北朝鮮が無人機を韓国側に飛ばすなら我々も北朝鮮側に無人機を飛ばすという対応に、一部は「痛快だ」と言うが、懸念も大きい。このような対応は、「グローバル中枢国家」を目指す尹錫悦政権の国政目標にふさわしくない。尹錫悦政権は国際規範の順守を強調しているが、休戦ライン以北に無人機を飛ばすのは「停戦協定」違反であるからだ。停戦協定管理の任務を担っている国連軍司令部は、北朝鮮の無人機事件以降、南北の停戦協定違反の有無を調査している。無人機を北朝鮮に送った尹大統領の判断が、国連軍司令部の調査対象になったわけだ。
休戦ライン以北に無人機を送ることで韓国側が得られる軍事的利益も定かではない。航空機・無人機業務に長く関わってきた予備役空軍将官は「北朝鮮は偵察衛星や高性能偵察機がないため、無人機を送った」とし、「我々は北朝鮮全域の高解像度の写真を撮れるのに、戦術級偵察無人機をなぜ北朝鮮に送るのか」と述べた。
韓国軍は遠距離偵察資産や高高度有・無人偵察機など対北朝鮮偵察手段を複数運用している。「白頭(ペクトゥ)・金剛(クムガン)偵察機」は北朝鮮の信号情報は白頭山まで、映像情報は金剛山以北地域まで探知できる。韓国が4台運用中の高高度無人偵察機「グローバルホーク」は地上20キロメートル上空でも地上の30センチの大きさのものまで識別できる。米国の偵察衛星は北朝鮮全域を監視する。
先月26日、北朝鮮側に送られた無人偵察機のソンゴルメは、運用半径が80キロメートル、滞空時間が6時間ほどだ。ソンゴルメは戦時に戦闘状況と敵移動標的監視、砲兵射撃時の弾着調整および被害の評価を行う。ソンゴルメの性能と任務からして、平時に偵察目的で北朝鮮に送る必要はない。2014年4月の北朝鮮無人機事件の際も、朴槿恵(パク・クネ)政権が北朝鮮に無人機を送る案を検討したという。しかし、北朝鮮地域に墜落した場合の停戦協定違反の負担や無人機技術の流出などを懸念し、実行に移さなかったという。
尹錫悦政権は北朝鮮の無人機対策として監視・偵察と電子戦など多目的任務を遂行する合同ドローン司令部を早期に創設し、ステルス無人機、小型ドローンなどを年内に生産すると発表した。国防部が4日、北朝鮮の無人機対策を発表した際、これについて「防空網という盾が破られたのに、攻撃する矛の話ばかりするのか」という質問が出た。韓国軍当局はこれに対し「盾の役割が優先的に考えられるべきなのは事実だが、無人機は防御的性格の装備では防御しにくい」と説明した。
当時、国防部は合同ドローン司令部が間接支援を担当する機能司令部なのか、直接戦闘を遂行する戦闘司令部なのかについて説明できなかった。人口減少で兵力と戦闘部隊が減っている状況で、基本的な性格規定もなく、とにかく部隊を作ろうと乗り出したのだ。軍内部では合同ドローン司令部の空中空間管理権限をめぐり、空軍と陸軍が帰趨を注目している。
尹大統領が「年内までに」と釘を刺して指示したステルス無人機の開発についても、懸念の声があがっている。国防部は国防科学研究所の技術を活用し、実際年内に生産が可能になると説明した。だが、2021年10月、防衛事業庁が国産ステルス無人戦闘機「カオリ」の映像を公開した当時、軍当局はステルス無人機の開発完了時点を2033年と発表した。年内に生産するためには、当初の開発日程を10年も繰り上げなければならない。
ドローンや対空兵器の拡充だけでなく、軍防空網指揮体系の補完が急がれる。先月26日、京畿道北部を管轄する陸軍第1軍団は、首都防衛司令部に北朝鮮の無人機情報を伝えなかった。首都圏対空砲(20ミリバルカン、30ミリ飛虎)など低高度防空兵器は陸軍が、各種対空ミサイルで構成された中高度と高高度防空兵器は空軍が担当する。北朝鮮の無人機に対応した空軍戦術統制機は空軍作戦司令部が、陸軍攻撃ヘリコプターは陸軍航空作戦司令部が統制する。統合防空システムを備えるべきという指摘が出るのもそのためだ。
合同参謀本部は8日、記者団に「通知」メールを送り、「(先月26日に無人機を最初に探知した)第1軍団と首都防衛司令部との間で、状況共有と協力において不備があった」と認めた。