じて13.5%増加することだ。1~4分位はいずれも所得減少分の方が大きい」

―米国経済全体ではどのような効果が予想されるか。

 「その効果を推算した17機関の分析結果を見ると、経済効果が全てマイナス、すなわち国内総生産(GDP)が減る。相手国が報復すると仮定すれば、減少幅が最大3.61%に達する」

―米国全体の税収で個人の所得税の割合が占めるのは50%前後で、関税は2%未満だが、税収の観点で関税が所得税に取って代わることができるのか。

 「関税を10%や20%に引き上げても税収比重は4〜7%に過ぎない。所得税の比重を占めるためには関税を70%は払わなければならない。不可能な話だ」

―一応、数値上でもトランプ大統領が豪語した通りに実現するのは難しい政策とみられており、インフレや貿易縮小による米国内外の景気下降の懸念もあるのではないか。トランプ大統領がロールモデルに挙げる19世紀末のウィリアム・マッキンリー米大統領の場合、米国を豊かにするとして、大半の関税率を50%まで引き上げたものの、景気低迷を招いたと批判された。

 「(関税率を大幅に引き上げ、大恐慌を悪化させたという評価を受ける)1930年代の『スムート・ホーリー法』の再現になるだろう。米国内でのサプライチェーンのかく乱も深刻化する可能性がある。長い目で見れば、関税を引き上げると国内総生産は縮小する。それで結局関税を再び引き下げることになる。マッキンリーの時もそうだし、『フォードニー・マッカンバー関税法』(1922年)の時もそうだった」

―インフレ誘発効果はどう予想するか。

 「すでに今年1月、米国の消費者物価は連邦準備制度理事会の目標値である2%を超え、前年比3%上昇したが、これは2024年6月以降最も速いスピードだ。関税を本格的に賦課すれば、さらに上がるだろう。第1次トランプ政権時代、主に中国商品に関税を課し、米国の世帯当り年平均800〜1200ドルの負担を負わせたという分析がある。今回は全方位的に関税を課すということなので、レベルが違う。費用上昇効果はさらに大きく、外国で報復関税を賦課する可能性もある。2018〜2019年の米中貿易戦争当時、中国が報復関税を課したため、米国の農業関係者たちが負担を負うことになった。それを米国政府が92%補てんした」

―トランプや側近たちが関税万能論の限界を承知の上でそのような主張をするのは、結局政治的意図があるためとみるべきか。

 「輸出統制や投資統制は複雑で直ちに目に入らない。関税は大衆が直感的に理解しやすい。労働者のために働くという労働者政党のイメージを構築しやすい。関税は大統領が議会を経ずに独自に使える根拠法も多い。また、トランプ大統領はカナダ、メキシコ、コロンビア、中国に対して非経済的な問題を根拠に関税を突き付けて、その効果を実感した。これにもう一つ、関税を国内減税のための税源とみたのだ。 これが最も危険な敗着だ」

―最近の米マスコミの世論調査を見ると、関税賦課をめぐり米国人たちがインフレの心配が大きいことが明らかになっている。

 「だから私たちがトランプ大統領を説得する時は、ツートラックで進まなければならない。 高関税が作動しえないことが一点であり、さらに重要なのは、トランプ大統領の特性を考えて『米国経済が良くない』ではなく、『あなたにとって良くない』と言わなければならない。『トランプの時間』は4年ではなく、来年11月の中間選挙までだ。『あなたに票を投じた人たちはほとんどが低所得層だが、これは低所得層の票を獲得できる政策ではない』という点を強調すべきだ。韓国側が会わなければならないのは、米国の官僚など優雅な人たちだけではない。関税で被害を受ける人々、つまり労組や消費者団体、輸入業者などに会わなければ。政府だけに任せておいて、手をこまねいていてはいけない。今は全方位で走らなければならない。イーロン・マスク氏も中国でテスラを生産するため、関税賦課に反対せざるを得ない」

大邱大学のキム・ヤンヒ教授が25日午前、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社で、ハンギョレのインタビューに応じている=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

―失敗が明らかに予見される政策であっても、トランプ大統領がそれを施行すれば、韓国のように輸出の比重が高い国にとっては影響が大きくならざるを得ないが、他の対応策はないだろうか」

 「韓国にカードがないとは思わない。そうであればあるほど、私たちは通商を越えて世界を鳥瞰する視野が必要だ。例えばトランプ大統領がウクライナ戦争を終結させようとする重要な理由は、『逆キッシンジャー戦略』のためだ。ヘンリー・キッシンジャーが米中国交正常化で中ロ間を引き離したように、今は中国を孤立させるためにロシアを引き入れている。米国が中国を封鎖する上で、韓国や日本の役割はあまりにも重要だ。いくらトランプ大統領に同盟が必要ないとしても、韓国の戦略的価値は依然として残っているという点を強くアピールする必要がある。もう一つは、韓国が持つ半導体、造船、防衛産業などの製造力がトランプ大統領にとって必要であるという点だ。韓国と中国を一緒に叩いて韓国が死んだら、米国にとっても決して良くないと説得しなければならない」

―トランプ大統領の貿易秩序の破壊やロシアに対する態度の変化などを踏まえると、劇的な変化が予想されるため、「経済安保」戦略もそれによって変わるべきか。

 「トランプは狭い経済領域で安全保障を語ってきた世界秩序を完全にひっくり返している。驚くべきなのは、2月12日にトランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が電話でどのような議題を取り上げたのかだ。トランプ大統領はウクライナを侵攻したロシアに戦争責任を問うどころか、従来の議論から脱して中東情勢、ドルの役割、グローバルエネルギー市場、人工知能(AI)などを議論し、米ロ経済協力まで合意した。今トランプ大統領がしているのは、防御的、保護的にサプライチェーンの回復を追求する経済安保(economic security)を越えるエコノミック・ステイトクラフト(economic statecraft:政治的目的を達成するため、軍事的手段ではなく経済的手段によって他国に影響を行使する事)のレベルだ。いや、帝国主義だ。このような基調の変化に気を引き締めて備えなければならない」

イ・ボニョン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1184675.html韓国語原文入力:2025-02-28 10:58
訳H.J

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