非核化進める意志と力はあるのか
さて、これから私たちはどうすれば良いでしょうか。第一に、北朝鮮の核の脅威を止めなければならないという短期的な課題があります。第二に、北朝鮮の核を廃棄し、朝鮮半島の平和と安全を確保するという長期的課題があります。
尹錫悦(ユン・ソクヨル) 大統領は最初から短期的な課題に関心を寄せていました。安全保障を重視する保守政党の大統領としては当然の選択かもしれません。
尹大統領は今年4月、米国でジョー・バイデン大統領とともに「ワシントン宣言」を発表しました。「拡大抑止を強化し、核および戦略企画について討議し、核拡散防止体制に対する北朝鮮の脅威を管理するため、新たな核協議グループ(NCG)の設立」を打ち出したのが主な内容です。
ワシントン宣言以降、私たちが北朝鮮の核の脅威から少しは安全になったのは事実です。しかし、ワシントン宣言には一つの重大な論理的矛盾があります。北朝鮮の核の脅威から私たちを守るために、北朝鮮を核保有国として事実上認めているのです。ワシントン宣言によると、私たちは今後、北朝鮮の核兵器を頭上に載せたまま、米国の核の傘だけを頼りに中途半端な姿勢で暮らしていかなければなりません。韓米両国もこうした問題点を意識したかのように、宣言の最後の部分に「朝鮮半島の完全な非核化の達成という共同の目標を進展させるための手段として、北朝鮮との前提条件のない対話や外交を確実に追求」するという一文を入れました。誰が見ても言い訳用の文言に過ぎません。
ここで私たちは尹大統領に問わざるを得ません。「一体北朝鮮の核問題をいかにして解決するつもりなのか」という根本的な質問です。ちょうどキム・テヒョ国家安保室第1次長が、6月7日に尹錫悦政権の統一・外交・安全保障戦略の骨組みを示す109ページの国家安全保障戦略書を発表しました。同戦略書における北朝鮮の核問題の解決策は次の3つでした。第一に、原則に従って一貫性のある非核化交渉を進める。第二に、「大胆な構想」で北朝鮮の非核化履行動力を確保する。第三に、北朝鮮の態度変化を引き出すために国際社会と協力する。
内容を詳しく読んでみましたが、何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。例えば、1つ目の「原則に則って一貫性のある非核化交渉を進める」案はこのようなものです。
「対話と交渉は相互尊重と信頼に基づき行われてこそ、中身のある成果につながる。これに対して尹錫悦政権は原則と一貫性を持って非核化交渉を推進していく。これは難しく大変な道のりになるかもしれないが、究極的には相互信頼と対話の土台を作る正しい道になるだろう」
何をどうするということでしょうか。二番目の「大胆な構想」は、尹大統領の昨年8月15日の光復節記念演説を丸写ししたものです。三番目の国際社会協力案もこれといった中身がないのは同じでした。
「特に核実験のような重大な挑発の際には、新たな国連安保理の対北朝鮮制裁決議案を採択し、友好国と調整して個別的な対北朝鮮制裁措置を並行する。この過程で中国とロシアが建設的な役割を果たせるよう外交力を動員する」
北朝鮮に対する新たな制裁決議案とは何か、個別の北朝鮮制裁措置とは何か、中国とロシアが役割を果たせるよう「いかにして」外交力を動員するということなのか、全く分かりません。尹大統領と国家安保室の人々に本当に非核化を進める意志と力があるのか、ただ北朝鮮が崩壊するまで待つつもりではないのか、疑念を抱かせる内容です。
米中を引き入れる壮大な構想が必要
皆さんが金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長や北朝鮮当局者なら、韓国政府の言葉を信じて非核化交渉に乗り出すでしょうか。いずれにせよ、北朝鮮は私たちを核交渉の相手とは考えていません。北朝鮮の核交渉の相手は米国です。当初は国交正常化や経済支援と引き換えに核を手放す考えもあったようですが、今は「絶対に核を放棄しない」と主張しています。
北朝鮮のこのような態度変化には、イラク、リビア、ウクライナの事例が反面教師として働いたようです。リビアのカダフィ大佐は核を放棄し、米国と国交正常化まで進めたが、北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けた反政府軍に撃たれて死亡しました。ウクライナは1990年代初め、米国とロシアの説得に応じて核兵器をすべて手放しましたが、その結果、現在ロシアの侵攻に防戦一方の戦いを強いられています。
したがって、北朝鮮が核を完全に放棄するためには、過去よりもはるかに複雑な手続きと多くの時間が必要でしょう。北朝鮮はもちろん、米国や中国など朝鮮半島周辺国まで引き入れる壮大な計画と精密なロードマップ、具体的な履行プログラムを私たちが主導的に作り上げていかなければなりません。
最後に次の文を紹介することで、この文章を締めくくりたいと思います。ハンギョレは最近、「停戦協定・韓米同盟70年」という企画記事を連載しました。イ・ジェフン先任記者が書いたシリーズ3本目の記事「朝鮮半島の平和、シーシュポスの苦闘」には次のような部分があります。
「これまで5回の南北首脳会談はシーシュポスの苦闘に他ならない。無駄な努力ではなかった。『平和繁栄の朝鮮半島』の道のりに横たわるすべての障害は、それがどんな形であれ『朝鮮半島臨時軍事停戦体制』と呼ばれる朝鮮半島の冷戦構造に根差していることを示したからだ。シーシュポスにとって『諦め』が許されないように、『平和繁栄の朝鮮半島』への道のりも果てしなく続く」
尹大統領は昨年5月10日、大韓民国の第20代大統領に就任した際、「祖国の平和的統一」に向けて努力すると宣誓しました。歴代大統領がそうだったように、尹大統領も朝鮮半島の非核化と朝鮮半島の平和に大きく貢献することを期待したいと思います。この期待は果たして現実になるのでしょうか。皆さんはどう思いますか。