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台風のたびに「原発不安」…韓国の安全対策履行率は56%

登録:2021-03-11 06:17 修正:2021-03-12 03:25
昨年9月3日に台風「メイサーク」の強風の影響で稼動を停止した古里原発3号機と4号機。韓国原子力安全技術院による調査の結果、同日発生した原発の複数停止は、強風に飛ばされてきた塩分が原因であることが分かった/聯合ニュース
//ハンギョレ新聞社

 昨年9月3日未明、釜山市機張郡(キジャングン)の韓国水力原子力(韓水原)古里(コリ)原発団地で、稼動中だった原子炉4基(古里3、4号機、新古里1、2号機)が相次いで停止した。廃炉予定の古里1号機と整備中だった古里2号機も外部からの電源供給が途絶えた。古里原発団地が丸ごと止まってしまったのだ。台風9号「メイサーク」の強風によるものだった。

 原子力安全技術院(KINS)による調査の結果、古里3、4号機の停止は強風に飛ばされてきた海水の塩分が電力設備に付着し、火花が散ったことが原因だったことが確認された。新古里第1、2号機の事故は、送電塔に緩く設置されていた電線が強風で大きく揺れたのが原因だった。

 2011年3月11日の大地震と津波の影響により、日本の福島第一原発が爆発した。同年5月、李明博(イ・ミョンバク)政権は、福島第一原発爆発事故をきっかけとして、50の課題からなる原発安全改善対策を樹立し、韓水原に履行命令を下した。政府は、事故が起きた日本を追い越し、世界でもっとも早く安全対策を立てたと宣伝した。昨年発生した原発の複数停止は、この対策の実情を物語っている。

 塩分が原因となった原発停止は、2003年9月の台風14号「マエミー」でもあった。予想可能な最悪のシナリオを想定して作ったという安全対策の実態は、すでに発生していた問題も考慮していないお粗末な対策だったわけだ。原安委と韓水原は昨年9月、事故後になってようやく塩分付着を防ぐための設備変更に乗り出した。

 福島第一原発事故の後続安全対策は、一定規模以上の地震が発生した際に、原子炉を自動停止させるシステムの構築▽重大事故に備えた格納容器建屋の排気・減圧装置の設置▽水素爆発を防ぐ受動型水素除去装置の設置▽津波に備えた海岸防壁の増築▽浸水時の冷却系統の維持に必要な移動型発電車両と蓄電池の確保など、韓水原が遂行すべき47の事業と原子力研究院などの関連機関による3つの事業で構成される。総事業費は1兆1226億ウォン(約1070億円)。同事故後の日本の安全対策事業費に比べれば、とてつもなく小さな額だ。

事業費の最重要対策、白紙に戻ってからの変更手順

 松山大学経済学部のチャン・ジョンウク教授は「日本は愛媛県の伊方原発3号機の安全対策費だけに1700億円(約1兆7800億ウォン)を使用し、それとは別に対テロ設備の建設予算として230億円(約2400億ウォン)を現在執行している」と語る。韓国のすべての原発を対象にした安全対策事業費は、日本の1つの原発事業費にも及ばないということだ。この事業費すら、実際の履行過程で半分となった。事業個数は56に拡大されたにもかかわらず、事業費はかえって6070億ウォン(約578億円)に減少したのだ。予想より委託事業の落札価格が下がった他、一部の課題を縮小遂行したため、コストが削減されたというのが韓水原の説明だ。

 李明博政権は、後続安全対策を2015年までに完了することを決めている。しかし、原安委が共に民主党のハン・ジュンホ議員(同党老朽化原発安全調査タスクフォース幹事)に提出した資料によると、最初に発表された50の事業のうち、地震に備えた安全停止維持系統の耐震性能の改善、▽冷却機能の喪失事故に備えた原子炉非常冷却水の外部注入流路の設置、▽格納容器建屋内から電力供給なしに水素を除去する受動型水素除去装置の設置、の3つの事業は2018年にようやく完了している。非常電力系統などの主な安全装置の浸水に備えた防水扉と防水型排水ポンプの設置、▽主蒸気安全弁室と非常給水ポンプ室の浸水を防ぐための施設の補完、の2つの事業は、昨年末になっても原子力安全技術院の完了判定を受けていない。特に、後続対策の総事業費の44%(2651億ウォン、約252億円)が投入されることになっていた格納建屋の排気・減圧装置の設置は全面的に修正され、完了は2024年に延期されている。

一部の事業は2024年にようやく…対策終了した課題にも批判

 安全対策に沿った格納建屋のろ過排気装置(CFVS)の設置は、2012年に月城(ウォルソン)1号機で初めて行われた。しかし、安全基準を満たすことが難しいと評価され、他の原発へは拡大設置できていない。韓水原は、設置された装置の撤去作業に入っている状態だ。月城1号機に同設備を設置するための基礎工事の過程では、使用済み核燃料プール下部の遮水幕に穴が開く事故まで起きた。この事故の損傷部は未だ復旧されておらず、最近問題となっているトリチウム(三重水素)の地下流出の原因の一つと目されている。

