尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が19日付で報道されたロイター通信とのインタビューで、ロシアと戦争中のウクライナに条件付きで殺傷力のある兵器を供与する可能性を示唆したことを受け、ロシアが反発している。実際に兵器供与が行われた場合、ロシアとの経済・安保関係が悪化する恐れがある。
尹大統領はロイター通信とののインタビューで、「ウクライナに殺傷力のある兵器供与は行わない」というこれまでの方針の転換を初めて示唆した。ロシアと戦争中のウクライナへの支援と関連した質問に「民間人への大規模攻撃や虐殺、重大な戦争法違反など、国際社会が容認できない事態が発生した場合、人道・資金援助だけに固執するのは難しいかもしれない」と答えたのだ。
同発言は26日に予定されている韓米首脳会談を控えて出たものだ。ウクライナへの軍事支援に余地を持たせた尹大統領が韓米首脳会談でもっと具体的な話をする可能性もあるとみられる。
尹大統領が同日言及した殺傷力のある兵器供与の条件に掲げたのは、見方によってはすでに現実化したともいえる。昨年4月、ウクライナの首都キーウ北西部のブチャでは民間人の大規模虐殺が起きたという海外メディアの報道があったが、ロシアはこれが「ねつ造」だと否定した。大統領室の主要関係者は同日、記者団が「(民間人虐殺などが)すでに起きているともいえる状況なので、いつでも支援できるということなのか。今後そのようなことが起きれば考慮するという意味か」と尋ねると、「状況に対する評価が重要だ」として即答を避けた。戦時に民間人被害は常に発生するもので、関連状況に対しどう捉えるかは流動的であるため、尹大統領が必要な時に米国と協議して殺傷力のある兵器供与に踏み切る可能性があるものとみられる。
米国は、ロシアとウクライナの戦争が1年以上続き、自国の砲弾在庫が不足するなど、後続の軍需支援に問題が生じたこと受け、(兵器供与に)参加するよう韓国に圧力をかけている。冷戦が終わり、米国と欧州は大規模な全面戦争はないと判断し、軍需会社を統廃合したため、ウクライナ戦争で弾薬生産量が消耗量を大幅に下回っている。一方、韓国は戦時に備えて短期間で弾薬や砲弾を大量生産できる弾薬工場を国内に保有している。
しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権に続き、尹錫悦政権も北朝鮮に対する警戒態勢の維持とロシアとの関係悪化を考慮し、兵器供与を拒否してきた。これに先立ち、昨年10月27日(現地時間)、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「韓国がウクライナに兵器を供与した場合は、韓国とロシアの関係が破綻するだろう」と警告したことを受け、尹大統領は翌日出勤時に「ウクライナに殺傷力のある兵器を供与した事実はない」としたうえで、「私たちは世界のすべての国、ロシアを含めて平和的で良い関係を維持しようと努力していることは分かってほしい」と述べた。
ロシア大統領室は同日、尹大統領の発言に対して、報道官を通じて「韓国がウクライナに兵器を供与すれば戦争関与(に当たる)」と警告した。韓国がウクライナに兵器を供与した場合、ロシアが経済報復を行い、北朝鮮の核・ミサイル計画の完成を手助けし、北朝鮮に新型戦闘機などの通常兵器を提供する可能性がある。実際、ロシア連邦安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は同日、ソーシャルメディアのテレグラムに書いた文で、尹大統領に向けて「私たちの敵を助けようと躍起になっている人が新しく登場した」としたうえで、「私たちが彼らの最も近い隣国である北朝鮮に最新兵器を提供したら、韓国国民は何と言うだろうか」と述べた。北朝鮮とロシアの軍事協力が拡大すれば、韓米日安保協力と衝突し、朝鮮半島の緊張が高まる。現代自動車やLG電子、サムスン電子などロシアに法人がある160社余りの韓国企業が保有している資産規模は数兆ウォン台と知られているが、ロシアが報復に乗り出した場合、これらの企業が被害を受ける可能性もある。
韓国がウクライナに砲弾を供与するほど(在庫が)十分な状況ではないため、安全保障の空白も懸念される。「軍需品管理訓令」によると、軍は戦時状況に備え60日間使用できる戦闘予備弾薬を備蓄することが義務付けられているが、実際の備蓄量はこれに及ばないという。