国際原子力機関(IAEA)が福島第一原発事故で生じた汚染水の海洋放出の安全性を検討するに当たり、3回行う予定だった汚染水の試料分析を1回で済ませて最終報告書を発表していたことが確認された。また、環境モニタリングの結果を「確実に証明」するために実施した「環境試料」の分析結果もまだ出ていなかった。IAEAが最重要の試料の分析がすべて終わる前に「問題はない」との結論を下していたことが明らかになったことから、報告書の信頼性を自ら傷つけたとの批判の声があがっている。
IAEAは4日に公開した最終報告書で、3回行う予定だった汚染水の試料分析について「両試料(昨年10月に採取された2回目、3回目の試料)に対する分析が記された報告書は、2023年後半に発行される予定」だと明らかにした。試料分析は、安全性を検討するうえでの3つの構成要素のひとつである「独立したサンプリング、データの確実な証明および分析活動」の一部。IAEAは2回目と3回目の試料に対する分析結果が出ていない状態で、最終報告書の公開を強行したのだ。
IAEAは昨年12月に公開した「第3次中間報告書」で、安全性の検討過程で計3回にわたって福島第一原発の汚染水試料を採取、分析すると明らかにしている。このような計画に則り、IAEAの特別チームは昨年3月に1回、昨年10月に2回、東京電力を通じて汚染水試料を採取している。
IAEAは5月に公開した「第6次中間報告書」で、昨年3月に採取した1回目の試料をIAEA傘下の研究所と韓国の原子力安全技術院(KINS)をはじめとする4カ国の実験室で分析し、「トリチウム(三重水素)を除くと、基準値を超える核種は検出されなかった」との結果を公開している。この最初の試料は、東京電力が放出する準備ができていると判断した「K4-B」貯蔵タンクで14日間にわたり循環・かくはん設備を稼動し、試料を均質化した後に採取されたものであるため、予想された結果だと評価されている。
しかし、10月に採取された2回目と3回目の試料に対する分析結果はまだ出ていない。両試料は、多核種除去設備(ALPS)で処理された水を貯蔵する標準貯蔵タンク「G4S-B10」と「G4S-C8」から試料均質化のための循環・かくはん作業を経ずに採取されたもので、当初は今年初めにIAEAに分析結果が提出される予定だった。
最終報告書は汚染水試料だけでなく、「環境試料」の分析結果も出ていない状態で公開された。IAEAは「ALPSで処理された水を扱う東京電力と関連して、日本の当局が行った環境モニタリングの結果を『確実に証明』」するとして、昨年11月に海水、海洋堆積物、魚類、海藻類を環境試料として採取している。しかし、前日に発表されたIAEAの最終報告書は「この分析結果は今年下半期に提供する予定」だと記しているのみ。事実上、日本が提出する資料の正確さと信頼性を確認する過程である「確実な証明」が終わっていない段階で、IAEAは汚染水放出に対して「人体と環境に対する影響は非常に小さい」との結論を下したわけだ。
この他にも、IAEAが職業被ばくを判断するために行った研究所間比較(ILC)の結果も示されていない。「職業上の放射線防護」はIAEAの安全性検討の8つの技術的テーマのひとつ。IAEAはこの結果も「今年末に提供される予定」だと述べている。
IAEAが主要な試料に対する分析を終える前に「日本の放出計画は国際安全基準に合致する」との結論を下したことに対しては、批判の声があがっている。原子力安全研究所のハン・ビョンソプ所長(原子力工学博士)は、汚染水試料の分析を1回のみで終えたことは特に問題だと指摘する。同氏は「試料分析は信頼できる値を得るために3回行うのが化学分析では『みなが守るルール』であり、そのためIAEAも3回は行うことにしたのだろう」とし、「しかし、1回の結果しか出ていないのに報告書を出したということは、分析結果に大きな意味はないということを自ら立証したもの」だと批判した。原子力安全技術院に所属経験のある別の安全規制の専門家は「IAEAはできるだけ報告書を早くまとめてほしいという日本の立場に立って受託期間をぐっと繰り上げ、完成してもいない結果を出したのではないかと思う」とし、「これは信頼性に関する問題」だと述べた。