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尹錫悦擁護勢力は「嫌中陰謀論」とトランプのスローガンで何を狙っているのか

登録:2025-01-13 08:21 修正:2025-01-13 10:29
尹錫悦大統領の支持者たちが12日午後、ソウル龍山区漢南洞の大統領官邸のそばで、太極旗と星条旗を振りながら弾劾反対集会をおこなっている=チョン・ヨンイル先任記者//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と与党「国民の力」の支持者たちは、弾劾政局の混乱の中、嫌中・反中陰謀論とフェイクニュースを意図的に拡散して支持層を結集させるとともに、それを「トランプ大統領は自分たちの味方」へとつなげることに集中している。

 彼らは、「リ・チャイミン(民主党のイ・ジェミョン代表の名の中国語読み)」の背後には中国共産党(中共)がいる、ドナルド・トランプは中共を滅亡させるために大統領になった人物なので1月20日に就任すれば直ちに不正選挙を解明するとともに、尹錫悦大統領を支持する、という陰謀論を作り出した。さらに深刻な問題は、与党の政治家たちがこの荒唐無稽な陰謀論をあおり、それに沿って積極的に動いているという現実だ。

 意図的な「嫌中陰謀論」のシグナルは、昨年12月12日に尹錫悦大統領が自ら放った。国会が非常戒厳の解除を要求した直後には「法的責任を回避しない」と語っていた尹大統領はその日、完全に態度を翻し、中国による安保の懸念を戒厳宣布の正当化の根拠とした。「中国人がドローンを飛ばして米国の空母と国家情報院を撮影しており、中国製の太陽光施設が全国の森林を破壊している」というものだった。

 民主党とイ・ジェミョン代表の親中イメージを意図的に標的としたこの談話をきっかけとして、イ代表と中国を結びつけて弾劾に反対し、尹大統領を擁護する文章は、あっという間にインターネットのポータルサイトのコメント欄を埋め尽くした。ソウル漢南洞(ハンナムドン)の大統領官邸前と光化門(クァンファムン)の弾劾反対デモには、「大韓民国を中国共産党にささげるな」というスローガンが登場した。

 12月31日に2人の憲法裁判官が任命され、憲法裁判所が審理を本格化する準備を整えると、国民の力の議員たちは、弾劾は親中勢力の陰謀だとする「嫌中陰謀論」に直に加担した。国民の力のキム・ミンジョン議員は今月2日、大統領官邸前で行われた尹大統領の弾劾に反対する保守派の集会で、「行く先々で中国人が弾劾訴追に賛成するために登場しており、農作業をしないトラクターが大韓民国のソウル市内を走り回っている。これが弾劾の本質」だと主張した。キム議員は、5日にはフェイスブックで「多数の中国人が尹大統領弾劾賛成集会に参加している」とする支持者の投稿と写真をシェアしている。

 4日には保守派のオンラインコミュニティーを中心として、「掃韓行動組」というステッカーが貼られた車の写真と共に、これが「韓国を除去する(滅亡させる)ための中国の行動組」だとする主張が急速に広がった。掃韓行動組は韓国の製品を「買い占める」という意味を表現した韓国製品購入代行業者であることが判明したが、根拠もなしに嫌中恐怖をあおるフェイクニュースは今も収まっていない。

 10日には国民の力のメディア特委のイ・サンフィ委員長が院内対策会議で、「厳しい時期にイ・ジェミョン代表は、中国に情報が伝わる可能性の高い新華社通信の記者を含む外国メディアの記者たちと秘密会合を開いた」として、「中国の特派員たちは中国共産党と無関係ではなく、イ・ジェミョン代表との対話の内容はそのまま中国政府に報告される恐れがある」と主張した。ところが、この会合は米国、日本、英国、中国の報道機関との懇談会であることが明らかになった。この懇談会に参加した記者たちは「深い遺憾」を表明する声明を発表して抗議したが、国民の力は釈明も謝罪もしていない。

