ウクライナ南部のドニプロ川に位置するカホウカ・ダムの破壊によって近隣の農地が大きな被害を受けたことで、全世界の飢餓リスクが高まるという警告が発せられた。複数の国際機関から、飢餓だけでなく食中毒、飲み水不足を懸念する声があがっている。
国連世界食糧計画(WFP)は7日、カホウカ・ダムの破壊が全世界の飢饉(ききん)にさらなる悪影響を及ぼすだろうと警告した。DPAなどが8日に報じた。WFPのドイツ担当者、マルティン・フリック局長は「ダム崩壊によって、ウクライナ産の穀物に依存する全世界の3億4500万人の飢えた人々の希望が消えつつある」、「洪水は芽生えつつある植物を破壊している」と語った。
ダムが崩壊したことで、とりわけドニプロ川流域のヘルソン州、ザポリージャ州の農地に水を供給する灌漑(かんがい)システムが破壊されたことが事態を悪化させている。
国連食糧農業機関(FAO)は「数千ヘクタールの農地が浸水して最近植えられた農作物が破壊されたため、ダム破壊は食糧安全保障に影響を及ぼすだろう」と警告した。ウクライナ農業省は、ウクライナが管理するドニプロ川周辺の約1万ヘクタールの農地が浸水したとみている。世界銀行もこの日、ダム破壊の被害規模を迅速に評価し、ウクライナを支援すると発表した。
5日夜にダムが崩壊してから2日後のこの日、ウクライナの国連諸機関の代表は、被害規模を評価するとともに人道主義的対応を調整するためにヘルソンに集まった。ステファン・ドゥジャリク国連事務総長報道官は、国連人道問題調整事務所(OCHA)など5つの国連機関の代表といくつかの非政府組織(NGO)の代表が現地で評価を進めていると明らかにした。ドゥジャリク報道官は「水位が上昇し続けており、さらに多くの村が浸水しつつあるため、災害はさらに悪化するだろう」と述べた。
飲み水不足も問題だ。数十万人の人々がダム湖に飲み水を依存していたが、ダム湖の水位は急激に低下している。ウクライナ保健省は、ダムの破壊で魚の大量死だけでなく食中毒も懸念されると発表した。化学物質と病原菌が浸水地域の飲料水に流入する可能性があるというのだ。環境団体「グリーンピース」は「災害の規模を見ると、この夏からは数百万人の飲み水および農業用水の供給への影響が不可避だろう」と付け加えた。
すでに戦争で荒廃した地域の住民たちは、ダムの破壊で最後の生活の基盤まで失った。住民は浸水した村からボートで避難したが、体の不自由な高齢者や屋根に取り残された数百人の人々は救助隊を待った。
川辺には大量の魚の死骸が転がり、動物たちも死んでいるのが発見された。ロシア軍が占領中のドニプロ川下流オレシュキー市のイエフェン・リシュチュク市長は、少なくとも3人が死亡したと主張した。ロシア軍による占領後にオレシュキーを離れた同氏は、住民たちに聞いたとしてこのように語りつつ、「オレシュキーの90%が浸水し、電気、飲み水、食糧がないという人道的危機に直面しており、地下水も汚染されただろう」と語った。