天然水素は、石油や石炭のような化石燃料と同様に自然から直接採取して使える1次エネルギー源だが、化石燃料とは違い温室効果ガスを排出しない100%クリーンなエネルギー源だ。化石燃料を使用して生産する合成水素とは違い、生産過程で温室効果ガスを排出しないという点から「ホワイト水素」、金のように地中から直接掘り出すという点から「ゴールド水素」とも呼ばれる。
しかし、現時点では探査段階にある潜在的な未来の資源だ。米国地質調査局の研究チームは最近、地中にある天然水素は5兆6000億トンに達するという研究結果を発表した。しかし、天然水素が具体的にどこにどれだけ多く存在するのかに関しては、ほとんど疑問のまま残っている。
ドイツのGFZヘルムホルツ地球科学センターの研究チームが、この疑問に対するひとつの答えを出した。研究チームは、地殻プレートの衝突によってマントルの岩石が隆起して形成された山脈に、かなりの量の天然水素が埋蔵されている可能性があると、国際学術誌「サイエンス・アドバンシス」に発表した。研究チームは、欧州のピレネー山脈とアルプス山脈、アジアのヒマラヤ山脈の一部を例に挙げた。
■マントルが上昇する2つのタイプ
研究チームがこのような結論に達したのは、プレート構造のモデリングを通じてだ。天然水素が生成される過程には、バクテリアによる有機物の分解、放射性元素の崩壊による水分子の分解など数種類ある。
このうち、科学者が最も有力だとみているのは、マントルの岩石が水と反応して生成される地質学的な過程だ。マントルは地球の地殻の下の深いところにある岩石層を指す。マントル上部には、カンラン石が広く分布している。鉄成分が豊富なカンラン石が高温で水と反応して蛇紋石になる過程で、天然水素が作られる。鉄が水分子から酸素原子を奪い、水素を放出する。したがって、カンラン石が水と接触して蛇紋石が作られるためには、地殻運動によって地表面近くに上昇してこなければならない。
研究チームは、マントルの岩石が上昇して蛇紋石になるには、2種類の地質学的な変動があることを明らかにした。
1つ目は、大陸の地殻プレートが分裂して海洋盆地が開く過程だ。これによって大陸の地殻が薄くなったり割れたりすることで、マントルが上昇する。大西洋がこれに該当する。2つ目は、その後、大陸プレートがふたたび合体したり衝突したりして、海洋の盆地が閉じ、山脈が形成される過程だ。この場合もマントルの岩石が地表面側に押し出され上昇してくる。ピレネー山脈とアルプス山脈がこれに該当する。
■山脈の水素は海洋盆地より20倍多い
研究チームは、地質データに基づき2つのタイプの変動が起きる全過程をシミュレートした結果、大陸の地殻プレートの衝突による山脈形成の過程のほうが、地殻プレートの亀裂による海洋盆地の形成過程よりも天然水素を生成するうえで有利な環境となることを発見した。
山脈が作られる過程では、より多くのマントル岩石が蛇紋石に変わるのに適した200~350度にさらされるということだ。同時に、山脈の大きな断層に沿って水が循環することで、蛇紋石化の過程が大規模に進行する可能性がある。この場合、山脈で生成される天然水素量は、海洋盆地での形成の場合に比べて最大で20倍多くなると推定された。
研究チームはさらに、山脈には天然水素を大量に閉じ込めておくことができる砂岩のような岩石が多くあるが、海洋盆地にはそのような岩石がない可能性が高いことを明らかにした。
実際、化石燃料の代案を探すことに力を注いでいる欧州では、すでにピレネー山脈、アルプス山脈、バルカン半島などを中心に、天然水素の探査作業が進められている。今回の研究は、これらの山脈地域での天然水素の探査を後押しするものとみられる。
研究チームは「山脈を形成する際に天然水素の貯蔵庫が一緒に作られるためには、それより前にプレートに亀裂が生じる過程がある」とし、「探査現場の地殻運動の歴史に基づく開発と探査戦略を立てなければならない」と強調した。
*論文情報
Rift-inversion orogens are potential hotspots for natural H2 generation.
Science Advances.
doi.org/10.1126/sciadv.adr3418