 韓水原の関係者は「検討の結果、排気・減圧装置より高流量移動型ポンプを利用した方が安全性に優れているということになり、代替設計を進めている」と述べた。安全対策を代表する事業は、すでに投入されたおよそ500億ウォン(約48億円)と原状復帰費を浪費しただけで、事実上白紙に戻されたわけだ。完了した事業に執行された事業費を基準とすれば、福島の原発事故から10年が経った現時点においても、後続安全対策の履行率は56%にすぎない。

 完了した事業も、当初の発表とは違っていたり、ずさんに進められたという疑惑が持ち上がるなど、問題が少なくない。受動型水素除去装置(PAR、日本語では「静的触媒式水素再結合器」などと呼ばれる)の設置、安全停止維持系統の耐震性能の改善などが代表的な例だ。

 PARの設置は、格納建屋の排気・減圧装置とともに、福島第一原発で発生したような水素爆発を防ぐための最重要事業だ。これには56の後続対策の中で最も多い514億ウォン(約49億円)が投入された。同事業はすでに2013年から問題となっている。古里3、4号機など11の原発に、試験成績書が偽造された装置が設置されていたことが、検察の捜査で明らかとなったためだ。このため原安委が再試験を行い、「性能には問題がない」と発表したものの、しばらく経ってから専門機関による再試験結果報告書すら操作されていたという疑惑が浮上した。

 この問題は最近、特定メーカーの製品の性能が規格の30~60%に過ぎず、作動中に火花か散る危険性があるという内部告発が報道され、再び批判を浴びている。韓水原が原安委に報告した資料によると、実際にドイツのある専門機関が実施した試験では、装置に装着されたセラミック触媒のコーティングが落ち、火花が散るように飛ぶ現象が確認された。

 これについて韓水原は先月19日、原安委で「摂氏500度を超える高温の過酷な試験環境で出た結果」と釈明した。しかし「国外製品に用いられている金属触媒は温度が800度まで上がるのに、500度が過酷な環境だと言うのか」と問う原安委員たちを納得させることはできなかった。問題となったメーカーの製品は、国内で稼働している24の原子炉のうち、新古里(シンゴリ)1~4号機と新月城(シヌォルソン)1、2号機を除く18の原子炉に設置されている。

最悪の原発事故発生から10年を迎える福島第一原発に、廃炉作業のためのクレーンが複数設置されている。10年前の水素爆発で傷ついた鉄筋をあらわにしていた原子炉建屋は、カバーで傷跡を隠している/聯合ニュース

 「安全停止維持系統の耐震性能改善」は、稼働原発が設計基準(地盤加速度0.2g、gは重力加速度)を超える地震でも安全に停止するよう、関連設備の耐震性能を0.3g程度にまで補強する事業だ。原子炉冷却材の圧力制御と残留熱除去、使用済み核燃料の冷却機能などに関する系統と設備などが対象となる。

「冷静な分析なしに慌てて対策を立てたことが問題」

 韓水原は、安全停止維持に必要な3万8561の機器を選び出し、耐震性能を評価。その後、古里2号機の格納建屋の温度・水位計測器など46個を交換し、283個を補強した。残りは耐震性能の試験・評価を行っただけで課題を終えている。この課題の事業費は914億ウォン(約87億円)が確保されたものの、4分の1の206億ウォン(約19億6000万円)に減っている。このうち、設備の交替と補強に投入されたのは90億4000万ウォン(約8億6100万円)。事業費の半分以上が試験・評価の委託費用として支出されたものだ。

 月城2、3、4号機の設計にかかわった「原子力の安全と未来」のイ・ジョンユン代表は、「後続安全対策の課題に投入された事業費を見ると、ハード面での改善はごく一部にとどまっており、ほとんどが工学的評価を行って問題がないという結論を出しただけで終わっている」と述べた。

 原子力工学者でもある原子力安全研究所のハン・ビョンソプ所長は「すでに建設された原発で耐震性能を高めることは容易ではないため、いざやろうとしても、することがなかっただろう」とし「福島後続対策は、国民を安心させるための見せかけの事業にとどまった」と述べた。

 後続安全対策がずさんだとの批判を浴びるのは、十分な準備もなく拙速に作られたためだとの指摘だ。原子力安全委員会のキム・ホチョル委員は「どのような対応が効果的なのか、技術力はあるのかなどについての、冷静な分析や評価を行わずに対策を慌てて立てたことが原因の一つ」と述べた。ハン・ジュンホ議員は「後続安全対策は事故直後に慌てて作られたため、履行過程で問題が発生した。全般的に検証する必要がある」と述べた。

 韓国が官民合同の専門家による1カ月ほどの点検の結果をもとに慌てて安全対策をまとめていた時、欧州連合はすべての原発に「ストレステスト」を行うためのガイドラインを作っていた。原発を設計基準以上の災害が襲った状況を想定したこのテストによって、脆弱な部分を正確にあぶり出し、対策を立てるためだった。

 欧州連合は2012年4月、140を超える域内のすべての原発に対して、このテストを終えた。事故収拾に追われていた日本も、この時までに50の原発を対象とするストレステストを終えていた。韓国では、ストレステストは2015年になってようやく古里1号機と月城1号機で初めて実施された。その後、残りの原発にも拡大したが、いまだ最終結果は確定していない。

キム・ジョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/986270.html韓国語原文入力:2021-03-10 19:23
訳D.K

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