 彼らは、すでに保守系ユーチューブチャンネルなどを中心として、嫌中が巨大な産業になっていることを政治的目的のために非常に「効率的に」悪用している。延世大学のチョ・ムニョン教授(人類学科)は、「韓国社会の根深い『反共』イデオロギーが雇用の不安定な時代にデジタルテクノロジーと出会ったことで、嫌中コンテンツは巨大な産業となった。それを政治的に利用する勢力と出会って、手のほどこしようもなく爆発している」と語った。ソウル市立大学のユン・ジョンソク教授(中国語中国学科)も、「ユーチューブで嫌中陰謀論は簡単に数十万、数百万の再生数を上げる産業になっている」とし、「政治勢力はこれを利用して局面転換を試みつつ、米中覇権競争とトランプ大統領の返り咲きによる国際秩序の変化とも巧妙につなげている」と解釈した。

ソウル漢南洞の大統領官邸のそばで、尹大統領の支持者が尹錫悦大統領とトランプ大統領を同一視し、「中国共産党(CCP)は消えろ」と記された幕を広げて立っている=パク・コウン記者//ハンギョレ新聞社

 嫌中陰謀論で支持層を結集した弾劾反対勢力は、現在の韓国の弾劾政局を、まもなくホワイトハウスに返り咲くトランプ次期大統領の「反中メッセージ」と不正選挙論につなげている。大統領官邸前の弾劾反対デモで尹大統領支持者たちは、星条旗とともにトランプ支持勢力のスローガンを掲げ、帽子をかぶっている。これらのデモ隊がトランプ大統領も好んでかぶる「MAGA」(Make America Great Again、米国を再び偉大に)帽子と似た赤い帽子をかぶり、「ストップ・ザ・スティール」(Stop the Steal)と記されたプラカードを掲げる様子は、外国メディアの大きな注目を集めた。「盗みをやめろ」を意味するストップ・ザ・スティールは、2020年の米国大統領選挙において、トランプの敗北を認めず、不正選挙を主張するスローガンだった。尹大統領の支持者たちが信じる選挙陰謀論と類似するものだ。

 嫌中陰謀論と米国のトランプ大統領の帰還に訴えるこのような現象について、亜洲大学政治学科のキム・フンギュ教授(米中政策研究所長)は、「非常戒厳の違憲性を『親米対親中』の構図へと変えるフレーム戦争で保守勢力を結集させ、尹大統領に有利に局面を転換することを狙ったもの」だとし、「中国が韓国内の各分野で無制限の戦争を繰り広げている、という保守勢力の危機意識に訴えている」と解説した。

 国民の力の政治家たちが、トランプ陣営をとりまく要人に実際に接触する動きもみられる。2016年の大統領選挙でトランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォート氏が先日、非公開で訪韓し、ホン・ジュンピョ大邱(テグ)市長、国民の力のクォン・ソンドン院内代表らと会い、9日に出国していたことが明らかになった。先月の大統領弾劾案の可決直後には、トランプの側近で保守政治活動会議の共同議長を務めるマシュー・シュラップ氏らが大統領官邸を訪れ、尹大統領と面談したと報道されている。これはトランプ大統領の当選後に対米ネットワーク構築の観点からあらかじめ決まっていた日程だが、尹大統領は弾劾案可決直後にもかかわらずこれを強行した。

 米国政治に精通する外交消息筋は、「マナフォートやシュラップらは第2次トランプ政権の中心人物ではなくロビイスト。国民の力と尹大統領の支持勢力が第2次トランプ政権の中心人物と直につながっているという証拠はない」と語った。ユーチューブでチョン・グァンフン牧師らがトランプ就任式に招待されたと騒いでいるのも、一種のフェイクニュースだ。米大統領の就任式は、外国の要人に対する招待状という概念そのものがない。彼らの誇る「就任式への招待状」とは、米国の議員が選挙区の住民に配る座席表、または入場券だ。

 尹大統領の支持勢力が憲法も真実も無視し、国を危険にさらしてでも、「強い外国勢力」であるトランプ大統領を引き入れることにしがみついていることに対しては、注視と警戒を続けなければならない。

パク・ミンヒ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1177541.html韓国語原文入力:2025-01-13 05:00
訳D.K

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