#20代女性のAさんは2019年3月、ビアホールで男性B氏と酒を飲んだ。酒を飲んでいたB氏は薬局に行ってくると嘘をついて近くのコンビニに行き、あらかじめ用意しておいた固体の薬物を電子レンジで溶かし、Aさんのグラスに入れた。B氏の行動を不審に思った目撃者がAさんに知らせ、警察に通報し、B氏は現行犯で警察に逮捕された。Aさんの血液と尿からは麻薬成分が検出された。B氏が密かに混ぜた薬物は「1,4-ブタンジオール」で、いわゆる「水ポン」と呼ばれるGHB(ガンマヒドロキシ酪酸)の原料だ。裁判部(仁川地裁)は傷害未遂の容疑でB氏に懲役1年を言い渡した。
#20代の女性のCさんは2019年4月、知人のD氏からもらったマグカップに入った酒を飲んで20分後に気を失った。翌日、激しい身体の痛みで前日に性行為があったという事実を知ったCさんは、(1)短時間で(2)気を失うほど酔った点を不審に思い、D氏を警察に通報した。Cさんからはゾルピデムが検出された。一審裁判部(大邱地裁)は被告に対し、強姦・傷害容疑を認め、懲役3年6カ月を言い渡した。しかし、他人にゾルピデムを使用した容疑は無罪だった。「被告がゾルピデムを購入した履歴や証拠」を明らかにできなかったためだ。
薬物を利用した性犯罪(DFSA、Drug Facilitated Sexual Assult)は、他人の認知力を喪失させるために故意に薬物を飲ませた後に犯す性犯罪をいう。米国・英国などでは性犯罪に主に使われる薬物を「デートレイプドラッグ」として別途指定し、特別管理する。一方、韓国はデートレイプドラッグを別途指定・管理もせず、全体の薬物利用性犯罪発生件数も把握していない。新種の麻薬の摘発量からおおよその規模と深刻さを推測するのみだ。
今年8月までの新種の麻薬摘発量が、昨年に比べて4倍以上増加したことが調査で分かった。5日、国会企画財政委員会所属のチャン・ヘヨン正義党議員が関税庁から提出を受けた「新種麻薬取り締まり現況」の資料によると、今年8月までの新種の麻薬摘発量は9万4532グラムで、前年の2万1378グラムより4.4倍増えた。関税庁は新種の麻薬のうち性犯罪によく使われる薬物6種(MDMA、LSD、GHB、ケタミン、ラッシュ、その他)を抽出し、チャン・ヘヨン議員に報告した。今年1年を基準にすれば、これらの摘発量と前年に比べた増加幅はさらに大きくなる。
「水ポン」と呼ばれるGHBの摘発量が特に急増した。昨年のGHB摘発量は469グラムだったが、今年はその61倍にのぼる2万8800グラムが摘発された。これは96万人が同時に投薬可能な量だ。俗に「エクスタシー」と呼ばれるMDMAの摘発量は昨年の3328グラムから6060グラム、LSDの摘発量は487グラムから931グラム、ラッシュ(RUSH)の摘発量は1万1454グラムから1万7947グラムに増えた。ゾルピデムなど「その他」の新種麻薬摘発量も前年度の4572グラムから3万6234グラムへと大幅に増えた。
税関別では、仁川(インチョン)で全体の88%(8万3421グラム)にのぼる新種の麻薬が摘発され、釜山(6.9%、6604グラム)が後に続いた。わずか5年前の2016年には新種麻薬摘発件数が「0」件だった光州(クァンジュ)税関でも、今年は3097グラムの新種の麻薬が摘発された。流入経路が「開発」されているということだ。
毎年デートレイプに主に使用される薬物がさらに増え、さらに多様な地域で摘発されているにもかかわらず、薬物使用性犯罪処罰規定と摘発力量はいずれも不十分であることが分かった。
国内には薬物使用性犯罪を処罰する別途の加重処罰規定がない。刑法299条(心神喪失または抗拒不能の状態を利用した姦淫は、3年以上の有期懲役に処する)と、「麻薬類管理に関する法律」などを同時に適用できるだけだ。しかし、麻薬類管理法は「麻薬類の自己の服用、流通、取引、所持を規制することに焦点が当てられており、他人に対する使用規制、デートレイプなど性犯罪に使用する行為に対する処罰規定は不備」という指摘(国会立法調査処、「外国のデートレイプドラッグ利用性犯罪規制と示唆点」)を受けている。
米国は21年前の2000年、連邦法で「デートレイプドラッグ禁止法」を制定した。知らない男性からもらった炭酸飲料を飲んだ後、10代の女性2人が死亡した事件がきっかけとなった。同法は、GHBなどをデートレイプドラッグと規定し、同薬物を利用して犯行を犯して捕まった場合、最大で懲役20年刑に処することができるようにした。また、毎年デートレイプドラッグの利用件数を議会に報告するようにした。
一方、韓国は、関連犯罪の現況について把握もできていない状態だ。代表的な犯罪統計の警察の「統計年報」や最高検察庁の「犯罪分析」には、薬物を利用した性犯罪関連統計は見当たらない。国会立法調査処のチョン・ユンジョン立法調査官も報告書で「デートレイプなど性犯罪に誤用・乱用される薬物が次第に多様化しているため、これに対する実態把握とともに性暴力犯罪に関与した現況を調査し、統計を構築する作業が必要だ」と指摘した
国立科学捜査研究院が2015年に薬学会誌に発表した論文から、薬物を使用した性犯罪の増加の様相をなんとか推測できる。2006年から2012年にかけて国科捜本院に薬物鑑定が依頼された性犯罪事件は計555件(2006年28件、2007年10件、2008年38件、2009年75件、2010年91件、2011年133件、2012年180件)で、年々増加している。2019年にクラブで男性客を呼び込むためにGHBの使用を黙認または販売したという疑惑が浮上した「バーニング・サン事件」が発生する7年前に集計された資料だけだ。
取り締まりも全く不十分だ。チャン・ヘヨン議員室によると、現在麻薬調査に投入された人員は仁川・釜山・ソウル・金海(キムヘ)空港の税関など計4機関61人。仁川税関に全人員の77%(47人)が集中している。釜山・ソウル税関は専門担当人員がいないため、一般職員が投入され、麻薬調査業務を兼ねている。関税庁が保有している麻薬探知機82台のうち13台(15%)は使用期限が経過している。チャン・ヘヨン議員は「バーニング・サン事件後、女性たちのGHBなどによるデートレイプドラッグに対する恐怖は続いている。急増する麻薬摘発率、変化する麻薬普及経路などを分析し、適切な場所に人的・物的インフラを普及しなければならない」と指摘した。