4~14日に実施された韓米合同練習である「自由の盾(フリーダムシールド)」に対抗し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国防委員長兼労働党総書記は、韓国を対象とする軍事訓練を3月だけで5回現地指導した。
北朝鮮の5回にわたる訓練は、段階的に程度を高める方式で実施された。
6日の西部主要作戦訓練基地での実働訓練は、最前線の韓国軍監視警戒所(GP)への攻撃、7日の大連合部隊砲射撃訓練では首都圏砲撃、13日の戦車部隊訓練はソウル占領、15日の航空陸戦兵部隊(空輸部隊)の訓練は韓国後方への浸透、18日の超大型放射砲発射はソウルと軍事力構造の崩壊を狙った。
これは、朝鮮半島での実際の戦争勃発・展開状況を目的とする訓練だ。有事の際には休戦ライン近くの韓国軍GPへの攻撃、長射程砲による首都圏砲撃で韓国軍の防衛ラインを崩壊させて道を開き、戦車部隊が前線を突破して戦果を拡大し、ソウルに向かって走り縦深を強打するというシナリオだ。さらに、北朝鮮の空輸部隊が韓国の後方に浸透して混乱と不安を高め、超大型放射砲(短距離弾道ミサイル)がソウルの主要施設を破壊する。
昨年12月30日の朝鮮労働党全員会議で、朝鮮労働党の金正恩総書記が「南朝鮮の全領土を平定するための大事変の準備に引き続き拍車をかけていく」と言及した後、北朝鮮軍はこれを具体的な作戦計画に合わせて訓練した。核兵器だけでなく、砲兵や戦車のような通常兵器の戦力でも韓国を圧倒できるという自信を誇示したのだ。
特に、13日の戦車部隊の訓練の際には、金委員長が自ら新型戦車に搭乗したことが注目を集めた。労働新聞は金委員長が「新型主力戦車が非常に優れた打撃力と機動力を立派に示したことに満足され、わが軍隊が世界で最も威力ある戦車を装備することになったことは強く自負するだけのことだとおっしゃった」と報じた。この「新型主力戦車」は、2020年10月の労働党創建75周年慶祝軍事パレードの際に初公開されたが、実戦配備されたという意味だ。
戦車訓練には「近衛ソウル柳京守105戦車師団」も参加した。金委員長は「近衛ソウル柳京守105戦車師団は敵の首都を占領した誇るべき歴史があり、伝統ある部隊」だとしたうえで、「全軍すべての部隊・区分隊が、今日の対抗競技に参加した105戦車師団管下の区分隊のように準備さえすれば、戦争の準備については安心できる」として満足を示したと、労働新聞が報じた。
「近衛ソウル柳京守105戦車師団」は、朝鮮戦争の際にソウルの防衛ラインを突破して一番最初にソウルを占領した北朝鮮の戦車部隊だ。本来は第9戦車旅団だったが、ソウル占領の戦功によって「105戦車師団」に昇格し、占領地である「ソウル」と「近衛」の称号が付き、「近衛ソウル105戦車師団」になった。その後、当時の師団長だった柳京守(リュ・ギョンス)の名前も追加され、現在のように「近衛ソウル柳京守105戦車師団」になった。この部隊の名称は、朝鮮戦争期に北朝鮮の戦車に抵抗もできずソウルを奪われたトラウマを思い起こさせる。
この戦車は、北朝鮮の既存の戦車に比べ、車高は低くなり、車体が長くなった。戦車に向かって飛んでくるミサイルと砲弾を迎撃する技術である「アクティブ防護システム」(APS)を備えた。戦車の防御力と生存力を高めるこうした設計方式は、韓国、米国、ロシアと中国の新型戦車がすでに採用している技術だ。
北朝鮮の新型戦車は、現代の戦車ではなかなかみられない対戦車ミサイルを砲塔の右側に装着した。韓国国防研究院のシン・スンギ研究委員は「北朝鮮の新型戦車の戦車砲の有効射程距離と貫通力が、韓国のK2戦車「黒豹」などの主力戦車に比べて劣る、あるいは砲塔の前面装甲が韓国軍の主力戦車の戦車砲の有効射程距離内で貫通する可能性が高いということを示唆している」と分析した。北朝鮮の新型戦車が、韓国の主力戦車に比べて装甲の防御力と戦車砲の破壊力が劣り、戦車砲の有効射程距離内での戦車同士の交戦で不利であるため、戦車砲の有効射程距離外で攻撃する対戦車ミサイルを別途備えたということだ。
「作戦は戦闘を勝利に導き、軍需は戦争を勝利に導く」という軍事格言がある。
戦場で装備が本来の役割を果たすには、燃料が必須だ。燃料(石油)は戦車の機動力と戦闘力に直結する。戦車は石油を大量に消費する。世界各国の主力戦車の燃費は燃料1リットルあたり200~400メートルほどだ。実戦の状況下では燃費はさらに低い。湾岸戦争当時、63トンの重量の米軍戦車M1A2は、燃料1リットルで50メートル走行したという証言もある。
北朝鮮は経済難に経済制裁が重なり、石油の確保が難しい状況だ。韓米の情報当局は、全面戦争が発生する場合、韓国と米国の攻撃によって石油保管施設が破壊され、北朝鮮軍の装備はきわめて制限的に稼動せざるをえなくなるとみている。北朝鮮に対する経済制裁が本格化する前の2006年に公開された米国ノーチラス研究所の「北朝鮮軍の戦時燃料需給能力シミュレーション」の結果によると、開戦24時間で北朝鮮の航空作戦は不可能になり、5日以内に海軍の艦艇の稼動が中断され、備蓄燃料が完全に失われれば、北朝鮮軍の装備の3分の2が止まると予測した。同研究所は、北朝鮮はエネルギー事情のため長期戦を行うことはできず、戦争が起きた場合には短期間で決着をつけることになると予想した。
北朝鮮の新型戦車の性能と北朝鮮の戦争遂行能力を考えれば、「世界で最も威力ある戦車」という金委員長の願いは、当分の間は実際には希望事項に近いとみられる。